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出会い

彼の告白

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ゆうきサイド

久しぶりにすっきりと目が覚めた。

すがすがしい朝だった。

雨もあがって、朝の陽ざしが窓からカーテン越しに明るく輝いている。

昨夜の信じられない自分の痴態を思い出して一人で頭の中でジタバタした後、まだ眠っていると思っていた隣の少年の顔を見た。

少年は切れ長の黒い大きな瞳を、ぱっちりと開いて、私を真っ直ぐ見つめていた。

熱を含んだ瞳とでも言ったらいいのだろうか。

子供がこんな表情をするなんて。

昨夜のお風呂で本当は意識があったのだろうか?

親戚の甥っ子とは別の生き物みたいだ。

それにしても美しい少年だなぁ。

この間、0.5秒。私の脳内処理速度は朝から高性能だ。

「おはよう。起きてたんだね。びっくりしたよ。起こしてくれても、よかったのに。」

少年は、鮮やかな花のように微笑んで

「おはようございます。ぼくも、ちょうど今、起きたんです。昨夜は本当にありがとうございました。御恩は一生、忘れません。」

少年は身体を起こして深々と頭を下げた。

「そんな。大げさだよ。急に倒れたけれど身体は大丈夫?」

つられて起き上がって、ベットの上に座って少年と向き合った。

「はい。お陰様で。すっかり回復しました。」

「そう?無理しないでね。そういえば、名前も聞いてなかったね。私はゆうき。山口ゆうきというの。君は?」

にっこり微笑んで少し首を傾げて尋ねた。頭の中では昨夜の出来事の記憶が回って混乱しているけれど、おくびにもださない。だせないよ、あんな事。

すぐに答えが返ってくると思ったのに、困ったような顔をして少年はゆうきを見つめている。

「名前は、まだ無いんです。」

そんな猫が学生時代に読んだ小説の中に出てきたなと、ふと、この場面に全く関係ない事を思いついてしまう。

それにしても、名前がないとはどういう事なんだろう。と返事に窮していると

「ずっと考えたんですけれど、ゆうきさんには全部、正直に話すことに決めたんです。聞いてもらえますか?ぼくの話。」

真剣に、そう言う少年の話を「聞きません」と言うわけにもいかず、素直に頷いた。


「ぼくは人間ではありません。昨日生まれた淫魔という種族なんです。」


ええと、私は日本人だけど、日本語が、よく理解できなかったぞ。爽やかに目覚めたつもりだったけど思ったより疲れているのかな?

「え?何?ごめん。もう一度、言ってくれるかな?よくわからなかったの。」


「こんな事、急に言っても信じられないですよね。頭がおかしいと思うでしょうね。」

少年は小さく苦笑して

「でも。本当なんです。」

と続ける。

「証拠を見せる事も出来ます。それには魔力が少し足りないのでキスしていいですか?」

そう言うと、返事も聞かずに少年は私の頭を華奢な両手で抱き込んで唇を合わせた。

その時、私は完全に固まって口をしっかり閉じていた。

少年は唇を少し舐めてから一度、耳元で「少し力を抜いて。」と、ゾッとするほど優しい妖しい声で囁いた。

その途端、身体から、ふっと力が抜けて、もう一度少年が唇を合わせた時には、何の抵抗もなく、滑らかで小さな舌が滑り込んできた。

「ん、ん、ん~。」

何が何だかわからなくなりそうだった。少年の背中をパシパシ叩く。少年は一度、唇を離してから

「もう、少しだけ。キスするだけだから。大丈夫だから。」

と、意味不明な事を囁いた。そう言われると、どうしてか強く抵抗出来なくなってゆく。再度、唇を合わせられ舌が絡まり、チュクチュクと水音をたてて、暫く貪られる。

いつの間にか、柔らかく押し倒されていて、一方的に与えられる粘膜の接触が気持ち良い。このまま、目を閉じて何も考えずに、どこかに流れて行きたい。そんな気分になってゆく。

「これくらいで充分です。ありがとう。」

と、少年はお礼を言って、唇の端から流れた一筋の唾液もペロリと舐めとってから、その淫靡な仕草とはうらはらに上品に微笑んだ。

それからTシャツのお尻の辺りをゴソゴソして太めのロープくらいの黒いツヤツヤした紐のようなモノをペロンと取り出した。

「触っても良いですよ。ぼくの尻尾。頂いた魔力で実体化しました。」

目前の差し出された緩く動く蛇のような物体。先端に向かって緩やかに細くなってゆき先端だけは楕円形に丸く膨らんでいる。もし、少年が猫だったら確かにこれくらいの長さの尻尾が生えているだろうと、力の抜けた身体でぼんやり思った。

「お尻も見ますか?生えているところ。」

次々と与えられる新しい情報に、頭はパンク寸前だ。

さっきまで、ぐちゅぐちゅしたキスをされて、次は尻尾。言われるままにフラフラ起き上がると、そうっと手を伸ばす。そろりと黒い表面を撫でる。思ったより、ずっと滑らかで人肌みたいに暖かくサラサラしている。

少年が、ピクっと身体を震えわせる。何だか色っぽい。

「触ると痛かったりするの?」

心配になって尋ねると

「優しく触ってくれたから、全然、大丈夫です。でも、急所だから敏感なんです。普段は消して隠しています。切られたら死んでしまうから。」

「そんな大切な事を私に教えてしまっていいの?」

「構いません。どの道、昨日ゆうきさんに会えていなかったら、ぼくは消えて死んでいたでしょうから。」

「じ、じゃあ、お風呂では、意識の無いフリをしていたの?」

「え?お風呂?ごめんなさい。覚えていません。」

「ホントに覚えてないの?」

「何か……しましたか?」

ゆうきは少年の瞳が妖しく光った気がした。
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