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番外編 高志くんの甘い災難
目覚めたら夢はだいたい忘れてる
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引き続きイブサイド
さくらぎたかしが口付けた髪をスンスン嗅いでいる気配がするのだが。
やめてくれないだろうか。
いたたまれない。
好きなだけ触っていいよとは言ったが嗅いでいいよとは言ってないのだが。
「ねえ」
彼が珍しく色めいた声音で、あたしに声をかける。
「な、何」
「髪の他も触って良い?」
「え、ど、どこを?」
さくらぎたかしが、いままでに見せて事もないくらい甘くて意地悪そうな笑顔を見せる。
「本能のおもむくままに」
ニンマリ。
そう、この笑顔を表現するのは、これしかないっ。
そんな笑顔だ。
さっきの自分の言葉を撤回したいのだが。
思った事をスラスラ話せるのはいいが、実は余計な事まで話しているのではないだろうか。
「い、いいけど」
ちょっと、びびって声に力が無いのは大目に見て欲しい。
自分からだと威勢がいいけど、予定外の出来事には滅法、弱いのだ。
「楽しいね」
楽しくない。
髪を弄んでいた彼の掌が、あたしの頬を、ふんわり包み込む。
親指と人差し指で耳たぶを摘まむように挟んで揉む。
「ぅあ」
なんか、ビクッとする!
今、彼の身体と心の回路は遮断している。
心、つまり脳の興奮(あたしで興奮するとしてだが)が、極力身体に影響しないように防御壁を張っている状態だ。
普通は、そんな事しないので夢の中で興奮したら寝てる身体も心拍が上がるし、血流も良くなる。
そうすると、彼の場合、命にかかわるから実験的にやってみたのだ。
だから、寝ている彼の身体が性的に反応することは無い。
夢の中でも、それは、理論的に有効のはず………………だよね?
ただ、夢だから理性とかは効かない筈だ。
良くも悪くも夢の中で自分に嘘はつけないから。
そのまま指先をスルリと首筋まで撫で下ろした。
もう一方の手も、あたしの髪ごと抱き込んで、身体も密着してるし抱き合っていると言って良い。
「っふぁ」
「嫌じゃない?」
「や、じゃ、ない」
「可愛い。小さい」
「髪の毛ふわふわ」
「良い匂い」
夢の中でお世辞を言う事は無いはずだから、これは彼の本音だ。
心の中が、くすぐったいで一杯だ。
きゅうっと抱きしめられた。
「こうしたかったんだよね」
「あ、あたしも!こうされたかったよ」
さくらぎたかしは、すこし腕の力を緩めて、あたしの瞳をジッと見つめた。
「良い夢。可愛い。イブ可愛いね。可愛い」
後は「可愛い」しか言えなくなったみたいで、オデコやら頬やら顔中に何度もバードキスされた。
「………そう言えば、あれ、ボクの初めてのキスだったんだよね」
ふと、キスを止めて、彼がポツリと思い出したように言った。
あれって、あれって、あの初日に襲ってしまったアレか。
アレは無かった事にして欲しい。
こちらとしても誠に遺憾の意を表明させていただきたい。
「ごっ、ごめんなさい」
「本当に好きな人としか、口にキスしちゃいけないんだよ」
ちょっとだけ拗ねた口調で、咎めるように、彼が言った。
「え!?それって、決まってることなの?」
そんな規則があるとは知らなかった、あたしは青くなる。
「いや………決まって無いけど、少なくともボクの中ではそうだったってだけで、………まあ、する予定もなかったから、どうってわけじゃないんだけど………」
モニョモニョと後半は何やら歯切れが悪い。
「本当にごめんね。好きでもないのに、2回もさせちゃって」
「え、いや、でも、気持ち良かったし」
「気持ち良かった?!」
つい、食い気味に聞き返す。
「イブは………気持ち良くなかった?」
「美味しかった」
「そっか、美味しかったのか………うん、良かった………する?」
「うん、する」
さくらぎたかしが顔を寄せてくる。
「あ、でもいいの?好きな人じゃなくても」
「イブ可愛いし、………もう好きだと思う。それに、キス美味しいんでしょ。たくさん食べてよ」
これ以上、喋る事は無いとばかりに彼は唇を合わせた。
彼の方からキスしてきたのは初めてだったから、あたしは結構、緊張した。
ちょっと固まっていたかもしれない。
好きと思うって言われたし。好きって。
しばらく唇をくっつけてから離した。それを何度か繰り返して、くっつけたままで彼は舌先で、あたしの唇を、そっと撫でた。
「ねえ、口、開いてよ」
緊張して固く口元を閉じたままの、あたしの唇の間に、そう言ってから舌を押し付けてくる。
自分も使った言葉だけれど、これって結構、なんか、破壊力がある。
サキュバスの方が、今までキスもした事が無かった青年に押され気味。
それも、相手は欲情していない………サキュバス失格!!確定!
通常、淫魔は夢の中でも、相手が欲情して交わってくれたら、精気が貰える。
もちろん、現実に交わる方が断然、精気の質も量も多いけれど、まだ力の弱い淫魔とかが、良く使う手だ。
さくらぎたかしは欲情していない。
でも、穏やかに精気が流れ込んでくる。
そう言えば、会った時から、何の意味もなく触れただけで、彼は私に精気をくれている。
人って、みんなそうなのか?
いや、サキュバスの本能は、生まれた瞬間に、あたしに告げていた。
獲物を見つけて、誘惑して、同意を取ったら一刻も早く速やかに狩れと。
さもないと消えてしまうと。
あたしは彼に言われた通りに口元から力を抜いて薄く開いた。
彼の舌が遠慮がちに入り込んでくる。
あたしも、その柔らくて温かいものを歓びと共に歓迎してあげる。
前回のような陶酔してしまう精気は流れ込んでは来ない。
ああ、これは、きっと「好き」の気持ちの味。
とても、気持ちいい。
長い間、舌を絡めあって唾液を啜りあっているうちに、また景色が変わった。
家の彼の部屋のベッドの上だ。
ゆっくりと押し倒された。
さくらぎたかしの動きは緩慢で穏やかだ。
そのまま、濃厚な口付けが続く。
お互いの息遣いと、僅かに、ちゅ、くちゅと水音が、静まり返った部屋に響く。
頭がボーっとして、身体がフニャフニャになった頃、ようやく長い口付けから解放された。
「美味しかった?」
穏やかな瞳で、柔く微笑んで、あたしを見つめるさくらぎたかしに、ぼんやりしたままで答えた。
「………………気持ち良かった」
彼は、何故か驚いて目を見開いた。
「気持ち良かったの?もっと、続きしても良い?」
彼の色白の喉仏が、ゴクリと上下して、あたしを抱きしめていた腕が解かれて、掌が太腿を撫でながらワンピースの裾から滑り込んでくる。
うわ、どうしよう!どうする、あたし!
と、混乱していたら、突然さくらぎたかしの姿がブレて消えた。
………………良かった。
彼が目を覚ましてくれたみたいで。
さくらぎたかしが口付けた髪をスンスン嗅いでいる気配がするのだが。
やめてくれないだろうか。
いたたまれない。
好きなだけ触っていいよとは言ったが嗅いでいいよとは言ってないのだが。
「ねえ」
彼が珍しく色めいた声音で、あたしに声をかける。
「な、何」
「髪の他も触って良い?」
「え、ど、どこを?」
さくらぎたかしが、いままでに見せて事もないくらい甘くて意地悪そうな笑顔を見せる。
「本能のおもむくままに」
ニンマリ。
そう、この笑顔を表現するのは、これしかないっ。
そんな笑顔だ。
さっきの自分の言葉を撤回したいのだが。
思った事をスラスラ話せるのはいいが、実は余計な事まで話しているのではないだろうか。
「い、いいけど」
ちょっと、びびって声に力が無いのは大目に見て欲しい。
自分からだと威勢がいいけど、予定外の出来事には滅法、弱いのだ。
「楽しいね」
楽しくない。
髪を弄んでいた彼の掌が、あたしの頬を、ふんわり包み込む。
親指と人差し指で耳たぶを摘まむように挟んで揉む。
「ぅあ」
なんか、ビクッとする!
今、彼の身体と心の回路は遮断している。
心、つまり脳の興奮(あたしで興奮するとしてだが)が、極力身体に影響しないように防御壁を張っている状態だ。
普通は、そんな事しないので夢の中で興奮したら寝てる身体も心拍が上がるし、血流も良くなる。
そうすると、彼の場合、命にかかわるから実験的にやってみたのだ。
だから、寝ている彼の身体が性的に反応することは無い。
夢の中でも、それは、理論的に有効のはず………………だよね?
ただ、夢だから理性とかは効かない筈だ。
良くも悪くも夢の中で自分に嘘はつけないから。
そのまま指先をスルリと首筋まで撫で下ろした。
もう一方の手も、あたしの髪ごと抱き込んで、身体も密着してるし抱き合っていると言って良い。
「っふぁ」
「嫌じゃない?」
「や、じゃ、ない」
「可愛い。小さい」
「髪の毛ふわふわ」
「良い匂い」
夢の中でお世辞を言う事は無いはずだから、これは彼の本音だ。
心の中が、くすぐったいで一杯だ。
きゅうっと抱きしめられた。
「こうしたかったんだよね」
「あ、あたしも!こうされたかったよ」
さくらぎたかしは、すこし腕の力を緩めて、あたしの瞳をジッと見つめた。
「良い夢。可愛い。イブ可愛いね。可愛い」
後は「可愛い」しか言えなくなったみたいで、オデコやら頬やら顔中に何度もバードキスされた。
「………そう言えば、あれ、ボクの初めてのキスだったんだよね」
ふと、キスを止めて、彼がポツリと思い出したように言った。
あれって、あれって、あの初日に襲ってしまったアレか。
アレは無かった事にして欲しい。
こちらとしても誠に遺憾の意を表明させていただきたい。
「ごっ、ごめんなさい」
「本当に好きな人としか、口にキスしちゃいけないんだよ」
ちょっとだけ拗ねた口調で、咎めるように、彼が言った。
「え!?それって、決まってることなの?」
そんな規則があるとは知らなかった、あたしは青くなる。
「いや………決まって無いけど、少なくともボクの中ではそうだったってだけで、………まあ、する予定もなかったから、どうってわけじゃないんだけど………」
モニョモニョと後半は何やら歯切れが悪い。
「本当にごめんね。好きでもないのに、2回もさせちゃって」
「え、いや、でも、気持ち良かったし」
「気持ち良かった?!」
つい、食い気味に聞き返す。
「イブは………気持ち良くなかった?」
「美味しかった」
「そっか、美味しかったのか………うん、良かった………する?」
「うん、する」
さくらぎたかしが顔を寄せてくる。
「あ、でもいいの?好きな人じゃなくても」
「イブ可愛いし、………もう好きだと思う。それに、キス美味しいんでしょ。たくさん食べてよ」
これ以上、喋る事は無いとばかりに彼は唇を合わせた。
彼の方からキスしてきたのは初めてだったから、あたしは結構、緊張した。
ちょっと固まっていたかもしれない。
好きと思うって言われたし。好きって。
しばらく唇をくっつけてから離した。それを何度か繰り返して、くっつけたままで彼は舌先で、あたしの唇を、そっと撫でた。
「ねえ、口、開いてよ」
緊張して固く口元を閉じたままの、あたしの唇の間に、そう言ってから舌を押し付けてくる。
自分も使った言葉だけれど、これって結構、なんか、破壊力がある。
サキュバスの方が、今までキスもした事が無かった青年に押され気味。
それも、相手は欲情していない………サキュバス失格!!確定!
通常、淫魔は夢の中でも、相手が欲情して交わってくれたら、精気が貰える。
もちろん、現実に交わる方が断然、精気の質も量も多いけれど、まだ力の弱い淫魔とかが、良く使う手だ。
さくらぎたかしは欲情していない。
でも、穏やかに精気が流れ込んでくる。
そう言えば、会った時から、何の意味もなく触れただけで、彼は私に精気をくれている。
人って、みんなそうなのか?
いや、サキュバスの本能は、生まれた瞬間に、あたしに告げていた。
獲物を見つけて、誘惑して、同意を取ったら一刻も早く速やかに狩れと。
さもないと消えてしまうと。
あたしは彼に言われた通りに口元から力を抜いて薄く開いた。
彼の舌が遠慮がちに入り込んでくる。
あたしも、その柔らくて温かいものを歓びと共に歓迎してあげる。
前回のような陶酔してしまう精気は流れ込んでは来ない。
ああ、これは、きっと「好き」の気持ちの味。
とても、気持ちいい。
長い間、舌を絡めあって唾液を啜りあっているうちに、また景色が変わった。
家の彼の部屋のベッドの上だ。
ゆっくりと押し倒された。
さくらぎたかしの動きは緩慢で穏やかだ。
そのまま、濃厚な口付けが続く。
お互いの息遣いと、僅かに、ちゅ、くちゅと水音が、静まり返った部屋に響く。
頭がボーっとして、身体がフニャフニャになった頃、ようやく長い口付けから解放された。
「美味しかった?」
穏やかな瞳で、柔く微笑んで、あたしを見つめるさくらぎたかしに、ぼんやりしたままで答えた。
「………………気持ち良かった」
彼は、何故か驚いて目を見開いた。
「気持ち良かったの?もっと、続きしても良い?」
彼の色白の喉仏が、ゴクリと上下して、あたしを抱きしめていた腕が解かれて、掌が太腿を撫でながらワンピースの裾から滑り込んでくる。
うわ、どうしよう!どうする、あたし!
と、混乱していたら、突然さくらぎたかしの姿がブレて消えた。
………………良かった。
彼が目を覚ましてくれたみたいで。
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