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番外編 高志くんの甘い災難

高志くんの災難4

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「食べてもらうのも、こうなるとなかなか難しいんだね」

どうしたものかと考え込んでしまう。何となくだけれどサキュバスの食事は、こう………相手が色々やって勝手に食べてくれると思っていたのだが、確かに死を覚悟して同時に楽しむ事は容易に出来るものではないかもしれない。

「失敗………ここ?」

彼女は、そっと小さな右手でボクの心臓の辺りを触れた。

「失敗?あ、うん、そう、ここが悪いんだ。よくわかったね」

「ここが………魔力で視ると………濁ってる」

触れられた部分が、ポワポワ暖かい気がする。
そう言えば、診察以外で誰かに触れられたのは久しぶりだ。………………ついさっきの衝撃的な突発的事故的接触を除けば。

「そうやって君に触れられると温かくて気持ちいい………………気がする」

「気持ちいい?」

「うん、気持ちいい」

彼女が嬉しそうにボクを見上げて弾けるように笑った。

発作とは違う痛みが心臓のあたりで、僅かに疼くように感じられたのは気のせいだろうか?

自然に彼女に両腕を回してしゃがみこみ軽く抱き込む。
彼女は右手はボクの胸に当てたまま左手を背中に回してくっついてくる。
自分を拒否しないで抱きしめ返してくれる存在にこんなに飢えていたんだなと気付く。

「ここに居てくれないかな。ボクは、良い食材ではないと思うけど、どちらかが消えるまでそばにいてはいけないかな?………少なくともボクは正直に言うとね、一人で消えるのは怖いんだ。君がそばに居てくれたら嬉しい」

ボクが死んでしまうまでと言う事は出来なかった。

しばらく、そうやってお互いに緩く抱き合っていた。

「うん………………そばにいる………約束する………………あ………名前がいる………名前」

「そういえば、名乗ってなかったよね。ボクの名前は桜木 高志。君は名前が無いんだったね」

「名前………約束に………必要。さくらぎたかし………付けて。名前」

いつもより幾分、早口で催促するかのような口調が可愛らしい。

「高志でいいよ。名前か………うーん、どうしようかな」

名前を付けるとは責任重大だが、こんなのは直感が大事だ、サクッと決めよう。
「そうだね~。裸で平気なところとか、楽園にいた頃のアダムとイブみたいだから、女の子だしイブとかどう?」

「とても良い………イブ。イブは………約束する………たかしのそばにいる」

うっとりとした表情で「イブ」「イブ」と繰り返す少女を微笑ましく見守っていたこの時は、淫魔の真名を賭けた約束が、そんなに重いものだとボクは知る由もなかった。


ボクとイブの不思議な共同生活は、こうして始まった。

イブは人間の食事を全く食べなかった。
かろうじて水や紅茶などを飲むことは出来たが、それに意味はないようだった。
飲んでも飲まなくてもいい嗜好品程度。身体を維持する為に必要なのは精気なのだという。

姿を大人にするのにも、髪や瞳の色を変化させる為にも魔力が必要で、魔力は人の精気をたくさん吸収すると使えるようになるらしい。

何度もボクの精気を食べる事を固辞するイブをキスくらいならと説得して精気を与える許しを得る。
彼女になるべくたくさんの精気を与えて、ボクがいなくなってからも一人で生きていけるようにしてあげたい。
彼女は、心臓を守りながら食べると言って、ボクの胸の上にしばらく手のひらを乗せた。




「口………開けて………うん………そう………舌出して」


そんな扇情的な言葉を、小さな女の子から平坦な声で言われる。
ボクは今、イブをベッドに組み敷くようにして覆い被さって、彼女の言うまま口を開けてだらしなく舌を出している。心臓にしっかりと手を当てたまま、下からイブがボクの舌先を舐める。
開けてままの口から唾液が流れて落ちそうになるのをボクの舌ごと唇をしっかり合わせて一滴たりとも零さず飲み込む。
頭がジンジン痺れるような背徳的な快楽と興奮に、このまま死んでしまうのではないかと思う。
いや、正確には死んでしまってもいいかもしれないなとおもっている。
彼女の身体が、もし大人だったら服を脱がせて、たくさん触って本懐を遂げたい。
其れが例え未遂で終わってしまっても。

触れる事が憚られる今の彼女ですら、敏感な部分を見たり触れたりしてみたいのだから自分が嫌になる。
本当の子供相手にそんな事、考えるだけでも下衆だ。
無理にそんな行為を強いる男も女も唾棄すべき対象だと断言出来るのに。

これは彼女の食事だ。ボクは彼女に捧げられる糧。彼女が成長する為の贄だ。
そう思い込まなければ暴走して彼女に酷いことをしてしまいそうだった。

無心に舌先を擦り合わしながらボクを貪るイブの陶酔した顔を薄目を開けて覗き見る。

その情景も含めてゾクゾクするような快楽だ。

普段なら、こんな事を1日に二度もしていて呼吸困難にならないわけがないのだが。
いつ大きな発作を起こして倒れてもおかしくない状態なのに。

彼女が胸に触れた事で何か身体に変化があったのだろうか。
さっき抱き合った後から少しだけ身体が軽い気がする。
このところは、体調が悪いのが普通という状態だったから、特殊な状況とはいえ異性とのこんな生々しい口付けを自分が二度も経験するとは思いもしなかった。

それでも、やはり疲れていたのだろう。早朝からの様々な出来事と長いキス(給餌行為)に、ボクは、いつの間にか眠ってしまっていた。

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