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「くそっ!ここまでやっても勝てないのか!」

人類世界最強と名高い勇者と呼ばれている男が膝をついた。

「もう魔力が持ちそうにないです…」

死んでなければどんな傷さえも治すことが出来る聖女と呼ばれている女の魔力が尽きた。

「くそ!俺はここまでなのかっ!」

剣の腕だけなら勇者に負けず劣らずの実力を持つ剣豪と呼ばれた男の剣が砕け散った。

他にも英雄と呼ばれた人達がいるが全員が全員、ボロボロで傷だらけだ。

「妾には勝てぬよ!勝てぬよ!そなた達が人間達の間で英雄と呼ばれているようだが妾にとっては関係のないことよ!」

英雄達の目の前に立ちはだかるのはこの世で見たことがないほど美しい女だった。だが美しい見た目に騙されてはいけない。こいつは世界の破壊を求め実行しようとしている存在だからだ。

「だからと言って僕たちは諦めるわけにはいかない!勝てないのなら勝つまで諦めない!」

勇者は持っている聖剣を支えにして立ち上がる、膝は震えて立つのも精一杯のようだ。

「そろそろ俺の出番かな?」

俺は倒れている英雄達の前にそして1番前にいて、ただ1人立ち上がろうとしている勇者よりも前に出る。

「れ…レイン…なんで…ま…待ってくれ…僕はまだ戦えるんだ」

勇者は前に出た俺に辛そうな表情を浮かべ一歩また一歩と俺に向かって近づいてくる。だが傷だらけで立つのもやっとな状態なので歩くたびに端正な顔が歪む。

「ありがとう…お前、お前達はよくやってくれたよ…だから後は俺に任せてくれ」

人類最強と名高い勇者と世界でも名のある英雄達が束になっても敵わない相手に俺はこれから1人で戦おうとしていた。

「《封印》を使うつもりなんだろ…だけど…それを使ってしまったら君が……」

「あぁ、あいつに倒すには《封印》の力しか無いからな」

俺は別に勇者より強い……とかそんなことはない。何をしたって俺は勇者に勝つことはできないだろう、勇者どころかこの場にいる英雄達誰1人として俺は勝つことはできないだろう、だが俺には俺だけの特別な力があった、それが《封印》の力だ。この《封印》の力は人間以外のモノならなんでも封印することができる力だ。それなら初めから使っていれば勇者達が傷つくこともなかったじゃないかと思うかもしれないがこの力を使うには代償が必要なんだ。その代償は封印する対処によって内容と大きさが変わるのだ。例えば小石を封印するなら多少の魔力を消費するだけで大丈夫だが意思がある存在とかだと小さいモノや弱いモノでも寿命を削られたり何日も目が覚めなくなるとかだったりと色々ある。

「あの相手を封印するってなるとその代償も大きくなるはずだ!」

「まぁそうだな…今までの比じゃないことは確かだろう」

そう意識あるモノを封印するってだけで代償はかなり大きいのだから、意思がありなおかつ人類最強と呼ばれている勇者、そして勇者率いる世界で名高い英雄達が一丸となって戦っても勝てなかった相手だ。しかも相手はまだまだ余裕そうで底が知れないそんな存在を封印するってなると今まで封印して払って来た代償よりと確実に大きく想像もできないような代償を払わなければならないだろう。

「最悪死んでしまうかもしれない!」

「そうかもな」

あいつを封印するための代償で俺は死んでしまうかもしれない。

「だから!」

「だから! 僕が戦う! って言うんだろうなお前は」

俺は最初から死んでも構わないと一人であいつを封印するつもりだった。だが勇者は俺が一人であいつの元へ行こうとしているのに気が付き阻止して来たのだ。そして勇者は俺に力を使わせないためにもあいつの元へ自分が戦うと言って各地の英雄達に頼み込み協力を得てあいつの元へ戦いに向かったのだ。

「だがお前ではあいつには勝てない」

「そ…そんなことは……」

そんなことはないと言いたいのだろう。だが勇者の口からその言葉が出ることはない。実際に戦ってみてあいつに勝てるビジョンが浮かんでこない。それは一番前で戦っている勇者が一番わかっている、無理矢理にでもわからされているところだろう。

「後ろを見てみろよ…」

「う…しろ……?ッッッ」

勇者は前を、前だけを向いて戦っていた。それは別に後ろを気にしていないわけではないのだろう。うしろに気を向けられるだけの余裕がない、それほどまでに勇者とあいつの力には差があるのだ。

「勇者であるお前はまだ戦えるかもしれない、だが後ろの連中はもう立ち上がることさえできないだろう」

「……ッッッッッッ!」

勇者は後ろを振り返り言葉にできない程のショックを受けた顔をした。勇者に協力して一緒に戦ってくれていた英雄達はボロボロで誰一人として無事な奴はおらず誰一人として立ち上がっている者はいなかった。

「そう言うことだ、ありがとうな」

「…ぼ………僕はなんにもッッ……」

勇者も後ろを振り返りようやく今の状態を知ることが出来たのだろう。勇者は自分が戦えるのだから仲間も戦えると思っていたのだろう。だが実際には戦える者は勇者ただ一人だけだ。ある者は手をある者は足をある者は大量の血を失っていたのだ。辛うじて息はしているがこれ以上戦うことはもちろん今すぐ回復に努めないと生きられる保証はなかった。

「それじゃ後は任せた」

「………うんッッ……」

俺は勇者に後のことを任せてあいつの元へ向かう。

「なんじゃ?そなたがやるのか?そなたはそこの勇者と呼ばれている奴より弱そうなんじゃが妾を楽しませてくれるのか?」

「すまないなお前を楽しませてやることはできないよ、一瞬で終わるからな!《封印》」

俺はあいつに向かって《封印》を使う。

そして俺とあいつは姿を消したのだった。
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