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龍の本気
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室内がふいに陰ったと思ったら、ぽっかり開いた部分から巨大なドラゴンがぬっと顔を覗かせていた。
ドラゴン!この世界で初めて見た!
あまりの大きさに思わず耳を伏せて、尻尾を股の間にはさんじゃった。
僕なんか一飲みで食べられちゃいそう。
ひぃん、一難去ってまた一難なの?
蒼色のドラゴンは巨大な体躯と似合わない可愛らしい仕草で、きょろきょろと何かを探している。
目が合ったと思ったら、ドラゴンの背後にぱぁっと花が咲いて、ぶんぶんと尻尾を振っている気配を感じる。
ん?この既視感・・?
「ヨゾラミツケタ。」
嬉しそうにそう言うドラゴンの口から、ぷすんと炎のブレスが漏れた。
夜空がドラゴンと出会うその少し前。
「転移陣が起動?・・今日はもう予定は無いはずだが。」
クリアゼの騎士達が身構えていると。現れたのは翠と蒼の賢者だった。
「どうなされ・・グッ・・。」
ロベリアとラダが放つ強い龍気にあてられ、騎士達は言葉半ばでその場に膝をついた。
2人はそんな騎士達を気にも留めず城内へと歩を進める。
道すがら出会う人全てが、荒ぶる龍気に耐え切れず次々と昏倒していく。
進む先はシーアの貴賓室。
先触れも名乗りも上げず部屋へ踏み込めば、ケネス以外は膝を屈した。
―ほう我等の龍気に耐えるか―
「夜空が攫われた。あの子は貴殿から送られたブローチを身に付けている。貴殿の気を手繰る為同行して貰うぞ。拒否権は無い。」
「よ・・夜空ど・殿が・。」
―これが龍気。一瞬でも気を緩めたら落ちる―
ケネスは、意識を保っているのがやっとだ。攫われたと言う夜空の事を問いたいのに、ぐらつく事しか出来ない己の有様に、きつく臍を噛んだ。
ロベリアは、自分と変わらぬ背丈のケネスを軽々と担ぎ上げ、庭園に出る。
城内の異変に気づいた騎士達、魔導士達が集まり、賢者の暴挙に声を荒げる。
だが、龍気の強さに防御陣を張り、遠巻きにしか諫める事ができない。
「お待ちください!賢者殿!何故この様な事を!」
「ヒカエヨ。」
『蒼』の賢者がしゃべった?
その瞬間、集まった騎士、魔導士が一斉膝を落とし、指一本も動かせない状態になった。言葉さえ発する事も出来ない。
言霊に魔力が乗せられている!
物静かな『蒼』の賢者が、この様な圧倒的な制圧力を有しているとは。
龍種という生き物は、その気になれば言葉一つでこの場の命を一瞬で刈り取る事など造作もないのだと、その事実に人々は恐れを抱いた。
だが幸いにもラダからは、殺気が感じられない。
「ラダ時間がない。頼むぞ。」
「ワカッタ。」
ラダがそう呟くと、恐ろしい程の魔力渦が庭園に吹き荒れる。収まったと思うとそこには深い海の様な蒼い巨大なドラゴンが鎮座していた。
「ノレ、トバスゾ。」
その巨大な体躯からは想像できない程、静かに翼を広げ、ふわりとドラゴンは飛び立った。
「さて夜空の気配はこの方角ですか・・どうやらシーアの方ですね。」
『タナカ殿、今何処です?』
動けぬケネスの背に手を当てて、夜空の気配を探りつつ、視線は前方に向けたまま念話を飛ばす。
『翠殿、坊はシーアの最奥の廟におるようじゃ。じゃがご丁寧に精霊避けの結界もはられておるわい。わし等でも入れんほど強固な多重結界じゃ。ええい目と鼻の先に坊が居るとわかるのに、口惜しや。』
・・時間が惜しいからとクリアゼの城内の人々を龍気で昏倒させ、ケネスさんを拉致して、ひとっ飛び、田中さん達と合流して、これまた、まどろっこしいからとラダさんがブレス一発で廟の屋根を多重結界ごと一気に吹っ飛ばしたと。
わぁい・・龍が本気になったら国が滅ぶって、現実味を帯びてきたよ・・。
良かった僕無事で。
「夜空が中にいるというのに、屋根を吹っ飛ばすとは!破片が落ちたらどうするんです!この考え無しの馬鹿ラダ!」
「そうじゃ!そうじゃ!ブレスと練り始めた時はまさかと思うたが、本当にぶっ放すとは、肝が冷えたぞい!」
狼の僕をがっしり抱き込み、ロベリアは頭上のラダさんを怒っている。
田中さん達も、遥か彼方ラダさんの頭の上で、小さなお手手でぺちぺちと叩いている。当然ながらラダさんにはノーダメージだ。
「ソンナヘマハシナイ。」
ドラゴンのラダさんがしゃべってる。
ちょっと片言で、口の端からブレスが漏れてるけど。
人型で話さないのは、先祖返りで口からブレスが漏れるし、言葉に強すぎる龍気がのって危険だから日頃は自分で封印してるんだって。・・わぁ衝撃の真実。
ドラゴン!この世界で初めて見た!
あまりの大きさに思わず耳を伏せて、尻尾を股の間にはさんじゃった。
僕なんか一飲みで食べられちゃいそう。
ひぃん、一難去ってまた一難なの?
蒼色のドラゴンは巨大な体躯と似合わない可愛らしい仕草で、きょろきょろと何かを探している。
目が合ったと思ったら、ドラゴンの背後にぱぁっと花が咲いて、ぶんぶんと尻尾を振っている気配を感じる。
ん?この既視感・・?
「ヨゾラミツケタ。」
嬉しそうにそう言うドラゴンの口から、ぷすんと炎のブレスが漏れた。
夜空がドラゴンと出会うその少し前。
「転移陣が起動?・・今日はもう予定は無いはずだが。」
クリアゼの騎士達が身構えていると。現れたのは翠と蒼の賢者だった。
「どうなされ・・グッ・・。」
ロベリアとラダが放つ強い龍気にあてられ、騎士達は言葉半ばでその場に膝をついた。
2人はそんな騎士達を気にも留めず城内へと歩を進める。
道すがら出会う人全てが、荒ぶる龍気に耐え切れず次々と昏倒していく。
進む先はシーアの貴賓室。
先触れも名乗りも上げず部屋へ踏み込めば、ケネス以外は膝を屈した。
―ほう我等の龍気に耐えるか―
「夜空が攫われた。あの子は貴殿から送られたブローチを身に付けている。貴殿の気を手繰る為同行して貰うぞ。拒否権は無い。」
「よ・・夜空ど・殿が・。」
―これが龍気。一瞬でも気を緩めたら落ちる―
ケネスは、意識を保っているのがやっとだ。攫われたと言う夜空の事を問いたいのに、ぐらつく事しか出来ない己の有様に、きつく臍を噛んだ。
ロベリアは、自分と変わらぬ背丈のケネスを軽々と担ぎ上げ、庭園に出る。
城内の異変に気づいた騎士達、魔導士達が集まり、賢者の暴挙に声を荒げる。
だが、龍気の強さに防御陣を張り、遠巻きにしか諫める事ができない。
「お待ちください!賢者殿!何故この様な事を!」
「ヒカエヨ。」
『蒼』の賢者がしゃべった?
その瞬間、集まった騎士、魔導士が一斉膝を落とし、指一本も動かせない状態になった。言葉さえ発する事も出来ない。
言霊に魔力が乗せられている!
物静かな『蒼』の賢者が、この様な圧倒的な制圧力を有しているとは。
龍種という生き物は、その気になれば言葉一つでこの場の命を一瞬で刈り取る事など造作もないのだと、その事実に人々は恐れを抱いた。
だが幸いにもラダからは、殺気が感じられない。
「ラダ時間がない。頼むぞ。」
「ワカッタ。」
ラダがそう呟くと、恐ろしい程の魔力渦が庭園に吹き荒れる。収まったと思うとそこには深い海の様な蒼い巨大なドラゴンが鎮座していた。
「ノレ、トバスゾ。」
その巨大な体躯からは想像できない程、静かに翼を広げ、ふわりとドラゴンは飛び立った。
「さて夜空の気配はこの方角ですか・・どうやらシーアの方ですね。」
『タナカ殿、今何処です?』
動けぬケネスの背に手を当てて、夜空の気配を探りつつ、視線は前方に向けたまま念話を飛ばす。
『翠殿、坊はシーアの最奥の廟におるようじゃ。じゃがご丁寧に精霊避けの結界もはられておるわい。わし等でも入れんほど強固な多重結界じゃ。ええい目と鼻の先に坊が居るとわかるのに、口惜しや。』
・・時間が惜しいからとクリアゼの城内の人々を龍気で昏倒させ、ケネスさんを拉致して、ひとっ飛び、田中さん達と合流して、これまた、まどろっこしいからとラダさんがブレス一発で廟の屋根を多重結界ごと一気に吹っ飛ばしたと。
わぁい・・龍が本気になったら国が滅ぶって、現実味を帯びてきたよ・・。
良かった僕無事で。
「夜空が中にいるというのに、屋根を吹っ飛ばすとは!破片が落ちたらどうするんです!この考え無しの馬鹿ラダ!」
「そうじゃ!そうじゃ!ブレスと練り始めた時はまさかと思うたが、本当にぶっ放すとは、肝が冷えたぞい!」
狼の僕をがっしり抱き込み、ロベリアは頭上のラダさんを怒っている。
田中さん達も、遥か彼方ラダさんの頭の上で、小さなお手手でぺちぺちと叩いている。当然ながらラダさんにはノーダメージだ。
「ソンナヘマハシナイ。」
ドラゴンのラダさんがしゃべってる。
ちょっと片言で、口の端からブレスが漏れてるけど。
人型で話さないのは、先祖返りで口からブレスが漏れるし、言葉に強すぎる龍気がのって危険だから日頃は自分で封印してるんだって。・・わぁ衝撃の真実。
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