上 下
44 / 47

龍の本気

しおりを挟む
室内がふいに陰ったと思ったら、ぽっかり開いた部分から巨大なドラゴンがぬっと顔を覗かせていた。

ドラゴン!この世界で初めて見た!
あまりの大きさに思わず耳を伏せて、尻尾を股の間にはさんじゃった。
僕なんか一飲みで食べられちゃいそう。
ひぃん、一難去ってまた一難なの?

蒼色のドラゴンは巨大な体躯と似合わない可愛らしい仕草で、きょろきょろと何かを探している。
目が合ったと思ったら、ドラゴンの背後にぱぁっと花が咲いて、ぶんぶんと尻尾を振っている気配を感じる。

ん?この既視感・・?

「ヨゾラミツケタ。」

嬉しそうにそう言うドラゴンの口から、ぷすんと炎のブレスが漏れた。


夜空がドラゴンと出会うその少し前。

「転移陣が起動?・・今日はもう予定は無いはずだが。」

クリアゼの騎士達が身構えていると。現れたのは翠と蒼の賢者だった。

「どうなされ・・グッ・・。」

ロベリアとラダが放つ強い龍気にあてられ、騎士達は言葉半ばでその場に膝をついた。
2人はそんな騎士達を気にも留めず城内へと歩を進める。
道すがら出会う人全てが、荒ぶる龍気に耐え切れず次々と昏倒していく。
進む先はシーアの貴賓室。

先触れも名乗りも上げず部屋へ踏み込めば、ケネス以外は膝を屈した。

―ほう我等の龍気に耐えるか―

「夜空が攫われた。あの子は貴殿から送られたブローチを身に付けている。貴殿の気を手繰る為同行して貰うぞ。拒否権は無い。」

「よ・・夜空ど・殿が・。」

―これが龍気。一瞬でも気を緩めたら落ちる―

ケネスは、意識を保っているのがやっとだ。攫われたと言う夜空の事を問いたいのに、ぐらつく事しか出来ない己の有様に、きつく臍を噛んだ。
ロベリアは、自分と変わらぬ背丈のケネスを軽々と担ぎ上げ、庭園に出る。

城内の異変に気づいた騎士達、魔導士達が集まり、賢者の暴挙に声を荒げる。
だが、龍気の強さに防御陣を張り、遠巻きにしか諫める事ができない。

「お待ちください!賢者殿!何故この様な事を!」

「ヒカエヨ。」

『蒼』の賢者がしゃべった?

その瞬間、集まった騎士、魔導士が一斉膝を落とし、指一本も動かせない状態になった。言葉さえ発する事も出来ない。

言霊に魔力が乗せられている!

物静かな『蒼』の賢者が、この様な圧倒的な制圧力を有しているとは。
龍種という生き物は、その気になれば言葉一つでこの場の命を一瞬で刈り取る事など造作もないのだと、その事実に人々は恐れを抱いた。
だが幸いにもラダからは、殺気が感じられない。

「ラダ時間がない。頼むぞ。」

「ワカッタ。」

ラダがそう呟くと、恐ろしい程の魔力渦が庭園に吹き荒れる。収まったと思うとそこには深い海の様な蒼い巨大なドラゴンが鎮座していた。

「ノレ、トバスゾ。」

その巨大な体躯からは想像できない程、静かに翼を広げ、ふわりとドラゴンは飛び立った。

「さて夜空の気配はこの方角ですか・・どうやらシーアの方ですね。」

『タナカ殿、今何処です?』

動けぬケネスの背に手を当てて、夜空の気配を探りつつ、視線は前方に向けたまま念話を飛ばす。

『翠殿、坊はシーアの最奥の廟におるようじゃ。じゃがご丁寧に精霊避けの結界もはられておるわい。わし等でも入れんほど強固な多重結界じゃ。ええい目と鼻の先に坊が居るとわかるのに、口惜しや。』


・・時間が惜しいからとクリアゼの城内の人々を龍気で昏倒させ、ケネスさんを拉致して、ひとっ飛び、田中さん達と合流して、これまた、まどろっこしいからとラダさんがブレス一発で廟の屋根を多重結界ごと一気に吹っ飛ばしたと。

わぁい・・龍が本気になったら国が滅ぶって、現実味を帯びてきたよ・・。
良かった僕無事で。

「夜空が中にいるというのに、屋根を吹っ飛ばすとは!破片が落ちたらどうするんです!この考え無しの馬鹿ラダ!」

「そうじゃ!そうじゃ!ブレスと練り始めた時はまさかと思うたが、本当にぶっ放すとは、肝が冷えたぞい!」

狼の僕をがっしり抱き込み、ロベリアは頭上のラダさんを怒っている。
田中さん達も、遥か彼方ラダさんの頭の上で、小さなお手手でぺちぺちと叩いている。当然ながらラダさんにはノーダメージだ。

「ソンナヘマハシナイ。」

ドラゴンのラダさんがしゃべってる。
ちょっと片言で、口の端からブレスが漏れてるけど。
人型で話さないのは、先祖返りで口からブレスが漏れるし、言葉に強すぎる龍気がのって危険だから日頃は自分で封印してるんだって。・・わぁ衝撃の真実。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ポンコツ天使が王女の代わりに結婚したら溺愛されてしまいました

永江寧々
恋愛
フローリアの仕事は天使として恋人や夫婦、赤ん坊に神の祝福を届けること。 結婚式の鐘の音、赤ん坊の喜ぶ声、幸せそうな両親の笑顔。 フローリアにとって天使は生まれながらにして天職であり、誇りでもあった。 同じ顔、同じ性格、同じ意思を持つ天使たちの中で顔も意思も別物を持って生まれた異端者であるフローリア。 物覚えが悪く、物忘れが激しいマイペースさは天使の中でもトップで、所謂【出来損ない】のレッテルを貼られていた。 天使長アーウィンの頭痛の種であるフローリアも一人前と認められれば神から直々に仕事を任されるのだが、成績が最下位であるフローリアはなかなかその機会が巡ってこない。 神から直々に受ける仕事は【神にその努力を認められた者の願いを一つ叶えに行く】こと。 天使にとって最大の名誉ともなる仕事。 成績最下位の出来損ないであるフローリアが受けられるはずもない仕事だが、神の気まぐれによって直々に与えられることとなった。 フローリアが任された相手はとある国の王女様。 願い事は【私の代わりに王女になって】 天使に拒否権はない。 これは神が人間に与える最大の褒美。どんな内容でも叶えなければならない。 戸惑いながらも叶えることになったフローリアは願いと引き換えに天使の証明であり誇りでもある羽根を失った。 目を覚まし、駆け込んできた男女が『お父様とお母様よ』と言う。 フローリアはいつの間にか王女クローディア・ベルの妹、フローリア・ベルとなっていた。 羽根も天使の力も失ったフローリアは人間として生きることを決意するが、クローディアの代わりに受けた縁談で会った美しい王子は顔を合わせた直後「結婚してください」と膝をつき—— 恋心を持たない天使が王子から受ける過剰ともいえる愛情で少しずつ変わり始めていく。 溺愛主義な王子とポンコツな元天使の恋愛物語。 ※改筆中

剣と魔法の世界で俺だけロボット

神無月 紅
ファンタジー
東北の田舎町に住んでいたロボット好きの宮本荒人は、交通事故に巻き込まれたことにより異世界に転生する。 転生した先は、古代魔法文明の遺跡を探索する探索者の集団……クランに所属する夫婦の子供、アラン。 ただし、アランには武器や魔法の才能はほとんどなく、努力に努力を重ねてもどうにか平均に届くかどうかといった程度でしかなかった。 だがそんな中、古代魔法文明の遺跡に潜った時に強制的に転移させられた先にあったのは、心核。 使用者の根源とも言うべきものをその身に纏うマジックアイテム。 この世界においては稀少で、同時に極めて強力な武器の一つとして知られているそれを、アランは生き延びるために使う。……だが、何故か身に纏ったのはファンタジー世界なのにロボット!? 剣と魔法のファンタジー世界において、何故か全高十八メートルもある人型機動兵器を手に入れた主人公。 当然そのような特別な存在が放っておかれるはずもなく……? 小説家になろう、カクヨムでも公開しています。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

処理中です...