人狼ちゃんのあべこべ転移奇譚

後ろ向きミーさん

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想い

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「そうだね。僕にはちょっと婚約とか早いかも・・。」

いえ、決してそんな事はないのですが。
どちらかと言えば、さっさと身を固めて頂いた方が混乱が少ないかと・・。
とは言えない宰相一同。

「バァン!」

図書館の扉がものすごい勢いで開かれた。何事かと一斉に向けられた視線の先には銀糸の髪・・当議案の最大要注意案件『翠』のロベリアその人だった。

「夜空、戻りが遅いので迎えに来ましたよ。」

「え?もうそんな時間?わざわざお迎えなんて、ありがとうロベリア。」

とてとてと近寄り、ぎゅむと抱き着く夜空にロベリアは蕩け顔だ。
だから、いちいち可愛いな夜空様!

「いえいえ。何か嫌な気配を感じましてね。外れた事はないんですよ、この不快な感じ・・ふふっ。よもや夜空に何かあったのではと思いましてね。先ぶれなく登城した次第です。顔が赤い様ですが何事かありましたか?」

ニコニコ顔のロべリアがぐるりと居合わせて皆を見回す。
明らかにその目は笑っていない。
恐るべし『翠』の感。

「えっと、色々あったんだよ、帰ってから話すね。皆さんお疲れさまでした。今日は、僕の為に忙しいのに残ってくれてありがとうございました。」

ヒラヒラと手を振る夜空。

戦争反対・家内安全・めざせ円満長寿!
説明、頑張るよみんな!
ふんす!、と気合いを入れて帰る夜空に和むとともに、一抹の不安がよぎる会議参加者の面々だった。

大丈夫なのか?夜空様・・。


元々私は平民の出、出自もわからぬ根なし草だ。
物心つかぬ歳に導師に引き取られたとは聞いているが、実の所は『黒』持ちの扱いに困った両親に売られたのだろう。
『黒』の力を生かすべく魔導士になる以外進むべき道の無い私の心は、いつも空虚だった。

成るべくしてなった筆頭魔導士の地位に何の感慨もなく、責務と後身の指導に明け暮れる日々。
次代が育てば、いつでも退く事が出来る様身辺はいつも身綺麗にし、生活も必要最低限の物で整えてある。
当たり前だ、何一つ自分の物ではないのだから・・。
栄誉も恩賞も常に拝辞した。

王もついに私に与える事は諦め、

「ケネス、私は『黒狂い』と言われているが、お前を物として、手元に置いておこうなどと考えた事は一度もないよ。お前に心動く事ができたなら、筆頭を退いても構わん、好きに生きるがよい。それが私からの褒美とする。お前はそれだけこのシーアに尽くしてきたのだからな。・・まぁ、困らぬ様に次代だけは、きっちり育てておいてくれよ。」

と、ありがたい言質は頂いている。

クリアゼに『黒』が現れたと聞いた時は複雑な思いに駆られた。
黒一房の私でさえ、様々な柵と思惑に翻弄され続けてきたのに、彼の人は双黒だというではないか。
どれだけ歪に蝕まれている事か・・。

鬱とした思いを抱えたまま、初めて夜空殿と会った時の驚きは言葉にいい表せない。

曇のない、清廉無垢な『黒』が佇んでいた。

小さく愛らしい、18になると聞いたがとてもそうは見えない。
見事な刺繍のゆったりとした漆黒の衣装をまとう姿は、ひらひらと舞う美しい蝶の様だ。
共に訪れたシーアの者も見惚れている。
クリアゼの者達と朗らかに談笑し、ころころと変わる表情、良く笑う。

『欲しい』 初めて心が動いた。

想いのまま求婚を申し出たが、戸惑い赤くなる夜空殿のなんと素直で、可愛いらしい事か。
『翠』『蒼』の愛し子を射止めるには困難を極めるだろう。だか諦める事も、引くつもりも微塵もない。

夜空殿、どうか私の側に。



何故、この方は一線を退く事に躊躇も迷いもないのか?
何故あれだけの力持ちながら、何もかも捨てるような事が出来るのか。

しかもあの『黒』の安楽な事よ。
忌々しさに思わず歯噛みした。
あんな子供が『黒』とは、とんだ宝の持ち腐れだ。
私ならどんなに有意義に使える事か。

あぁ、力が欲しい。
何故私じゃないのだ。
何故ここでくすぶっているのだ。
私はここにいる人間ではないに。
もっと・・。
もっと・・。

・・妬ましい・・。
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