上 下
17 / 47

王様に呼ばれました

しおりを挟む
―僕はこの世界に戻って来た―
ひょんな事から知りあった、田中さんと鈴木さんの精霊判定で、その事が確定し、僕の心の曇りは少し晴れた。

直ぐにでも、狼の村へ出向こうと意気込む田中さん達だったが、結果先延ばしになった。理由は、まだ手の離せない仕事を抱えたロベリアがごねたから。

「私には、保護者としての責任があります。私抜きなんてありえません。夜空との初お出かけ、ずるいです。」

いや、最後のセリフが本音でしょう。

とは言え、何故転移したのか?そもそも原因が分からない。
不安要素は残ったままだから、図書館通いはまだ続けるつもり。
今日は図書館じゃなく、お茶会に行くんだけどね。

最初は、おっかなびっくりだったこの暗い転移陣の部屋の雰囲気にも、すっかり慣れてきた。

今日の訪問の衣装は、黒地に銀糸で草花の小さい刺繍が施されていて、ワンポイントは花芯につけられた青いラピスラズリ。
松明の灯りを受けてキラりと光る。
袖はゆったり広がって、指先が少ーし見えるこれが譲れない絶妙な長さなんだって。

そう、総じて可愛いがあふれた衣装だ。

ラダさんから贈られた衣装なんだけどこの繊細さ、当然お値段はるんだろうなー。
金額の事を考えると、ハシビロコウみたいな表情になっちゃうよ。
皆には与えて貰ってばかりで、何か返せないだろうか?

「シキさん、ヒガさん。今日もよろしくお願いします。」

今日も騎士服がかっこいい二人だ。

「夜空様、今日も可愛いですね。いつも言ってるけど、俺らにさん付けはいらないよ。」

ヒガさんが、目線を合わせる様にかがんで、ニヒッと笑う。

「僕はかっこいいを目指したいんですがね。お世話になっているんだし、こればかりはゆずれませんね。我儘と思って、いい加減諦めて下さい。」

僕もニヒっと笑い返す。
そのやり取りを見ているシキさん、王城に来るたびに繰り返されるルーティンだ。

謙虚な日本人気質の僕としては、そんな偉そうになんて振舞えない、無理いわないで。

「夜空様。今日はお茶会に向かう前に、王に御目通り願います。」

王様に会うのは、初謁見以来だね。

「わかりました。何でしょうね?」

シキさんとヒガさんに案内されながら、王様の元へ向かう。
不自然に遠回りしているみたいだけど、王様の安全を考えてだろうね。
まぁ、狼の方向感覚と嗅覚を持ってる僕にはあんまり意味ないけど、とは言えるはずも無く、ここはおのぼりさんよろしく、ついでに王城見学出来るので、問題無し。

すれ違う騎士さんや、文官さん達に、何故か初めてのお使いの子供を愛でる様な温かい目でみられるのが解せぬ、ぐぬぬ。

案内された部屋は、前と違ってこじんまりした、機能的な部屋だった。
政務室ってやつかな?
おう、机の上の山積み書類、テンプレだぁ。

「ひさしいな、黒。息災か?」

「はい、王様こんにちは。ご無沙汰しております。図書館の使用許可に護衛騎士つけていただいたお礼もまだでした。感謝しています。」

「お、おぅ、そうか。」

えー何。
素直にお礼言っただけなのに、意外そうな顔は、僕そんなに尊大な印象があったのかな?
あ、いや違うな。
ロベリアにいつもきつく当たられてるから、構えてたんだ。
すいません王様、うちの父がプレッシャーかけまくって。

「今日は、賢者の義務についてだ。そなたが古今東西の古文書を、苦も無く読み解いていると報告が上がってきている。」

僕の動向は逐一あがってるのか、まぁそりゃそうか、城内でウロウロしてるしなー。
うーん、この間の藪の中のお茶会も報告したのかしら?

「魔導書の解読に尽力せよ、それを持って黒の義務とする。まずは、隣国の魔導士が訪れる、かの国から持参した遺物をひも解け。日程などは追って沙汰する。」

なるほど。語学チートのお仕事ですか。

「承りました。楽しそうなお仕事、ありがとうございます。喜んで協力させていただきます。」

だから、なんでそこで動揺するの。
そして、ニマニマしない王様。
口元隠れてないですよ。
ロベリア、いつもどんな失礼な対応してるのさ、戻ったら聞いてみよう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家出令嬢が海賊王の嫁!?〜新大陸でパン屋さんになるはずが巻き込まれました〜

香月みまり
恋愛
20も離れたおっさん侯爵との結婚が嫌で家出したリリ〜シャ・ルーセンスは、新たな希望を胸に新世界を目指す。 新世界でパン屋さんを開く!! それなのに乗り込んだ船が海賊の襲撃にあって、ピンチです。 このままじゃぁ船が港に戻ってしまう! そうだ!麦の袋に隠れよう。 そうして麦にまみれて知ってしまった海賊の頭の衝撃的な真実。 さよなら私の新大陸、パン屋さんライフ〜

ポンコツ天使が王女の代わりに結婚したら溺愛されてしまいました

永江寧々
恋愛
フローリアの仕事は天使として恋人や夫婦、赤ん坊に神の祝福を届けること。 結婚式の鐘の音、赤ん坊の喜ぶ声、幸せそうな両親の笑顔。 フローリアにとって天使は生まれながらにして天職であり、誇りでもあった。 同じ顔、同じ性格、同じ意思を持つ天使たちの中で顔も意思も別物を持って生まれた異端者であるフローリア。 物覚えが悪く、物忘れが激しいマイペースさは天使の中でもトップで、所謂【出来損ない】のレッテルを貼られていた。 天使長アーウィンの頭痛の種であるフローリアも一人前と認められれば神から直々に仕事を任されるのだが、成績が最下位であるフローリアはなかなかその機会が巡ってこない。 神から直々に受ける仕事は【神にその努力を認められた者の願いを一つ叶えに行く】こと。 天使にとって最大の名誉ともなる仕事。 成績最下位の出来損ないであるフローリアが受けられるはずもない仕事だが、神の気まぐれによって直々に与えられることとなった。 フローリアが任された相手はとある国の王女様。 願い事は【私の代わりに王女になって】 天使に拒否権はない。 これは神が人間に与える最大の褒美。どんな内容でも叶えなければならない。 戸惑いながらも叶えることになったフローリアは願いと引き換えに天使の証明であり誇りでもある羽根を失った。 目を覚まし、駆け込んできた男女が『お父様とお母様よ』と言う。 フローリアはいつの間にか王女クローディア・ベルの妹、フローリア・ベルとなっていた。 羽根も天使の力も失ったフローリアは人間として生きることを決意するが、クローディアの代わりに受けた縁談で会った美しい王子は顔を合わせた直後「結婚してください」と膝をつき—— 恋心を持たない天使が王子から受ける過剰ともいえる愛情で少しずつ変わり始めていく。 溺愛主義な王子とポンコツな元天使の恋愛物語。 ※改筆中

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

処理中です...