人狼ちゃんのあべこべ転移奇譚

後ろ向きミーさん

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姫さま大好き

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クリアゼ国の末の姫アイディーカは、祝いの席さえまだ始まっていないというのに、内心すでに疲れていた。
いつにも増して丹念に湯あみで磨かれ、香油を全身にすりこまれ、食事もそこそこに、着付けの為コルセットを締め付けてられているのだ。
ここで愚痴を言ってはいけない、臣下の皆は自分の為に頑張っているのだから。

空気を読めない傍若無人の父王を反面教師に、アイディーカは7才にして既に気遣いの出来る良い子であった。
父譲りのプラチナブロンドと菫色の瞳、愁いをおびた表情(本当は疲れているだけなのだが)に、今日の日に為にあつらえたパールピンクのドレスとあいまって、彼女を一層儚げに見せていた。

「姫様。こちら賢者様からお祝いの品々が届いておりますよ。」

「まぁ、賢者様から。」

「もうお帰りになられましたが、本日は新たな賢者『黒』の名乗りの為、いらしていたようです。その『黒』様よりも合わせて、お祝いが届いておりますよ。目録には『オルゴウル』と記されております。魔力を少し流す事で音を奏でると添えられたカードには書かれておりますが・・。」

「まぁ。これが『オルゴウル』。薔薇と共に野辺の花達が、繊細に活けてあるなんて、初めて見ましたわ。淡く光り、鈴のような澄んだ音も綺麗。奏でられる曲も、素朴でかわいらしいわ。この様に美しく繊細な細工物を作られる、黒の賢者様とは、どんな方なのかしら。お会いできず本当に残念だわ。」

うんざりする社交辞令と化かし合いの祝いの席よりも、まだ見ぬ黒の賢者の登場の方が、よほどワクワクと心が躍る。

「はい姫様。『滑らかな象牙色の肌に、光をはじく艶やかな黒髪。曇りの無い黒曜石の如くつぶらな瞳、完璧な双黒の上に、あの様に愛らしいとは。蒼の賢者様が掌中の珠の如く、大事そうにお抱えになっておいでなのが頷けますな。』って言ってましたー。」

赤毛に赤目、細い糸目の狐顔の侍女イタリ。

「そうそう。『そうですな。そしてまた、今日のお衣装の見事な事!黒地に金の刺繍が、星の様に煌めき、まるで夜の空を体現させたようなお姿。むくつけき私共にも微笑んで下さって、その愛らしい事といったら。いやぁ、眼福、眼福。』って、言ってましたー。」

赤毛に濃い藍色の目、これまた細い糸目の狐顔の侍女イタカ、双子の姉妹である。

「イタリ・イタカ・・・それは誰と誰の真似のつもりですか?」

あまりにもそっくりの口調なので、誰かと言わずもがなですが・・。

「「近衛の団長と副団長ですー。」」・・・でしょうね。

『黒』様はお小さく、なかなか愛らしい容貌の方らしい。
お友達になれたりしないかしら・・。

「姫様、『黒』様のお名前は、夜空様とおっしゃいます。ロベリア様の養子になられ、『蒼』のラダ様の後見も得た方です。本日、お帰りの際に図書館の閲覧をお望みになったとか。
つきましては、姫様がお近づきできる様『お友達大作戦』を練っておきますので、お任せください。脳筋・・いえ騎士達の間では、誰が護衛の担当になるかで、早くも選抜の争いが起きているようです。私の読みでは、ヒガとシキが選ばれるかと思われます。」

そしてもう一人、赤毛琥珀色の瞳でひょろりと細い侍女ラナンが、髪を結いながら、さも当然の様に情報の追加補足をしていく。

「作戦名はともかく・・あなた達、今日のこの目まぐるしい日程の中、何処でその情報をつかんできたの?」

「姫様。そこはそれ、侍女としての当然のスキルでございますよ。」

本心の見えない、うさんくさい笑顔の三人である。

『いや、そこは諜報員スキルの間違いでは?』思っていても、気遣いの王女は、あえて突っ込みなどいれない。
かなり癖のある侍女達だが、誠心誠意つくしてくれる忠義者なのは間違いない。
その一点に曇りがなければ、正体が暗部だろうが、戦闘メイドだろうが、本当にだだの耳聡いだけの侍女であったとしても、構わない。

「そうですか。私の侍女は本当に優秀ですね。」

その一言で全てを心に収める7才の姫。

「「「はい、ありがとうございます。姫様。」」」

そんな懐のひろい姫様に仕えるのが、楽しげな赤毛の侍女達だった。
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