返事はいらない

お使い狼

主は森の屋敷の他、この世界に点在する大きな街の多数に部屋を所有している。

移動陣を敷き狩場を分散させる目的で買い求められた物件だ。
誰も住んでいない部屋は痛むのも早いが、替えの物件に事欠くことは無いらしい。

この前の女は自分から贄になるべくしてあの森に来た。
あんな事はごく希だ。


「この街は久しぶりだね。」

主が行先に選んだ街は、大きく栄えてはいるが治安の悪さでも有名な所だ。

こんな街だからこそ、曰く付きの品を換金する場所が沢山あるので助かる。
後ろ暗いのはお互い様、要らぬ詮索をされる心配もない。


「私は手っ取り早く食事をとって来るよ。体を作り替えると、どうも腹が減って仕方ない。一臣は換金し終わってから戻っておいで。」

『行ってこい』お使いだ。

主と別れ、何か所かに分けて裸石を換金していく。
途中、主に似合いそうな服飾店や宝飾店を見繕う事ももちろん忘れない。
小さな主をどう装うか考えるだけで、ワクワクする。

主の言う手っ取り早くとは、一人迷った風を装ってスラム街を練り歩く事だ。

人身売買、監禁、誘拐、凌辱、目的は何んであれ犯罪者が簡単にかかるはずだ。
美しい主はまるで犯罪者の誘蛾灯だ。

触れるだけで命を奪う事の出来る主は、間違いなく捕食者として頂点にたっている。

では遠距離からの攻撃ならどうか？

守護の魔道具も持っているし、カウンターの防御陣もがっつり組んである。
結果、主がこの世界で最強、そう自分に中で結論づけている。

―　可愛いが最強　―

厨二病発言だが、今の主なら間違っていないよな、口元がにやつく。

満足いく金額が用意できた、主の元へ合流するとしよう。
人目に付かない様に路地の死角に滑り込み辺りの気配を探る。
今回は、換金した金目当てにつけられる事もなかったようだ。

首を一撫ですれば、ぐるりと施された入れ墨が現われ、青白い光を放つ。
いついかなる状況でも必ず主の元へ戻れる不可視の魔法だ。

足元に魔法陣が発動し、自身の影に体が沈んでいく。
行先は主の影の中。
この魔法のお陰で、魔力の器官を持たない私でも主の影の中に潜む事が出来る。

唯一無二、私だけに付けられた『行って・来い』の首輪だ。