返事はいらない

主？

―　リリン　―

主の宣言通り、一週間後部屋から呼び出しのベルの音が聞こえた。
『待て』解禁だ。

いつも開け放たれているカーテンは閉じられ、寝台の幕もまた同様だ、室内は薄暗い。
一週間も閉じこもっていた割に、埃っぽさも感じられず、主の甘い香りが漂うだけだ。

「主。お加減いかがですか？」

聞きたい事も言いたい事も山の様にあるが、そこはぐっと押さえ、平静を装い声をかける事が出来た。

「うん大丈夫だよ。お水もらえるかな。幕はそのままで、開けないでおくれ。」

「・・ご用意してありますよ。お渡ししますので、こぼさない様お取り下さい。」

事前に用意しておいた水を幕の隙間から差し入れる。
するりと掠める様に華奢な指先がふれた。

「はぁ。生き返るね。」

確かに口調は主だ、この甘い香りや漂う気配も間違いなく主の物。

だが、声が違う。

―　女　―

「お前は誰だ！主は何処だ！」

激情に駆られて、力任せに寝台の幕を引き裂いた。

寝台の中に居たのは、まるで主の色をまとったかの様な少女だった。
金の髪、蒼い瞳、白い肌。
少女は水の入ったカップを両手で持ち驚いてはいるが、そこに怯えの色は見えない。

「一臣・・驚いたじゃないか。どうするんだいこれ？もう使い物にならないよ。」

ズイとコップを突き返す様に少女が言う。

「・・主？・・」

「そうだよ。」

「本当に主？」

「そうだってば。ねぇ『待て』出来なかったのかい？」