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ツン猫

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リビングで刺繍をやっていると晶が帰ってきた。
今日はいつもより遅かったな。

「・・・ただいま・・・。」

ドアから半分そっと顔を覗かせたまま、何か言いたげに、俺をジッと見ている。

・・・ここで過剰に反応すると、なつかない猫の様にそっぽを向いて行ってしまうのは学習済み。
内心笑いを堪えながら、刺繍の手を止めずに何て事無いように返事を返す。

「おかえり。体調は少しは楽になったか?美和もつれていったんだろ?遅かったのは、何かやらかしでもしたか?」

「・・美和ちゃんに怒られた・・。」

「は?」怒られた?あの美和に?

そこで、初めて晶の方に顔を向け視線を合わせる。
やっぱり何か言いたそうに、ドアの向こうでもじもじしている。

ぐっ・・晶やめろ・・ホント可愛いいから、変な声がでそうになる。

俺が自分の横をポンポンと叩き、座る様にうながすと、猫の様にしなやかな動きで腰かけた。
俺と違って細い晶にソファーは沈みもしない。

「体調不良になるぐらいなら、変化しない方かいいって。・・夜彦の・・心労が2倍になるだけだって・・。心配させたくないでしょ・・って怒られた。」

「あー・・それは・・。」

そりゃ言いにくい事をズバッと言ったもんだ。あいつ変な所で鋭いんだな。

「だから・・急には無理だけどちょっとづつ変化やめる事にした。・・夜彦・・心配かけてごめんね・・。」

「晶いつも言ってるだろ。俺は謝ってもらいたい訳じゃない。」

「うん・・夜彦いつもありがとう。」

晶がふんわりと笑う。
おう・・ツン猫の晶がデレたぞ・・珍しい事もあるもんだ。
ドギマギしている俺を余所に、晶は思い出した様にクスクス笑いだした。

「それでね。美和ちゃんたら『変化止めて虫が増えるのが心配ならスタンガン買いに行きましょう!』って、大真面目に言い出してさ。」

「はぁ?スタンガン?なんだその発想。あいつの頭ん中どうなってるんだ?」

「だよねぇ。いろんなお誘いは受けてきたけど、スタンガン買いに行きましょうって誘われたのは初めてだなぁ。」

最近は、取り繕った王子様然した上っ面の笑みばかりだった晶が、素で楽しそうに笑ってる。
いつぶりだ?
うん、美和にはなんかお礼しなきゃな。

やっぱり晶は綺麗だ。
そんな風にいつも笑っていて欲しい。
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