世界の終わりに、くだらない嘘をつく

藤の蜜

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 赤井との通話を切ったあと、会話する気力もなくなり無言で移動した。幸いエレベーターは動いていたが、次々乗ってくるマンション住民のおかげで各階止まり。無理やり入ろうとする住民のせいで、かなりの時間を消費する。

 マンションの地下駐車場は、いつもより車が少なかった。
 去年買ったレトロなデザインの軽自動車に乗り、素早くエンジンをかける。すこし遅れて、青ざめた顔のハルカが助手席に乗り込んだ。

 湾岸道路をしばらく走っていると、渋滞にはまった。ラジオはほとんど電波を拾えない。カーナビのテレビも「電波を受信中」の表示ばかりで映らない。スマホは圏外のまま。歩道は人で溢れかえってる。

 車道にはみ出てきた人々を威嚇するように、車のクラクションが鳴り響いた。音に腹を立てた男が、道に積まれたブロックを斜め前に止まる、車のフロントに投げつける。

 ガラスの割れた音。
 悲鳴。
 恐怖と混乱。

 運転席の男が飛び出し、それを待っていたかのように人々が車へ群がった。

「くそ、なにやってんだ……早くすすめよ」

 すぐそばではじまった暴動と沈黙に耐えれなくなって悪態をつく。すると、ハルカが急にシートベルトを外して車から降りた。

「おい。どこ行くんだ! 危ないぞ」
「歩く! あと一駅ぶんだから歩いた方が早い!」

 そう叫んだハルカが、止まってる車の間を縫うよう歩き出した。その姿を見た人々が、次から次へと車道に出る。

 バカヤロウ!

 運転手が外に出たらその車どうすんだよ! しかも前の車、鍵かけやがって。鍵をあけたままにしとくのが災害時の常識だろう!
 舌打ちしながらエンジンを切って車から飛び出す。もちろん鍵はあけたまま。予備キーを車に残して。

「ハルカ! 待てよ。俺も歩く! おい!」

◇◇◇
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