世界の終わりに、くだらない嘘をつく

藤の蜜

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 サイレンの音がする。
 これは、消防車か?
 無数のざわめき。
 ドンドンッ、ドンドンッ、としつこい打撃音。
 うるさい。
 なんなんだ……。

 地面が揺れた気がして薄目をあける。遮光カーテンの隙間からもれた光が天井に白い線を描いていた。夢だと思っていたが、実際にサイレンの音がする。壁を叩くような音も。枕元で充電していたスマホを引き寄せ、時間を確認した。午前二時四七分。寝てから二時間しかたってない。

「うっせーな……」

 薄い夏用の布団を頭までかぶる。
 すると、ゴゴゴゴゴッと低い不気味な音が聞こえてきた。だんだんと大きくなる音に合わせて窓ガラスがガタガタ揺れる。

 地震か⁉

 次の瞬間、光が。まるでスポットライトのような強烈な光がカーテンの輪郭を白く染めて、右から左に流れるように二回、光が走る。低い音は光が通りすぎるタイミングで小さくなって消えた。

 ドンドンッと壁を叩くような音がやむ。呆然と窓の方を見てると、手にしたスマホが震えた。慌てて画面を確認すると「上野ハルカ・着信」の文字。スワイプして電話に出る。

「ハルカ? どうした……」
『トムくん! 今、家にいるんでしょ? あけて! 急いで!』

 そして、ガチャガチャと玄関からドアノブを回す音がした。スマホからも同じ音が聞こえる。転げるようにベッドから降りて玄関に移動した。
 扉をあけると、俺の大学時代の後輩で、担当・上野の嫁。上野ハルカが立っていた。髪は乱れ、服はあちこち埃まみれの酷い姿。

「ハルカ。どうした? こんな時間に」
「トムくん、車貸して!」
「は? お前、免許持ってないだろ」
「トムくんが運転して!」

 相変わらず強引な物言いにムッとする。一体なんなんだ。こんな真夜中に人を起こしていきなり車を出せって。それに、さっきから外が騒がしい。ここはマンションの高層階だ。こんなに音が聞こるなんておかしい。しかも、今は真夜中。どう考えても異常事態だ。

「地震か?」
「なに言ってるの⁉ トムくん、外見てないの? 大変なことになってるのよ!」

 マンションの廊下に窓はない。
 そうこうしてるうちに、またゴゴゴゴゴッと低い地響きがした。今度はマンション全体が揺れる。

「とりあえず中に入れ」
「そんな時間ない!」
「いいから、入れって!」

 ハルカの腕を掴んで強引にひっぱる。面倒なので靴のままリビングを歩かせた。すると、またスポットライトのような光がカーテンの隙間から差し込む。

「なんだこれ」

 ガサッと遮光カーテンをひらく。あまりの眩しさに目がひらけない。光と音はさっきと同じですぐに消えたが、残光で目がチカチカした。何度か瞬きしながら窓のロックを解除して裸足のままベランダに出る。

 すると──信じられない光景が目に飛び込んできた。

 真赤に燃える建物。空が赤と黄色と紫に染まり……大量に立ち昇る煙と、空を斜めに走る無数の光。

 星が、街に降ってる。

◇◇◇
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