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美青年はエスエムがお好き【ハロウィン番外編】

教鞭 SIDE.LEASH

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 彼女が傍にいるだけで、気配を感じるだけで、僕はどんどんおかしくなっていく。
 あんなに焦がれていたのに。不満に思っていたのに。憤りを感じていたのに。一度気持ちを切り替えてしまうと、僕の身体に宿る欲望が膨らんでいく。

 さっきまで冷たかった身体が徐々に熱を取り戻し、喉の詰まるような……けれど心地よい息苦しさを感じる。首に絞めたベルトが少しきついのかもしれない。
 短い呼吸を繰り返しながら、彼女が与えてくれる痛みに思いを馳せる。
 何でもいい。痛くても何でもいいから彼女が欲しい。

 微かに嗅ぎなれない匂いを感じた。衣擦れの音がさっきと違う。
 たぶん彼女は着替えたんだ。この遊びの為に。僕の為に。

 自然と口角が上がる。思ってることがすぐ顔に出ると言われるから何とかしたいのだけど、理想通り顔の筋肉を動かせない。

 彼女の静かな足音。食器のぶつかる音。カタンと音がして静かになる。
 そして前方に気配を感じる。
 鼻からすーっと息を吸って、口から吐き出した。僕の作ったハーブティーの香りがする。レモングラス、ローズマリー、ステビア。レモングラスを多めに入れているから気分がスッキリするブレンド。甘いものを食べた後にスッキリしたいと言った彼女の為に作った飲みやすい味。
 きっとご褒美はお菓子だ。

 ピュンっと風を切る音がした。

「じゃあ、あと5回ね」

 彼女も気分を切り替えたのか、いつもより優しくて柔らかい声。この声を出す時は僕に何かエッチなことを教えようとしている時。
 背中がゾワゾワする。
 僕に鞭を振るうのは、彼女の欲望を駆り立てる行為なんだ。この遊びは色々な種類があって、それを僕に教えようとしている。だから、ちゃんと学んで理解しなきゃいけない。彼女の中に眠っている願望を引きずり出して、何に興奮し、何を欲し、僕にどうしてもらいたいのか考えて応用できるように。

 ペシッ! と音がして内ももに痛みが走る。また二人で鞭の数を数えた。


 8回目の後、彼女の動きが止まる。
 まさか、ここでまた居なくなるつもりじゃ……。

「か、カオルさん?」

 恐る恐る声を掛けると、一呼吸置いて「叩かれたい?」と優しく聞かれた。この言葉の返事はもう決まっている。

「うん! 早く、叩いて!」

 勢い良く答えると、彼女の小さな笑い声が聞こえた。その声を聞いて安心する。彼女は何処にもいかない。最後までしてくれると確信する。

「……最後はちょっと痛く叩いて良い?」
「うん。痛くしていいよ。だから……」

 言い終わらない内にビシッ! と鞭が僕の敏感になった内ももを叩いた。鋭い痛みで身体が反射的に伸びギシギシっと椅子が軋む。

「うっ……」

 口から呻きが漏れてしまう。でもこのくらい痛い方がいい。
 気持ちいいと言うより、彼女の欲望をぶつけられたような気がして心が満たされる。

「痛すぎた?」
「痛い! もっとして!」

 そう答えると、彼女が噴出した。びっくりして固まってると小さな声で「あおじる」と聞こえてきて、それが何か聞こうかどうしようか迷っている間に彼女が笑い声が止まった。でも、まだ笑い足りないのか、何度も深呼吸の音が聞こえる。
 そんなに笑われるような事を言ったのだろうか?
 時々僕は不用意に彼女の笑いのツボを押してしまうようで少し戸惑う。
 彼女が楽しそうなら、それでいいのだけど。

 ペシン!

 最後は笑いながら彼女が鞭を振るから、ぜんぜん痛くなくて少し残念な気持ちになった。
 でも、これでやっと拘束を解いてもらえる。

「偉いね、リーシュ良く頑張ったね」

 優しく彼女は僕の頭を抱きしめ、頭を撫でてくれた。温かい手の平や柔らかくて冷たい胸の感触を感じて安心したら、泣きたくなった。
 甘えるように胸に顔を擦り付けると、ぎゅっとおっぱいで顔を覆われた。
 その息苦しさも気持ちよくて、太ももに残る痛みが愛おしい。
 僕の体に、内側に残るものを彼女がくれたんだと思うと、心が彼女への愛おしさでいっぱいになる。

 この遊びを好きになる予感がした。


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