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焼き菓子
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袋からひとつ取り出し聖女に渡すと、素直に受け取ってくれた。でも、警戒しているのか、なかなか口をつけない。絶対においしいから、早く食べてほしいけど。
「ほら、おいしいよ」
僕が食べたかったとかじゃない。あくまで警戒を解くためだ。と自分に言い訳をしながら袋に手を突っ込み、もう一個お菓子を取り出して頬張る。うん。やっぱりおいしい。何個でも食べられそう。また料理人に頼んで、多めに作ってもらおう。
僕が両手いっぱいのお菓子を想像していると、聖女がお菓子にパクンと食いついた。
人に慣れない、野生の動物を手懐けた気分。聖女は見る見る間に焼き菓子を平らげた。いつも興味なさそうにしているから、こんな風にお菓子を食べる姿を見るのは、初めてだ。
聖女はよほど甘いものが好きなのか。自分で袋からお菓子を取り出し、ふたつめを食べ始めた。
僕は、自分が手にしたお菓子も食べ忘れ、ポカンと聖女を見続ける。
すると聖女の黒い瞳から、ぽろぽろぽろぽろ。大きな涙の粒が零れ落ちた。いつもは、魔物のような形相で暴れて泣き叫ぶのに、目の前の聖女はまるで『聖女』みたいに見える。
僕は、時間も忘れて、長い時間、お菓子を食べながら静かに泣く聖女を見つめ続けた。
「ほら、おいしいよ」
僕が食べたかったとかじゃない。あくまで警戒を解くためだ。と自分に言い訳をしながら袋に手を突っ込み、もう一個お菓子を取り出して頬張る。うん。やっぱりおいしい。何個でも食べられそう。また料理人に頼んで、多めに作ってもらおう。
僕が両手いっぱいのお菓子を想像していると、聖女がお菓子にパクンと食いついた。
人に慣れない、野生の動物を手懐けた気分。聖女は見る見る間に焼き菓子を平らげた。いつも興味なさそうにしているから、こんな風にお菓子を食べる姿を見るのは、初めてだ。
聖女はよほど甘いものが好きなのか。自分で袋からお菓子を取り出し、ふたつめを食べ始めた。
僕は、自分が手にしたお菓子も食べ忘れ、ポカンと聖女を見続ける。
すると聖女の黒い瞳から、ぽろぽろぽろぽろ。大きな涙の粒が零れ落ちた。いつもは、魔物のような形相で暴れて泣き叫ぶのに、目の前の聖女はまるで『聖女』みたいに見える。
僕は、時間も忘れて、長い時間、お菓子を食べながら静かに泣く聖女を見つめ続けた。
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