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Scene06 人として

54 新幹線ダッシュ

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昔、読んでもらった一冊の本。
中途半端に終わったその本。
大輔はパンダと自分を照らし合わせていた。
パンダは自分に似ていると思った。
愛されない宿命を背負った存在。

ドックン。

鼓動がなる。
呪われた自分を責める。

でも、誰の心にも残らない。
残ったとしても化け物のような存在として……

街を公園のベンチ。
そっと夜空をそっと見上げる。

「パンダさんどうなったのかな?」

その言葉に大輔は驚く。
後ろをふりかえると見知らぬ子どもと男性がいた。

親子かな?

そう思った。

女の子が楽しそうに歩く。
そしてガラの悪そうな男子高生にぶつかる。

「ッ痛ぇなー!」

男子高生がその女の子を睨む。

「前向いて歩かねぇとダメだろ?」

男子高生がそういうと女の子がビシッと指をさす。

「後ろに気をつけて歩かないと!メーなの!」

「イヤ……そこは素直に謝っとけよ」

男子高生がそういってその女の子の頭に手を当てる。
大輔はその腕を掴む。

「ん?」

男子高生が大輔の方を見る。

「なにするつもり?こんな小さな子相手に……」

「あー?」

男子高生が大輔を睨む。

「ん?」

「百道!仲良くしないとメーなの!」

女の子がそういって男子高生の方を睨む。

「ってあれ?知り合いなの?」

「マブダチ!」

女の子がそういうと男子高生が照れくさそうに笑う。

「まー、そういうことだ!」

「あ……ごめん」

大輔はそっとその男子高生の腕から手を話す。

「ん?あー、もしかして俺がコイツを殴ると思ったのか?」

「うん、ごめん」

「百道!肩車なの!」

「え?ああ……」

男子高生は女の子の体を持ち上げ肩車する。
そんな様子を女の子の父親らしき存在が楽しそうに見ていた。

「百道くん、見掛け倒しだもんね。
 悪そうに見えてものすごくいい子」

その父親がそういってクスクスと笑った。

「えっと、貴方はこの子のお父さんですか?」

「はい、そうです。
 君は久留里大輔くんだよね?」

「え?」

大輔はあの件で有名になった。

「申し遅れたね。
 僕の名前は久留里十三。
 同じ久留里の名字だね。
 珍しい名字だからまさか出会えるとは思わなかったよ」

十三がそういって笑う。

「あれ?もしかして指原さんが言ってた人かな?」

「そうだね、指原りのあちゃんとは知り合いだよ」

「指原ってあの婦警さんか?」

「そうそうその婦警さんだよ」

大輔がそういうと女の子が男子高生の頭をゆらす。

「百道ダッシュなの!」

「はいはい、新幹線だぞー」

男子高生がそのまま走り出す。

「あの子は?」

「娘の名前は自由みゆ
 男の子の名前は、桜庭さくらば百道ももちくん。
 そして、僕は百道くんの担任の先生だよ」

大輔がそういってベンチに座る。

「僕は一応、警察です」

「うん、知ってる」

「ですよね」

大輔が苦笑いを浮かべる。

「百道凄いの!凄いの百道!」

自由が嬉しそうに笑っている。

「平和……だよね」

十三がそういうと大輔がうなずく。

「そうですね」

「さーて!自由!そろそろ帰るよ」

「だってさ、自由」

百道がそういうと自由が頷く。

「はーい」

百道は自由の体をゆっくりとおろす。

「百道またなのー」

自由はそういって駆け出す。

「走ると危ないよ」

十三がそういってゆっくりと歩く。

「またな!久留里センセ!」

「うん、またね。
 大輔くんもまた!」

十三がそういって手を振った。

そしてふたりが見えなくなったあと。
百道が口を開く。

「じゃ、俺も帰るわ」

「あ、うん、変な勘違いをしてごめんね」

「いいって!気にするな!」

百道が小さく頷くとその場から離れた。

「静かになった」

大輔も帰ろうと思った。
ここにずっとはいれない。
だから小さく離れよう。
そう思った。
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