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Scene04 赤ちゃんの十戒

34 ママがいない夜

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 お風呂から出た私は、ふわふわした気分になる。
 気持ちいいような気持ち悪いようなそんな感じ……

「理香、そろそろ眠いんじゃないか?」

「……うん。
 眠い……」

「布団をしこうか?」

「うん」

 私が、うなずくとパパは、ニッコリと笑って私の頭を撫でてくれた。

 パパが、布団をしいてくれる。
 だから、それまで寝ちゃいけない。

 寝ちゃいけない。
 寝ちゃいけない。
 寝ちゃいけない。

 そう思っていたのに、私が気付いた時……
 私は、布団の中に居た。

 隣でパパも眠っている。
 ママは?

 私は、起き上がりママを探した。
 ママがいない。

「ママ?
 ママどこー?」

 私は、大きな声で泣いた。
 ママがいない。
 ただそれだけで不安になる。

 パパが、目を覚まして私の身体を抱きしめてくれる。

「どうした?」

「ママがね……
 ママがいないの……」

 パパは、無言で時計を見る。
 時計の時間は、『AM2:00』と表示されている。

「あー。
 こりゃ、終電に乗り遅れたみたいだな……」

 パパは、そう言ってクスリと笑った。

「ママ帰ってこないの?」

 私の中は、不安でいっぱいになった。
 不安で不安でしょうがなかった。

 でも、パパはニコニコと笑っている。

「そうだね……
 明日の朝になれば戻ってくるだろう」

「ホント?
 ホントに戻ってくる?」

 私の目に涙があふれる。

「ああ。
 だから、もう一回おやすみ」

「ママ、どうして帰ってこないの?
 私のこと嫌いになっちゃったの?」

「そんなわけあるもんか……
 ママはな、最終の電車に乗り遅れたんだ」

「え?」

「電車において行けぼりをくらったんだ……」

「わかんない……」

「大丈夫。
 帰ってくるさ。
 だから、もうお休み」

 パパが、そう言って私の頭を撫でてくれた。

 ママが居ないのは悲しいけど、パパが傍にいてくれる……
 それだけで、私の心は少し暖かくなった。

 朝が来る。
 目が覚めても隣にママはいない。

 泣きたくなった。
 でも、泣く前にパパが私の頭を撫でてくれた。

 安心。
 安心。
 安心。

 私の心は、温かい何かによって包み込まれた。
 今日は、日曜日。

 パパもお仕事は、お休み。
 朝になってもママは帰ってこない。

「ママ、遅いね……」

「うん。
 遅いな……」

 パパも何処か元気がない。
 ママが居ないせいなのかな?

 パパが、元気ないと私も元気が出ない。

 泣きたくなる。
 泣きたい時には泣けばいい。

 誰かが言った言葉。

 幼い私にもわかる。
 泣きたい時に泣いたら世の中すべてダメになる。
 だから、私は、我慢した。
 我慢して涙を堪えることにした。


 12時を過ぎ、吉本新喜劇を見ている時だった。

「ただいまー」

 ママが、帰って来た。
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