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12月
12月27日
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12月27日
晴れ時々曇り心は雨。
流れるように俺は歩きました。
気付いたとき、外は暗くなっていました。
時計を見ると22時過ぎ……
見知らぬ場所に来てしまったみたいです。
ここは、どこだろう……
そう思い、明かりを求めて歩いていると、公園を見つけました。
少しここで休憩しようと思い、公園の中に入りました。
すると、そこにツインテールの女の子がベンチに座っていました。
とても悲しそうな顔をしていました。
俺は、黙ってその女の子の隣に座りました。
「そんな顔をしていると幸せが逃げちゃいますよ」
「猫さん……」
女の子は、ゆっくりと笑顔を作りました。
女の子の名前は由香さん。
橘 由香さん、俺はこの女の子の笑顔しか知りません。
さっきみたいな表情なんて初めて見ました。
「どうしたんですか?
こんな所で……」
「なんにもしてないよ。
ただ、ぼーっとしていただけ」
「その割には、今にも泣きそうな顔をしていましたよ」
「そんなことないもん!」
由香さんは、そう言って立ち上がりました。
「失恋でもしたんですか?」
俺は、冗談っぽく言いました。
「違うもん!」
由香さんは、大きな声で言いました。
声は大きいけれど元気は、ありませんでした。
「由香さん?」
「私、はるかさんに言われたんだもん!
ずっと笑顔でいなさいって、笑顔でいたら幸せになれるからって!
でも、無理だよ、はるかさん!」
由香さんは、肩を震わせます。
「泣きたい時には泣いてもいいんですよ?
人は誰しも泣いて産まれてくるのだから……」
「猫さん、ずるいよ。
こんな時、優しくするなんてずるいよ」
由香さんは、顔に手を当てて肩を震わせました。
由香さんの呼吸が乱れていました。
泣いているのでしょうか?
こんな時、どうしたら良いのかわかりません。
でも、丁度雪が降ってきました。
話題を変えましょう。
俺はそう思い、言いました。
「由香さん、雪ですよー」
「そうだね……
寒いね……」
由香さんは、泣いています。
俺は、座ったまま動けません。
由香さんはこちらを見ようともせず、俺は由香さんの背中をずっと見ていました。
それから30分くらい由香さんは、泣いていました。
そして、大きく深呼吸をした後、俺の隣に座りました。
「えっと、ハンカチどうぞ……」
俺は、ゆっくりとハンカチを出しました。
「ううん。
大丈夫だよ。
ありがとう、でも少し遅いかな」
「え?」
「こういう時、泣いている時に渡すモノだよ。
泣き終わった後に渡しても意味ないじゃん」
由香さんは、そう言って笑いました。
「やっと笑ってくれましたね」
「え?」
「俺は、由香さんの笑顔しか知らないので、由香さんの笑顔を見て安心しました」
由香さんは、優しく笑った後、こう言いました。
「口説いてる?」
「え?いえ、全く意識していませんでした。
こんなんで口説けるのですか?」
すると由香さんは笑いました。
「猫さんって、はるかさんから聞いた通りの人なんだね」
「え?」
「ううん。
なんでもない」
由香さんは、そう言って俺に近づきました。
そして、顔を俺の肩に乗せました。
静かに俺の手を握り締めると言いました。
「猫さんの手、温かい……」
「由香さんの手冷たいです。
どれくらいここにいたんですか?」
「朝からずっといたよ」
「朝から?」
「うん
ここはね、はるかさんとの思い出の場所なんだー」
「そうなのですか……」
「うん。
夜の仕事を始めたばかりのころ失敗ばかりで毎日泣いていたんだー。
その時、はるかさんに言われたの。
『どんな時でも笑顔でいなさい。
そしたら、周りが幸せになる。
周りが幸せになったら貴方も幸せになるから』って」
「はるかさんらしい、前向きなセリフですね」
「うん!
私、はるかさん大好き!
だから、決めたんだ!
何があっても笑顔でいようって!」
由香さんは、ニッコリと笑うと立ち上がりました。
由香さんは、無邪気に笑っていたのではありませんでした。
はるかさんが亡くなって悲しいのに、無理して笑っていたんですね。
そう思うと、由香さんの事を少し好きになれた気がします。
「じゃ、私帰る!」
「あ、あの……!」
俺は、帰ろうとした由香さんを止めました。
「どうしたの?
まだ、私と一緒にいたい?」
「えっと、帰り道教えてください」
俺が、そう言うと流石の由香さんも苦笑いを浮かべました。
「え?迷子?」
「はい、迷子です」
「迷子の迷子の子猫ちゃん?」
「はい……
でも、やめてください。
昔、そう言ってからかわれていましたので……」
「そうなんだー」
由香さんは、そう言うと俺の手を握り締めました。
「え?」
「こうした方が温かいから」
「そうですか……」
少し緊張しました。
「じゃ、駅までゴーゴー」
そう言って由香さんは、俺を駅まで送ってくれました。
明日は、はるかさんのお通夜です。
これで、本当にさよならなんですね……
晴れ時々曇り心は雨。
流れるように俺は歩きました。
気付いたとき、外は暗くなっていました。
時計を見ると22時過ぎ……
見知らぬ場所に来てしまったみたいです。
ここは、どこだろう……
そう思い、明かりを求めて歩いていると、公園を見つけました。
少しここで休憩しようと思い、公園の中に入りました。
すると、そこにツインテールの女の子がベンチに座っていました。
とても悲しそうな顔をしていました。
俺は、黙ってその女の子の隣に座りました。
「そんな顔をしていると幸せが逃げちゃいますよ」
「猫さん……」
女の子は、ゆっくりと笑顔を作りました。
女の子の名前は由香さん。
橘 由香さん、俺はこの女の子の笑顔しか知りません。
さっきみたいな表情なんて初めて見ました。
「どうしたんですか?
こんな所で……」
「なんにもしてないよ。
ただ、ぼーっとしていただけ」
「その割には、今にも泣きそうな顔をしていましたよ」
「そんなことないもん!」
由香さんは、そう言って立ち上がりました。
「失恋でもしたんですか?」
俺は、冗談っぽく言いました。
「違うもん!」
由香さんは、大きな声で言いました。
声は大きいけれど元気は、ありませんでした。
「由香さん?」
「私、はるかさんに言われたんだもん!
ずっと笑顔でいなさいって、笑顔でいたら幸せになれるからって!
でも、無理だよ、はるかさん!」
由香さんは、肩を震わせます。
「泣きたい時には泣いてもいいんですよ?
人は誰しも泣いて産まれてくるのだから……」
「猫さん、ずるいよ。
こんな時、優しくするなんてずるいよ」
由香さんは、顔に手を当てて肩を震わせました。
由香さんの呼吸が乱れていました。
泣いているのでしょうか?
こんな時、どうしたら良いのかわかりません。
でも、丁度雪が降ってきました。
話題を変えましょう。
俺はそう思い、言いました。
「由香さん、雪ですよー」
「そうだね……
寒いね……」
由香さんは、泣いています。
俺は、座ったまま動けません。
由香さんはこちらを見ようともせず、俺は由香さんの背中をずっと見ていました。
それから30分くらい由香さんは、泣いていました。
そして、大きく深呼吸をした後、俺の隣に座りました。
「えっと、ハンカチどうぞ……」
俺は、ゆっくりとハンカチを出しました。
「ううん。
大丈夫だよ。
ありがとう、でも少し遅いかな」
「え?」
「こういう時、泣いている時に渡すモノだよ。
泣き終わった後に渡しても意味ないじゃん」
由香さんは、そう言って笑いました。
「やっと笑ってくれましたね」
「え?」
「俺は、由香さんの笑顔しか知らないので、由香さんの笑顔を見て安心しました」
由香さんは、優しく笑った後、こう言いました。
「口説いてる?」
「え?いえ、全く意識していませんでした。
こんなんで口説けるのですか?」
すると由香さんは笑いました。
「猫さんって、はるかさんから聞いた通りの人なんだね」
「え?」
「ううん。
なんでもない」
由香さんは、そう言って俺に近づきました。
そして、顔を俺の肩に乗せました。
静かに俺の手を握り締めると言いました。
「猫さんの手、温かい……」
「由香さんの手冷たいです。
どれくらいここにいたんですか?」
「朝からずっといたよ」
「朝から?」
「うん
ここはね、はるかさんとの思い出の場所なんだー」
「そうなのですか……」
「うん。
夜の仕事を始めたばかりのころ失敗ばかりで毎日泣いていたんだー。
その時、はるかさんに言われたの。
『どんな時でも笑顔でいなさい。
そしたら、周りが幸せになる。
周りが幸せになったら貴方も幸せになるから』って」
「はるかさんらしい、前向きなセリフですね」
「うん!
私、はるかさん大好き!
だから、決めたんだ!
何があっても笑顔でいようって!」
由香さんは、ニッコリと笑うと立ち上がりました。
由香さんは、無邪気に笑っていたのではありませんでした。
はるかさんが亡くなって悲しいのに、無理して笑っていたんですね。
そう思うと、由香さんの事を少し好きになれた気がします。
「じゃ、私帰る!」
「あ、あの……!」
俺は、帰ろうとした由香さんを止めました。
「どうしたの?
まだ、私と一緒にいたい?」
「えっと、帰り道教えてください」
俺が、そう言うと流石の由香さんも苦笑いを浮かべました。
「え?迷子?」
「はい、迷子です」
「迷子の迷子の子猫ちゃん?」
「はい……
でも、やめてください。
昔、そう言ってからかわれていましたので……」
「そうなんだー」
由香さんは、そう言うと俺の手を握り締めました。
「え?」
「こうした方が温かいから」
「そうですか……」
少し緊張しました。
「じゃ、駅までゴーゴー」
そう言って由香さんは、俺を駅まで送ってくれました。
明日は、はるかさんのお通夜です。
これで、本当にさよならなんですね……
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