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12月26日

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12月26日

朝、テレビをつけるとはるかさんの自殺のニュースが流れていました。
はるかさんのニュースは、5分程度でした。
アナウンサーやコメンテーターが、好き勝手なことを言っていました。
違う、はるかさんは犯人じゃないです!
俺は、心の中で叫びました。
すると俺の携帯が、鳴りました。
由香さんからです。
「猫さん、ニュース見た?」
「うん」
「はるかさんが、自殺したって本当?」
「うん」
「猫さん……?」
「ゴメン、俺これから行くところがあるんです」
「行くってどこへ?」
「はるかさんの所」
俺が、そう言うと由香さんが怒鳴りました。
「ダメ!絶対ダメ!」
「え?」
「後追い自殺なんて絶対ダメだからね!」
「後追い自殺?」
俺は、首を傾げました。
「違うの?」
「はるかさんは今、警察署で眠っているらしいのです」
「あ、そう言うことかー」
由香さんが、安心したような声で言った。
「はい」
「私も行ってもいいかな?」
「はるかさんも由香さんが居た方が嬉しいと思います」
「うん!ありがとう!
 じゃ、9時に枚方市駅前のファミリーマートで、集合でいいかな?」
「はい。
 大丈夫です」
「じゃ、9時に会おうね!」
由香さんは、そう言って電話を切りました。
由香さんは、元気ですね。
俺もなんか少し元気が出た気がします。
あの鍋パーティーの時、由香さんとアドレスの交換をしていてよかったです。
正直、1人ではるかさんに会いに行くのは、怖かったですから……
俺は、すぐに家を出ました。
早く着きすぎてもファミリーマートの中なら寒くないですしね。
俺が、ファミリーマートの前に着くと由香さんが、肉まんを食べようとしていました。
「あ、猫さん」
由香さんが、俺の名前を呼びました。
「由香さん、おはようございます」
「うん、猫さんおはよう!
 あ、肉まん半分上げるよー
 まだ、口をつけていないから大丈夫だよー」
由香さんは、そう言って肉まんを半分にちぎり大きい方を俺にくれました。
「ありがとうございます。
 いただきます」
「うん。
 いただきます」
由香さんは、そう言って肉まんをかじった。
「熱いですね」
俺が、そう言うと由香さんはニッコリと笑ってこう言いました。
「美味しいね」
確かに美味しいけど、俺は笑える気にはなりませんでした。
俺達は、ファミリーマートの前で肉まんを食べ終えた後、警察署へと向かいました。
警察署の入り口で、福田さんが立っていました。
「猫君おはよう。
そろそろ来る頃だと思ってたよ
そちらのお嬢さんは?」
福田さんは、由香さんの方を見てそう言いました。
「橘 由香と言います。
 はるかさんの親友です」
由香さんは、丁寧な口調でそう言うと軽くお辞儀をしました。
「そうか……
 私は、福田道重。
 仏のミッチーと慕われてるよ」
「ミッチーさん。
 可愛いですね」
由香さんは、ニッコリと笑いました。
「では、中島はるかの所に案内するよ」
俺達は、福田さんにはるかさんが眠る霊安室に案内してもらいました。
はるかさんが、眠る霊安室に入ると線香の匂いがしました。
「はるかさん、こんにちは」
はるかさんからの返事は、返ってきません。
もう、はるかさんの声を聞くことも出来ません。
もう、はるかさんの笑顔を見ることが出来ません。
もう、はるかさんの温もりを感じることも出来ません。
でも、はるかさんへの最後のお願いです。
手を握り締めてもいいですか?
俺は、ゆっくりとはるかさんに近づきはるかさんの手を握り締めました。
はるかさんの手は、冷たかったです。
「あの……
 ミッチーさん、私からのお願い聞いてくれますか?」
由香さんは、そう言って福田さんの方を見ました。
「なんだい?」
「はるかさんに香水をつけてあげてもいいですか?」
「え?」
俺も福田さんも目を丸くさせて驚きました。
「構わないが、どうしてだい?」
「はるかさん、前に線香の匂いが苦手と言っていたんです。
 だから、今日ははるかさんのお気に入りの香水を持ってきたんです」
由香さんは、そう言って鞄から香水を出しました。
由香さん、こんな時に何を言っているんでしょう。
俺は、不思議でした。
「そうかい……
 由香ちゃんは、優しんだね」
福田さんは、そう言って由香さんの頭を撫でました。
そうですよね。
はるかさんだって女の子、オシャレしたいですよね。
由香さんは、はるかさんに香水をつけてあげました。
そして、次はこんなことを言いました。
「あとお化粧もいいですか?」
福田さんは、苦笑いを浮かべました。
「ああ、いいよ」
それを聞いた由香さんは、小さく笑いました。
「ありがとうございます」
そして、由香さんははるかさんに化粧をしてあげました。
「はるかさん、綺麗になりましたね。
 よかったですね」
俺は、そう言ってはるかさんの頭を撫でました。
「ふふふー。
 私、お化粧得意なんだー」
由香さんが、楽しそうに笑いました。
こんな時にでも笑顔でいられる由香さんって凄い人かもしれませんね。
「そうなんですか……」
俺は、頷くことしか出来ませんでした。
「で、今後の予定だが、中島はるかは、明日遺族のもとに帰ることになる。
 お通夜は、28日にするそうだ。
 そして29日に葬儀がある。
 忙しい時期になるだろうが、出来れば行ってあげてほしい」
福田さんが、そう言うと俺達は頷きました。
そして、はるかさんに言葉を少しかけた後、俺達は家に帰りました。
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