上 下
14 / 18
03 lemon

14

しおりを挟む
「大丈夫。
 水樹さんはいくつになっても水樹さんだよ。
 綺麗で優しい」

 フラレてもいい。
 今、告白しないと後悔する。
 そんな気がしたから……

「ありがとう。
 そういってくれるのは鈴鹿くんだけね」

「そんなことないよ。
 みんな思っているけど口に出さないだけだよ」

「本当に嬉しいことを言ってくれるのね」

「本当のことだよ」

「ありがとう。
 じゃぁ……私も転生して貴方に会いに行くわ」

「え?」

「もう自分が長くないことを知っているから……」

「そんなこと――」

 そんなことない。
 そういいたかった。
 でも、いえなかった。
 水樹さんに嘘はつきたくない。
 たとえ優しい嘘でも傷つくことがあるのを知っているから。

「ありがとう。
 鈴鹿くんは本当に優しいのね」

 僕は涙をこらえる。
 泣かないように泣けないように歯を食いしばった。

「……」

 歯を食いしばる。
 だから言葉が出せない。

「神さまにお願いして早く転生するようにするね。
 私、貴方が迎えに来るのをずっとずっと待っているから」

「うん。絶対に迎えに行く」

「じゃ、ゆびきり……ね」

「え?」

「約束の合図」

「うん」

 僕の小さな指と水樹さんの指。
 せっかく追いついたはずの手の大きさが更に差が開いてしまっていた。

「ゆびきりげんまんうそついたら――なににしましょう?」

「ハグの刑」

「甘えん坊さんなのね」

 水樹さんがそういって笑う。

「うん、僕は甘えん坊でわがままだよ。
 変わらないよ、ずっと変わらないよ」

「そうね。かわらないのね。
 変わらないのは人のいいところでもあるわ」

「うん」

「じゃ、私が先に見つけたら鈴鹿くんのことを抱きしめるね」

「うん」

「ありがとう。そしてさようなら」

 水樹さんが呼吸をひとつ吸い込む。
 その息は吐き出されることはなかった。
 ずっとずっと永遠に……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

記憶の先で笑うのは

いーおぢむ
恋愛
俺の友人、トヴァ・アウラは変わり者だ。魔人ではなく只の人間なのに魔物の言葉が分かる。容姿端麗頭脳明晰、高魔力保持者なのに驕らない。そんな彼女が最も大切にしているのは、彼女の幼馴染みである、イゥ・アクィラという男だ。俺達じゃない。 あの男は幼馴染みのくせして彼女の事なんてちっとも分かっちゃいないのに、俺達の方が彼女を理解しているのに、それでも彼女にとっていつも一番なのは、あの男——— そんな彼女が、その幼馴染みの妹の死により変わった。絶望している幼馴染みを別の奴に任せて、自分はその男の妹が殺されてしまった "要因" を消し去る為に動くらしい。 そんなの付いて行くに決まってる。元々、お前との間にはあの約束だってあんだよ。 ——遥か、遥か遠く、今を生きる者達が知り得ない程昔の、歴史に埋もれてしまった真実。けれど、"それ"を受け継ぐ者達は、確かに存在している。失いたくなかった過去を取り戻そうとする者と、今を守ろうとする者の物語。 ※小説家になろうにも掲載しております。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~

及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら…… なんと相手は自社の社長!? 末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、 なぜか一夜を共に過ごすことに! いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...