上 下
9 / 18
02 僕の生きた証

09

しおりを挟む
 僕は警察の人と話をした。
 食事を満足に与えられなかったこと。
 両親が帰ってこないこと。
 僕は話せるだけの言葉で話した。

 前世の記憶が戻ったことは言ってない。
 信用してもらえないから。

 本当なのに本当じゃないことにされる。

 僕はそういうのを痛いほど知っているから……

 ややこしいこともある。

 でも、今の僕には何も出来ない。
 僕はただ生きることにした。

 昨日は生きた。
 だから明日も生きれる。
 でも、肝心なのは今日を生きること。

 だから前に進む。
 一歩一歩確実に。

 結論から言う。
 僕が今すぐシンガポールに行くことは無理だ。
 まずパスポートがない。
 そして、その手続きをしてくれる保証人もいない。
 なんたって、僕は3歳。

 その現実を見なければいけない。

「はぁ……
 なかなか難しいね」

 正三さんがそういってため息をつく。

「そうですね。
 でも、諦めます」

「諦めるのかい?」

「30年も前の人に思われているのて気持ち悪がられるかなって……
 しかも、死んでいるのに」

「前世の記憶のことをいっているのかい?」

「はい。『前世好きでした』っていっても今更感だよね。
 30年前……好きって言えたらよかったのにな」

「そうだね。そうしたら世界は変わっていたかも知れないね」

 正三さんの言葉が胸にしみる。

「はい」

「でも、変わった未来がいい方向に行くなんて保証はないよ」

「え?」

「若い子ってさ、『あのときああしていれば……』なんて言うけれど。
 そのとき行った行動で成功している可能性が100%とは限らないんだ。
 どっちの行動をとったところで失敗している可能性もある。
 その結果、30年前の君は死に30年後今の君は生きている。
 今からの行動で水樹さんをしあわせにできるって選択肢もあるんだよ?」

「でも、今の僕は子ども……」

「出来ない理由を探すより。
 まずは行動だよ」

 僕の心は揺らぐ。
 嫌ってほど聞いた言葉。
 それでも言われるたびに傷つく。
 言われるたびに想像してしまう。

 しあわせになれるかもしれない未来を……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

記憶の先で笑うのは

いーおぢむ
恋愛
俺の友人、トヴァ・アウラは変わり者だ。魔人ではなく只の人間なのに魔物の言葉が分かる。容姿端麗頭脳明晰、高魔力保持者なのに驕らない。そんな彼女が最も大切にしているのは、彼女の幼馴染みである、イゥ・アクィラという男だ。俺達じゃない。 あの男は幼馴染みのくせして彼女の事なんてちっとも分かっちゃいないのに、俺達の方が彼女を理解しているのに、それでも彼女にとっていつも一番なのは、あの男——— そんな彼女が、その幼馴染みの妹の死により変わった。絶望している幼馴染みを別の奴に任せて、自分はその男の妹が殺されてしまった "要因" を消し去る為に動くらしい。 そんなの付いて行くに決まってる。元々、お前との間にはあの約束だってあんだよ。 ——遥か、遥か遠く、今を生きる者達が知り得ない程昔の、歴史に埋もれてしまった真実。けれど、"それ"を受け継ぐ者達は、確かに存在している。失いたくなかった過去を取り戻そうとする者と、今を守ろうとする者の物語。 ※小説家になろうにも掲載しております。

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。 貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。 …あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

処理中です...