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02 僕の生きた証

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「あはは。鈴鹿くんと話をするの楽しいな。
 ずっと話してられる」

 水樹さんが、そういって笑う。
 これは、僕の記憶。
 何度目かのデートの帰り道。
 水樹さんがいった言葉で僕の胸の鼓動が早くなる。

「え?そっかな?」

「そうだよ」

「楽しいっていってくれたの水樹さんがはじめてだよ」

「えー、嘘!こんなに楽しいのに!」

 水樹さんは、基本こんな感じで褒めてくれる。
 誰にでも優しい。
 そう、誰にでも。
 自分に特別な感情がないことくらい馬鹿な僕にでもわかる。

「ありがとう」

「鈴鹿くんも、もっと話さなきゃダメだよ。
 そんなんじゃ、彼女出来ないよ」

「彼女か……もう諦めてるよ」

「どうして?」

「僕は醜いし」

「気にならないよ?」

「遺伝子の病気持っているし」

「全然気にしない」

「童貞だし」

「気にしない!」

「それに……」

「それに?」

「うんん。
 なんでもない」

「そう?
 それが鈴鹿くんが彼女が出来ない理由?」

「うん」

「だったら大丈夫!
 私は全然気にしてないから!
 きっと鈴鹿くんを選んでくれる人がいる!
 もちろん鈴鹿くんも選ばなきゃダメだからね!」

「うん」

「大丈夫大丈夫!平気平気!」

 水樹さんがそういってニッコリと笑い僕に軽くソフトタッチ。
 心が暖かくなる一方。
 心のどこかが冷たく傷つく。

 そうじゃない。
 そうじゃないんだ水樹さん。
 僕は、水樹さんがいいんだ。
 彼女に恋人に君が欲しい……
 でも、言えなかった。
 でも、言わなかった。
 伝わっていたのか伝わっていなかったのか……
 答えは今はわからない。
 でも、好きって気持ちは伝えたほうがいいってのは自分の都合だけ……
 振る方の気持ちは一切考えていない。
 結ばれるのならいいかも知れない。
 この世の中、結ばれない恋のほうが多いのだから告白するってことは、自分も相手も傷つける行為なんだ。

 ……ってこんなネガティブな考えだから僕の恋は実らなかったのかも知れない。
 やらない後悔よりやった後悔。
 それも正解だけど。
 やらない後悔は、次に活かせる。
 でも、やってしまった後悔は取り返しがつかない。

 そう取り返しがつかないんだ……
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