~マーメイド~

はらぺこおねこ。

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Scene09 カウントダウン

130 ラストソング

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マーメイドもエルフも人間も心がある。

それは頭の中ではみんなわかっていた。
だから世界は動く。

エルフとして作られた存在にも人権が戸籍が与えられることになった。

――とある公園。

梨麻の前に七道が現れる。

「あんたが七道……
 10年前と姿が変わらないな」

「まぁ、不老不死だからね」

「そうか……」

「僕のクローンが――」

七道がそこまで言いかけたとき。
梨麻が言う。

「アンタじゃないんだろう?」

「ああ」

「それより菜々を襲ったやつらは……?」

「実際のところはわからない。
 僕のクローンからのクローンが作られすぎている。
 正直、そのクローンが襲ったかまでは」

「そうか……
 菜々の体内から見つかったDNAは、17人。
 そして捕まったのはアンタひとり。
 他に16人、菜々を襲ったヤツがいる。
 少なくても17人。
 俺はそいつらを――」

「戒めを与えても何も残らないぞ?」

七道が言う。

「え?」

梨麻が戸惑う。

「長い命を与えられわかったことさ……」

「そうか。
 でも、罰を与えなければ菜々の魂が報われない」

「どうなんだろうな。
 去った魂が願うのは残されたモノの幸せだと俺は信じたいがな」

「そうか……」

「坊ちゃま。
 そろそろ時間が」

翁が現れそういった。

「忙しいところ呼び出して申し訳なかったな」

梨麻がそう言うと七道が答える。

「いや問題ない」

「アンタはどうするんだ?」

「俺はこう見えて貿易会社の社長なんだ」

「そうなのか?」

「ああ。七道カンパニー。
 覚えておいてくれるとありがたい」

「ああ、忘れないよ」

「君は君の護るべきものを護るんだ」

七道の言葉に梨麻は気づく。
菜々緒の存在に。

「梨麻……」

「菜々緒」

梨麻は菜々緒を抱きしめた。

「もう菜々を自由にしてやりたい」

梨麻の心のなかで何かが溶けた。

――とある病院

「あら?珍しいお客さんね」

玲奈がそう言うと壱とピノが心配そうに声を掛ける。

「つらそうだね」

管に繋がれた玲奈が小さく笑う。
玲奈はベッドに横たわり目を細めて壱を見る。

「苦しみはないわ。
 薬で痛みはないけれど。
 もうちょっとで逝くみたいね」

「ピノが飛んでけ―する!」

「ダメよ」

ピノの言葉に玲奈は首を横に振る。

「どうして?」

「だってそんなことすれば誰かが死んじゃうでしょ?」

「そうだけど……」

「ありがとう」

玲奈は小さく笑った。

「ああ……
 私が向かう先は地獄かしら?」

「近いウチに私も行くでしょう」

月六がそっと現れる。

「長生きしてくださいな。
 月六さん」

「僕はまだ生きたくないけどね」

翼が言う。

「そうね。拾った命は大事にしてくださいな」

「……玲奈さん」

真櫻が玲奈の名前を呼ぶ。

「真櫻……いじめられてももうないちゃダメだよ」

「はい、泣きません。
 でも、今だけは――」

「ロリとショタもここにいるよ」

ロリとショタが玲奈の手を握りしめる。

「そうね。
 私たちやったことはダメなことも多かったけど。
 あなた達に出会えてよかった」

「明るく元気に生きましょう」

弦の音とともにその声が聞こえる。

「ヒロキも来れたのね」

「見張り付きだけどね」

拾壱がそう言って笑う。

「賑やかね。
 ほんと賑やか」

玲奈が小さく言う。

「……玲奈さん。
 やっぱり貴方は――」

壱がそういったときには玲奈はすでに事切れていた。

涙が溢れる。
涙があふれる。

親しくもない相手が亡くなった。
それだけのはずだった。

憎むべき相手はもういない。

遺伝子操作によって生まれる存在マーメイドとエルフ。
そして人間たちのひとつの戦争が終わりを迎えた。

――数日後・壱の寝室

ピノが言う。

「壱のドーテーは、いつ私にくれるの?」

「え?」

壱は戸惑う。

「ねぇ?」

「未成年に手を出したら逮捕されるんだよ」

「んー。
 ピノは20歳を超えてるよ」

「えっとそうだけど」

「えい」

ピノは壱のベッドに潜り込む。

「ええ?」

ピノは壱の手を握りしめ。
自分の胸に手を当てる。

「どう?」

「えっと柔らかい」

「えへへへー」

ピノは壱の胸に顔を当てる。

「壱の鼓動を感じるよ」

壱はその時初めて感じた。
ピノの胸の鼓動を。

「ピノ……」

「ん?」

ピノが顔を赤らめ壱の方を見る。
ピノはほんの少し涙を流していた。

壱はピノにキスをした。

「ん……」

「壱……」

「離さないからね」

「え?」

ピノの頭が真っ白になる。

「僕はずっとピノのこと……」

「うん」

今度はピノの方から壱にキスをした。

二人はこの日結ばれた。


世界はたまに残酷だけど。
世界はほんの少し優しかった。

-おわり-
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