～マーメイド～

はらぺこおねこ。

文字の大きさ

大中小

31 / 130

Scene04　振り上げた拳

31　奪うものと奪われないもの

しおりを挟む

壱は、ひとりの女の子にピノを紹介しようと駅に向かった。

「ここに壱のお友だちがいるの？」

ピノが、壱の手をぎゅっと握り壱の顔を覗き込む。

「友だちっていうか……
　うーん、やっぱ友だちかな？」

壱が、そういうとピノが恐る恐る尋ねる。

「その人、ピノに痛いことしない？」

「え？しないよ？
　どうしてそんなことを聞くんだい？」

壱の言葉にピノはうなずく。

「うんん……
　なんでもない」

ピノの表情が暗く曇る。

「大丈夫。
　安心していいよ」

壱の言葉にピノは少し安心し落ち着く。

「……うん」

「いつもだとこの辺にいるんだけどな」

ピノの気持ちをよそに壱は周りを見渡す。

「あ、お兄さん」

その声は幼くそして小さな声だった。

「あ、由香ちゃん。
　見つけた」

その女の子の名前は、橘　由香。
年齢は4歳。

幼い顔に似合わずその表情には影があった。

「お兄さん、その女の人が噂のマーメイド？」

「え？どうしてそれを？」

壱は、驚きのあまり舌がうまく周らなかった。

「マーメイドでドーテーを捨てるって梨麻さんが言っていたよ。
　ドーテーってなに？」

由香の質問に壱は戸惑う。

「子どもになにを教えているんだ。
　アイツは……」

するとピノがすんなりと答える。

「童貞と言うのは、彼女がいたことがない人のことだよ」

すると由香が、さらに尋ねる。

「じゃ、私がお兄さんの彼女になる」

由香の目が笑っている。

「えー」

壱は戸惑う。

「ダメ」

ピノが即答した。

「どうして？」

「壱の童貞は、私のものだから」

「えー」

由香の目が涙目になる。
すると壱の後ろから女性の声が聞こえる。

「貴方たち、子どもになにを教えているんですか！」

「あー、先生だー」

由香が嬉しそうに笑う。
女性の名前は、斎藤　奈留。
30歳独身。
噂によるとルパン三世に出てくる峰不二子と同じスリーサイズらしい。
奈留は、少し頬を膨らませ壱の方を見る。

「あ、奈留さん、すみません」

すると奈留が、さらに怒る。

「謝るくらいなら、変なこと教えないでくださいよ」

奈留が、そういうと由香が首を傾げる。

「ドーテーって変なことなの？
　私が、お兄さんのドーテーを貰ったら変なの？」

「えっと……」

奈留が、返答に戸惑う。
どう返せばいいかわからないのだ。

しおりを挟む