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Scene02 漁猫

25 パピコ

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それをきっかけに一は何かが吹っ切れました。

忘れることはない。
思い出すことだらけ。

それでも踏み出した最初の一歩は大きく。
そして優しい道でした。

一は、軽音部に来ています。

「……」

一と。

「……」

葉月。

ふたりだけの世界。

「冷房効かないね」

葉月がポツリと言います。

「うん。修理は来週になるみたい」

「えー、今日は水曜日じゃん」

「うん」

部室の温度は36度。

「ああああ、アイス食べたい」

「そうですね」

「でも、朝に1個食べちゃったんだ」

葉月はそういってため息を吐きます。

「もう1個行っちゃう?」

「いかない。負けない。アイスになんか絶対に負けない」

そう言って1時間が過ぎた頃、葉月はふらっと部室を出ます。
そして数分後……

ご機嫌な様子でパピコを持って戻ってきます。

「負けてるじゃん」

一の言葉に葉月は言います。

「このパピコはアイスじゃないのだ。
 氷菓なのだ」

「そうなのですか?」

葉月はニッコリと笑いパピコをふたつに割ります。
そして、それを一に渡します。

「え?」

「奪い合いは誰かが傷つく。
 でも渡し合いはしあわせを呼ぶんだー」

そういった葉月の目はどこまでも優しく暖かく。
そしてパピコは甘くて美味しい。

そんなことを一は思ったのです。
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