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童話:(ひと)つめ

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  “ある退屈な街に、一人のピエロがやってきました。”

 普通、ピエロはお化粧で顔を白く塗っているだけなのですが……

 そのピエロは不思議な事に、目を隠せるマスクをつけていただけでした。

「さぁ!
 みんな寄っといで、ピエロが手品をするよ!
 良い子は、真似しないで!
 でも、悪い子は真似していいよ!」

 ピエロが、甲高い声でそう言うと子供たちは、おおはしゃぎ。

 最初は警戒していた大人達も、ピエロがこういうとすぐに集まってきました。

「この手品を見たら、悪い子は、とてもいい子に、いい子は、もっと良い子になるよ!」

 ピエロは、風船をひゅ~と膨らませると、それは、大きな大きな犬の形になりました。

 子供たちドキドキ。
 大人たちワクワク。

 ピエロは、一本のマッチを取り出して、その風船に火を付けました。

 すると、子供達から大ブーイング
 するとピエロは、口もとに手を当て【静かに】と、アピールしました。
 子供達が静かになると、今度、犬の形をした風船が、パン!と割れて、今度は、ホットドックになりました。

「さぁ……
 今度は、魔法のホットドック屋さんだよ」

 と、ピエロが言うとひとりまたひとりと、ホットドックを買いました。
 ピエロは、誰かがホットドックを買う度に同じ手品をやるので、子供達は、大喜びです。

 “退屈な街にピエロが、やって来た。”

 そんな噂が、街に広がりました。
 ピエロは顔を隠している為、「美形だ」なんて、話が広まってしまったので町の若い娘にも壮絶な人気があったそうです。

 ですが、ただひとり……
 ただ一人だけ、ピエロを見ても笑わない女の子がいました。

 顔は包帯を巻いて居るのでわかりませんが……
 スカートを履いて居るので女の子とわかりました。

 ピエロは、皆が帰った後、その女の子に聞いてみました。

「僕の手品、面白くないかい?」

 と尋ねると、綺麗な声で女の子は、答えてくれました。

「どうして?」

「そりゃ……
 だって、君はいつも笑ってないからさ……」

 そうピエロが言うと女の子は寂しそうな声で答えました。

「だって、私、目が見えないから……」 

 ピエロは悩みました。
 どうすれば、この子は笑うのだろう……

 ピエロが喋らなくなると女の子はピエロの手を握って今にも泣きそうな声でピエロに言いました。

「お願い、黙らないで……
 私、目が見えないから貴方がどんな表情をしているかわからない!」

 ピエロは、一呼吸して言いました。

「大丈夫だよ。
 僕は仮面を着けているから誰にも、僕の表情は解らないよ」

 ピエロがそう言うと女の子は、クスリと笑いました。
 ピエロは思いました。

『この子には、笑い続けて欲しいな。』

 ピエロは町で一番の人気者になっても、その女の子にショーが終わるたびに話しかけて行きました。
 あまりにもピエロが、女の子に話しかけるので他の町娘達は、少しやきもちを焼いていました。

 マスクを付けたピエロと顔に包帯を巻いた女の子の組み合わせは、奇妙ながらも町の噂になってしまいました。
 ある日、いつもの様に二人で話して居ると大きな体の男が三人近寄って来ました。

「素顔を見せろ!バケモノ達!」

 男たちは酔っているのかおぼつかない足取りで……
 女の子につかみ掛かって勢いよく女の子の包帯をほどくと、それを見た男達の酔いは一気に冷めました

 何故なら、女の子の顔はこの世のものとは思えないほど美しく……
 とても綺麗でした。

 それを見て今まで嫉妬していた街娘達も、おじさんもおばさんも、子供も犬もネコも、ピエロでさえ、息を飲むのも忘れて見とれてしまいました。
 男達たちは、正気に戻ると今度はピエロの仮面を外そうとしました。

「やめろ!やめてくれ……!」

 と、抵抗しましたが、ピエロは力では勝てませんでした。
 男が、ピエロの仮面を外すと、誰もがピエロに注目しました。
 一瞬、時が止まったかの様に、街は静かになりました。

 最初に、悲鳴をあげたのは、街娘でした。

 大男達は、ピエロを突き飛ばすと、口々に叫びました。

「バ、バケモノ!」

 ピエロの顔は、口は皆と同じ場所に同じ形でありました……
 しかし、その上は、大きな目が一つ。
 そして、その上に鼻の穴のようなモノがあるだけでした。

 皆、ピエロから距離を取りました。
 子供たちは、ピエロの姿を見て泣き大人たちは、ピエロに石をぶつけました。

 ピエロは、言いました。

「皆さん、あんなに仲良くしてくれたじゃないですか……!
 僕の目が一つだからいけないんですか……?」

 ピエロは涙を流しながら訴えました。
 しかし、町の人は、「消えろ!」の一点張りでした。

 ピエロが、がっくりと肩を下ろすと、町を出ました。
 ピエロは、街から離れて、振り替えると……

「ありがとうございました」

 と、お礼を言いました。
 ピエロは、今までも似た経験を何度もしているためこういうのには慣れていました。

 だから、ピエロは、「いままで、ありがとう」とお礼をいいました。

 ピエロが、街の反対側を向いて歩こうとしたとき誰かが、ピエロの手を優しくそして力強く握りました。

「ピエロさん……?」

 ピエロは、振り替えるとそこにはあの女の子が、包帯とピエロの仮面を持ってピエロの手を握っていました。

「私を置いて行かないでください……」

 女の子は、ピエロに泣きながら訴えました。
 だけど、ピエロは何も言えませんでした。

「黙らないでください!」

 女の子は、そう言うとピエロの手をギュッと握り締めました。

 ピエロの胸が、ズキズキと痛みます。

 自分の目がどうして、二つないのだろう……?
 どうして、自分の目は一つしかないのだろう……?
 その日だけは、呪いました。

「僕は街の人が言うように、目が一つしかないから……
 人間じゃないらしいから……
 一緒には慣れないよ……」

 そう、今にも泣きそうな声でピエロは言いました。
 しかし、女の子は言いました。

「知ってます。
 見えてます……
 黙っていてごめんなさい……
 私の目、少し前に治っていました……
 言ってしまったら、ピエロさんは私の相手なんてしてくれなくなると思って…… 
 黙っていてごめんなさい……
 だから、私の前からいなくならないで……
 私もつれていって……」

 女の子はそうピエロに頼みました。
 ピエロは言いました。

「見えているなら、解るでしょ?
 僕は、気味悪くて怖がられる事には慣れているから……」

「私、怖くなんてありません!
 だって、私ピエロさんのことが好きになってしまいましたから!」

 そう言ってピエロを抱き締めました。
 ピエロは、嬉しくて涙を流しました。
 ふたりは、その後一緒に旅を続ける事になりました。
 そして、国中でこんな噂が広がりました。
 かわいらしい姿をした、目が一つしかないモノが手品で人々の心を癒してくれると……

 その、ピエロのことはみなこう言いました。

「ひとつめ」と……
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