不老に剣士

はらぺこおねこ。

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Scene09 滅びのとき

198 わからないまま

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「……ありがとう」

クズきりくんが目に涙を浮かべます。

「うんん」

アソパソは、首を横に振ります。

「嬉しいな」

クズきりくんは、切なそうに笑います。

「ありがとう。
本当にありがとう」

クズきりくんは目に涙をボロボロと流しお礼を言いました。
アソパソの心がチクリと痛みます。

「……うん」

クズきりくんの身体がうっすらと透明になっていきます。

「あっ」

クズきりくんが自分の身体を見て少し驚きます。
アソパソは拳を前に出します。

「ヒーローの誓いだよ」

クズきりくんは、拳をアソパソマソの拳に当てます。

「これずっとやりたかったんだ」

クズきりくんが笑います。
おそらく今までで一番なくらいの笑顔を見せました。
それが更にアソパソマソの心をグサリと指します。

「そっか」

アソパソは、そんなクズきりくんから目を逸らしました。

「ありがとう。
アソパソ。
僕だけのヒーロー」

アソパソは驚きます。
そして、クズきりくんの方を見ました。
そこには誰もいませんでした。

「いったようだな」

バイキンが現れる。

「うん」

アソパソが小さく涙を流します。

「……あいつ。
わかっていたんだな」

「うん」

アソパソが涙を拭います。

「すまない。
お前にばかりつらい目に合わせてしまって」

バイキンマンが申し訳なさそうに謝ります。

「君のせいじゃないさ」

「俺様は……無力だ。
バイキンの王。
それはただの戯言。
俺様は、何者にもなれない」

「僕だってそうさ」

アソパソの言葉が切なく驚きます。

「だがな、自分が無力だと感じてからが成長のときだと思うぞ」

「僕はそんな風に割り切れない」

「強くなるんだ。
俺様たちがやらなければおそらく世界はあいつに飲み込まれる」

「僕はあいつが憎い」

「ああ」

バイキンが目を閉じうなずきます。
そして言葉を続けました。

「だが今の俺様たちでは勝てない。
あいつには手も出せない」

「うん」

「だが今のだ……
未来の俺様たちなら或いは」

「僕も強くなれるかな?」

「なるんだ。
強く強くなるんだ。
誰よりも、誰よりも強く」

バイキンは、ゆっくりとした口調で言いました。

この世界は冷たく。
誰よりも厳しい。

それを実感していました。
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