不老に剣士

はらぺこおねこ。

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Scene04 あなたへ

73 勇気の実

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「なんのために産まれて。
誰かのために死ぬのか。
わからないまま終わるのか」

ひとりの中年が今死のうとしていました。
妻と娘を目の前で犬に犯され、そして食い殺され……
おじさんにはどうすることもできませんでした。

魔力の絶対的な差。

その辺の一般人よりも魔力を持たないおじさんが。
テオスに選ばれし犬に勝てるはずもありません。

なぜ自分が殺されなかったのか。
なぜ自分の妻と娘が選ばれたのか。

おじさんにはわかりません。

ただ残された命への罪悪感。

それだけが残されていました。

「もういい、死のう」

考えるのを止めます。
ナイフを片手に首を斬ろうと思いました。

「死ぬのかい?」

するとおじさんの前に少年が現れます。

「貴方は誰ですか?」

おじさんがそういうと少年が答えます。

「僕かい?僕はナナシとでも名乗ろうかな」

「ナナシくんかい?」

「そう名前がないんだ。
だからナナシ」

「そうかい」

「で、死ぬのかい?」

「そうだね、君には刺激が強すぎる。
 早くこの場を離れるんだ」

「まぁ、死ぬのなら止めないけど。
 死ぬ気になって強さを求めてみない?」

「何を言っているんだい?」

「この【勇気の実】という薬を飲めば強くなれるかもしれない」

「そうかい」

おじさんにはナナシが何を言っているのか理解できません。

「まぁ運が悪いと死ぬんだけどね」

「服薬自殺か……」

「強くなるとテオスを倒せるようになるかもしれない」

「そうかい」

「さぁ、この薬を飲んで最強の力を手に入れよう」

おじさんの前にナナシは薬を差し出します。

「わかった」

おじさんは迷うことなくその薬を口の中に入れます。

「思ったより大胆だね」

「身体が熱い」

おじさんは、胸を押さえます。

「熱いで済んだのなら成功だね」

「この薬は……」

「鰤谷印の勇気の実、副作用で死ぬ可能性が高いから開発は中止されたんだ」

「く……」

おじさんはそのまま意識を失いました。

「これで君はヒーローになれるよ。
そうだねヒーロー名はサラリーマンなんてどうだろう?」

ナナシの言葉におじさんは反応しません。

「眠ったようだね。
目を覚ました時。君は最強候補のひとりだ」

ナナシはそう言い残しその場から姿を消しました。
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