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Scene.08 風の舞う空へ

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 勇気が大地を駆ける。
 走れど駆けれど早良が、見つからない。

「ふふふ……」

 プリシラが、小さく笑いながら勇気の前に現れる。

「プリシラ!」

「どうかしら?
 私の無限地獄は……」

「貴方、私に何かしましたの?」

 勇気がそう尋ねるとプリシラが笑いながら答える。

「無限地獄よ。
 相手を無限の地獄へ陥れ私を殺すまでここから逃げれない。
 さぁ、私を捕まえてごらんなさい」

 プリシラが、静かに姿を消す。

「逃げられた?」

 勇気が、周りを見る。
 すると勇気の足元から炎の刃が襲う。

「あは!
 私ね、こうやって人間を弱らせて殺すのが好きなの!
 ねぇ、ボクちゃんはどこにいるの?
 教えてくれたら命だけは助けてあげるわよ?」

「教えませんわ!
 貴方なんかに……大事なお友だちの場所を教えませんわ!」

「いいわ……
 貴方なんて豚の餌になればいいのよ」

 プリシラが、そう言って剣を抜いた。
 勇気も剣を抜く。
 すると1本の水が、プリシラを襲う。
 プリシラは、大きく後退しその水を避ける。

「あ、避けられちゃった」

 そう言って現れたのはボクだった。

「ボクさん?
 どうしてここに……?」

「逃げて来ちゃった」

 ボクが、小さく笑う。

「待ち!
 そんな言い方したら、ウチが逃がしたみたいやんか!
 ちゃんと首輪つけてるやろう?」

 ハデスが、そう言ってボクの首につながっている首輪の紐を引っ張る。
 するとボクがいた場所から火柱が上がる。

「あら?
 私の奇襲バレちゃったのかしら?」

 プリシラが、ハデスを睨む。
 ハデスは、無言でデスサイズを召喚し手に取る。

「3対1。
 プリシラ、アンタといえどこの人数なら負けるで?
 降参するなら今のうちや!」

 ハデスが、そう言うとプリシラが笑う。

「負ける?私が?人間程度に?」

 プリシラの魔力がだんだんあがっていく……
 ハデスと勇気が一歩下がる。
 恐怖を感じる。
 絶対的な優勢な立場。
 その現実にハデスと勇気は身震いした。
 ただひとり、ただひとり。
 それに臆しないものがいた。
 ボク。
 戦闘能力、潜在能力、全てにおいて低いボク。
 弱さゆえ相手の実力を感じることが出来ない。

「レベルアップ・ザ・ソード。
 レベルアップ・ザ・デスサイズ……」

 ボクが、そう言って勇気とハデスの背中を触る。
 すると勇気とハデスの武器から強力な魔力が放たれる。

「武器をレベルアップ?
 良いわね……その発想好きよ!
 でも、武器はね!当たらなければいいの!
 当たる前に壊しちゃえば、使うものを殺しちゃえば――」

 プリシラが、そこまで言いかけたときボクは水鉄砲をプリシラに放つ。
 プリシラは、自分の力を示すため、それを右手で防ごうとした。
 しかし、プリシラのそれは誤算だった。
 ボクの水鉄砲の威力は予想以上に高くプリシラの右手を破壊したのだ。

「油断は戦場において死を招く」

 ボクが、呟く。

「ボクちゃん、そんなに死に急ぎたいの?
 貴方たち程度、私に左手一本あれば……」

 プリシラが、そこまで言いかけたときボクは再び水鉄砲を放つ。

「僕、こう見えて結構怒っているんだ。
 大事な友だちを殺され、また君は僕の友だちを殺そうとしている君に……」

「そう、でも言ったでしょう?
 武器は、どんなに強力でも当たらなければ意味はない」

「当てればいいんだ」

 ボクは、そう言って再び水鉄砲を今度は空に向かって放つ。

「どこに向かって撃っているのかしら?」

「レベルアップってさ。
 どんな風にレベルが上がるか他人にはわかんないよね」

「何を言って……」

 プリシラは、大きく後退する。
 強力な水が、空から降り注ぐ。
 水は地面に落ち、大きく穴をあける。
 そしてその雫がプリシラにめがけて飛んで行く。

「さっきも言ったでしょ?
 油断すれば、誰でも死ぬ」

「そんな水、私の炎で焼きつくしてやるわ!」

 プリシラが、炎を召喚し水を焼きつくす。

「知ってる?
 水は炎を消すんだよ」

 ボクが、そう言ってプリシラの炎を新たなる水鉄砲で消した。
 そして、ふたつめの水が、プリシラに襲いかかる。

「何を!なんで!なによこれ!
 アンタのレベル1でしょ?
 なんで、こんなに……こんなに強いのよ!」

 プリシラが、そう言いながら水を避ける。
 ボクは、無言で水鉄砲と無数飛ばす。

「僕が強いんじゃないんだ。
 武器が強いんだ」

 ボクが、そう言ったときプリシラの足に水が当たる。
 プリシラの足が破壊される。

「そんな!!
 この魔神の私が、レベル1の人間ごときに……」

 プリシラが、そう言って動きを止める。
 そして、ボクがプリシラの額に水鉄砲と当てる。

「バン!」

 ボクが、そう言って銃の引き金は引かなかった。

「なんのつもりかしら?」

「君はボクの友だちを殺した。
 だけどボクは君を殺さない。
 殺したから殺されて殺されたから殺して……
 そういうギスギスしたの苦手なんだ」

「後悔するわよ?」

「そうだね……」

「これ以上の屈辱はないわね……」

 プリシラは、そう言うと姿を消した。

「……ハデスさん、勇気さん。
 ごめんね」

 ボクが小さく謝る。

「アンタは悪ない、謝る必要なんか無い」

 ハデスが、そう言うと勇気も言葉を放つ。

「そうですわ。
 今は早良さんが、心配です。
 すぐ早良さんを追いかけましょう」

 そして、3人は走る。
 早良の元へ……
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