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Scene.07 顔のある月

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「……行ったようだね」

 吟詩が、そう言って大きく息を吐いた。

「無くんは?」

 ボクが、再びハデスに尋ねる。

「さっきも言うたやろ?
 心臓潰されてしもうたんや……
 ウチのヒーリングシルクでも死んだもんは治らん」

「無くん死んじゃったの?」

 早良が、今にも泣きそうな顔で言った。

「……はい。
 亡くなりました……」

 ブリ男が、そう言うと小さくうつむく。

「そんな……」

 早良は涙をこぼす。

「僕がもっと早く来ていれば……」

 ボクが、沈む。

「一緒だと思うよ」

 吟詩が、そう言ってギターを鳴らす。

「一緒とは?」

 ブリ男が吟詩の方を見る。

「プリシラの目的は、最初から無くんを殺すことだったのさ……
 ただ、ボクくんの成長は想定外だったんだろうけどね」

「そうですか……」

「無!
 おめぇ、無じゃねぇか!」

 そう言って現れたのは、無の父。
 親父さんだ。

「見ねぇ顔もあるが、アンタたちはこの間ウチに来た子だろう?
 これは、一体どういうことだ?」

 親父さんが、怒りに満ちた目でブリ男の方を見た。

「申し訳ありません。
 怪人にやられてしまいました」

「怪人……?」

 親父さんは、無の胸に手を当てた。

「ここを潰されたのか……?」

「はい」

「怪人の奴め……
 酷いことをしやがる」

 親父さんは、その場で涙を零した。
 その場には、ただ……
 ただ、親父さんの泣き音だけが響いた。
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