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Scene.05 謳うもの

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「ずいぶん楽しそうだねぇ」

 弦楽器を持った青年が、ブリ男に尋ねる。
 ブリ男は、その青年の魔力を感じ間合いをあける。

「貴方は何者ですか?」

「僕かい?
 僕は謳うものさ」

「謳うもの……ですか?」

「そう、謳うもの。
 君たちの世界でいうところの勇者かな。
 鰤谷 ブリ男くん」

「どうして僕の名前を……?」

 青年は、小さく笑う。

「それは僕が勇者で、君が悪魔だからさ……」

「答えになっていませんね」

 そう言ってブリ男は、フリーズガンを召喚し構える。

「答えだよ。
 僕は、君を殺そうと思えばいつでも殺せる。
 だけど、それはしない。
 何故だかわかるかい?」

「わかりませんね」

 ブリ男は、先手必勝の銃弾を放つ。
 しかし、青年が楽器を軽く奏でるとその銃弾がその場で爆発する。

「……僕の銃弾が効かない?」

 ブリ男が、再び銃を構える。

「そう警戒しないでくれないか?
 僕は君とここで戦う気はない」

「では、何をしに来たのですか?」

「僕ら勇者は、悪い魔王しか狩らない。
 君らブリタニ国の人間は、悪い魔族じゃない。
 だから、君は狩りの対象外さ……」

「どういう意味ですか?」

「ハタハタの場所を教えてもらおうかと思ってね。
 ちょっくら僕たち勇者が滅ぼしてこようと思ってね」

 青年が、そう言うと新たにふたつの影が現れる。

「貴方たちも勇者だと?」

 金髪に紅い瞳を持った青年が笑う。

「そういうこった。
 早く吐け殺すぞ!」

「吐けと言われましても、居場所がわかれば僕らブリタニも苦労はしませんよ」

「だろうな」

 銀髪に黒い目の男がため息をつく。

「貴方たちは、本当に勇者なのですか?」

「そうだよ。
 僕は、星 新一」

 青年が笑う。

 そして、金髪の青年が刺々しい口調で言葉を放つ。

「杉山 太郎だ」

 続いて銀髪に黒い目の青年が自己紹介する。

「南野 灰児だ。
 名前くらいは知っているだろう?」

 ブリ男が、小さくうなずく。

「はい……
 名前だけなら……」

「なら、話は早いな。
 さっさと居場所を吐いてもらおうか?」

 灰児がブリ男を睨む。

「いえ、本当に知らないのです」

「死にたいのか?
 そんな嘘が通じるとでも?」

 太郎が、ブリ男を睨んだ。

「まぁ、知らないってのは本当だろうね。
 失礼、では僕たちはこれで失礼するよ」

 新一が、そう言うと姿を消した。

「新一、待てよ!」

 灰児もそう言って姿を消す。
 太郎が、鼻で笑うとその場から姿を消した。

 その場にブリ男、ただひとりだけが残された。]
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