マーメイド

05 振り上げた拳

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「お母さんに会いたいな」

由香の言葉に壱の胸が痛む。

つらいこと。
苦しいこと。

全く知らないわけじゃない。
薄々気づいているのだろう。

そのママが姉を殺したことを……
当時はワイドショーなどでも取り上げられ壱も知っているはずのニュース。
でも忘れていた。

流れるように流されるままに。

そうして生きてきたのは自分だけじゃない。
でも思った。
でも誓った。

自分はこういう子どもたちを護りたいと。

せかいはまるくざんこくだった。
あかるいみらいなんてない。
くらいかこもない。
なんにもない。
なんにもない。
なんにもないせかい。
だからざんこく。
だからまっくら。
だからくるしい。
なんのためにいきるのか。
なんのためにしんだのか。
ごはんになるためにうまれ。
おかずにすらなれなかった。
いわゆるはいきしょぶん。
おいしくない。
まずい。
きもちわるい。
そんなりゆうですてられた。
だったらころさないで。
しにたくない。
いきたい。
いきたい。
もっといきたい。
わたしにはあしたがないのに。
あなたにはきのうがないのに。
どうしてあのひとにはあるの？
わたしたちにはきょうがない。
いっぷんごにはしんでいる。
わたしたちにはいまもない。
いちびょうまえにはしんでいる。
うたはうたう、きょうのいま。
わたしたちはうたう。
あしたのために。
じぶんにはない。
いちびょうあとのみらいのために。

しをうたう。
いきるために。

しをわらう。
ころすために。

あなたを。
いま。
わたしのうででだくために。

このてはだれかをすくうためにあるのだから。