マーメイド

はらぺこおねこ。

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04 赤ちゃんの十戒

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 それは、ある母親が書いた手記の一部だ。

 明るくもない。
 暗くもない。

 今いる場所は狭い場所。
 暖かくて気持ちよくてふわふわする。

 そこでたまに聞こえる鼓動に癒やされる。
 だから、決して彼女たちは、そこで泣くことはなかった。
 泣けば、そこから追い出される。
 そんな気がしたから……
 でも、ずっとその場所に入れるわけじゃない。

 その体は、ぎゅっと押し出される。
 そして、目には見えないが眩しい光がその小さな体を包み込む。

 そして、はじめて大声を出した。

「おめでとうございます。
 元気な女の子ですよ」

 助産婦がそう言って嬉しそうに笑う。

 懐かしい匂いに優しい香り。
 そして、時折聞こえる鼓動がどこか癒やされる。

 そこで、初めて気づく。

 ああ。
 この人が私のママなんだ……

 そのあとに続くのは優しい男の人の声。
 これは、パパの声なんだな。

 狭い世界にいたとき時折聞こえる優しい声だった。




 ――それから2年後。


 彼女はしあわせだった。
 パパもママも優しい。
 彼女はとてもしあわせだった。

「まーまー」

 彼女は走った。
 ママのところに走る。

 ここは、彼女とママとパパの暮らすマンションの公園。

「理香、上手に走れるようになったわね」

 ママが、そう言って笑う。
 ママの名前は、橘 静。
 そして、よたよたと走る女の子の名前は、橘 理香。

「じょーず?
 理香、じょーずに走れるよー」

 理香は、そう言って静の周りをくるくると走った。
 理香は、ただそれだけでしあわせだった。
 自分がふざければママが笑う。

「今日ね、パパが早く帰ってくるんだよ?」

 その言葉で理香はさらにしあわせになる。

「ホントに?」

「うん。お仕事早く終わらせてケーキを買ってきてくれるんだって!」

「ケーキ!」

 それを聞いた理香の心はさらに嬉しさに包まれる。

「甘くてふわふわするケーキだよ」

「わーい!」

 理香は、笑う。
 嬉しそうに笑う。
 理香はケーキが大好きだった。

「わーい!」

 理香と静は、きゃっきゃっと騒ぎながらマンションの中へと入った。
 部屋に戻ると理香は、靴を脱ぎリビングに向かいテレビの電源をつける。

「理香、先に手を洗おう?」

「はーい!」

 理香は、静と一緒に洗面所に行き手を洗った。

 そして、そのあと大好きなアニメ、アンパンマンを見た。

 静は、晩御飯の支度をしていた。

 理香はおとなしくアンパンマンを見ている。

 理香の鼻をいい匂いが刺激する。
 この匂いは、理香が大好きなクリームシチューの匂いだ。
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