上 下
160 / 186
Scene07 コインロッカーの女の子

161 コロッケ

しおりを挟む
 パパが作ってくれた料理は、コロッケだった。
 外がサクサクで、中はホクホク。
 美味しかった。

 ママも美味しいって言っていた。
 だけど、その表情は寂しげで悲しげだった。

 ママは、涙を流しながらコロッケを食べていた。

「ママ、どうして泣いているの?」

「静どうしたんだい?」

「なんでもないの……
 なんでもない……なんでもないの……」

 ママは、ボロボロと涙をこぼした。

「そっか……」

 パパは、ママの傍に座るとママの体を抱きしめ優しく撫でた。
 ママの涙は、止まる事はなかった。

 パパは、優しくママを包み込み。
 優しく撫でた。

 何も言えない。
 何も言えなかった。

 ただ見ているしか出来なかった。
 スプーンで、コロッケをすくった。
 それを口に運ぶ。

 美味しい。

 心の中の鐘が鳴った。
 パパもママの顔に笑顔が戻る。
 このまま笑顔が戻るんだと思っていた。

 だけど、現実は姉には優しくは無かった。

 それから3ヶ月が過ぎた。
 パパとママと一緒にご飯を食べていた時。
 ママが、照れくさそうに言った。

「出来ちゃったみたい」

「え?」

 パパの表情が一瞬固まる。

 何ができたのだろう?
 ご飯かな?
 あれ?
 でも……ご飯は、今食べてるよ?

「赤ちゃん出来ちゃったみたい……」

「ほ、本当に?」

 パパが、嬉しそうに笑う。

「……うん。
 3ヶ月だって……」

「そっか……!
 男の子?女の子?」

「まだ、わかんないよ」

 ママが、苦笑いを浮かべる。

「理香良かったな!
 お前、お姉ちゃんになるんだぞ!」

 お姉ちゃん?
 お姉ちゃんってなんだろう?

 姉は、首を傾げた。

「妹か弟が出来るんだぞ?
 理香、もっと喜べ!
 家族が増えるんだぞ?」

 パパは、姉の体を抱きしめ、物凄く嬉しそう。

 パパのしあわせは、姉のしあわせ。
 ママのしあわせは、姉のしあわせ。

 だから、しあわせせいっぱいのはずなんだけど何故だろう?

 姉は、素直に喜ぶ事は出来なかった。
 何故だかは、わからない。
 姉の中で何かが音を立てずに壊れた。

 パパとママが、抱き合う。

 それは、とてもしあわせそうな顔だった。
 だから、しあわせになりたい。
 だけど、自分はしあわせにはなっていない。

 何故か涙が零れた。

 しあわせの音が、音を立てて崩れていく……
 そんな気がしたから……

「理香……?」

 ママが、姉を抱きしめる。

「なんにも不安な事なんてないから……」

「そうだぞ……
 パパは、ママと理香を一生守って見せるからな?」

 パパが、涙をティッシュで拭いてくれる。

 それでも、消えない。
 この不安はなんだろう?

 姉は、泣いた。
 わんわん泣いた。

 涙が枯れて疲れ果てるまで泣いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

【R18】通学路ですれ違うお姉さんに僕は食べられてしまった

ねんごろ
恋愛
小学4年生の頃。 僕は通学路で毎朝すれ違うお姉さんに… 食べられてしまったんだ……

処理中です...