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06 君なき日々

05

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 向かった先は、工場。
 体力のない僕は、息を切らし工場に着く頃にはバテバテだった。
 それを見つけたのが、川名さん。
 僕が工場内を駆けまわって川名さんを見つけるってパターンだと思ったんだけど……
 ドラマみたいにそんな感じには、いかないよね。

「斎藤くん。
 どうしてここへ……?」

「さよならも言わずにお別れなんてしたくないからね」

「そうですか……
 さようなら」

 川名さんが、その場をさろうとする。

「待って!
 大事な話があるんだ」

「大事な話?」

 川名さんが、歩く足を止める。

「護も美姫もジンクス持ちだったんだ」

「え?」

「つまり、川名さんのジンクスが原因で護や美姫が死んだんじゃない」

「でも……」

「それに僕もジンクスもちなんだよ?
 『好きになった人が他の人としあわせになる』って……
 『好きじゃなくなったときその人の最悪の不幸が訪れる』って……」

「……はい」

 川名さんが、小さくうなずく。

「だから、学校においで。
 護も美姫もいないけど、葉月先輩や宮崎さんも心配しているよ。
 また、お弁当を一緒に食べようよ」

「ダメです……
 そんなことしたら私……」

「僕は……
 僕は、川名さんが好きだ!」

 自分でも驚いている。
 こんな青春ドラマでもやらないセリフを言うなんて……

「そんなこと言われたら、私も好きになってしまうじゃないですか……」

 川名さんが、涙を流す。

「……じゃ、付きあおう!」

「いいんですか?
 私が好きになれば、一さん死んじゃうかもしれないんですよ?」

「僕が好きになれば、その人はしあわせになるんだ……
 川名さんがしあわせになれるのなら、僕の命くらい――」

 僕は、そんなことをいいながら、息を切らしてハァハァ言ってカッコ悪い告白だと思う。
 だけど、川名さんはキスをしてくれた。
 僕の唇にキスをしてくれた。
 生まれて初めてのキスだ。

「もう好きになりました。
 どうなってもしりませんよ?」

 川名さんがそう言って照れ笑いを浮かべる。
 僕も恥ずかしくなり顔を赤らめる。

「……うん。
 絶対に川名さんをしあわせにしてみせるよ」

「約束ですよ」

「うん」

「では、明日学校で会いましょう」

 川名さんがそう言ってニッコリと笑う。
 僕もニッコリと笑みを返す。

 これが、僕たちの物語のはじまりなんだ。
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