蜻蛉奇譚

jacker

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始まり

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「僕は蜻蛉になる。」と寺山が言った。
 寺山とは中学校の頃のクラスメートで、僕の唯一の親友といってもいいだろう。僕はもともと一人っ子でそれと関係あるのかはわからないがあまり人と交わるのが得意ではなかった。僕が高校生の頃はみんな兄弟が必ずいて会話にも度々上がっていた。そんな話を聞いているとぼくはふと自分に兄弟がいたらと想像してしまった。しかしどうしてもうまくイメージできなかった。そして何より僕が嫌だったのは、あなたは何人兄弟なの?と聞かれる時だ。僕が一人っ子だというと誰も決まりきったように黙り込んだり、またひどい時には、そうかお前は過保護されながら生きてきたのかと言う人もいた。どうして僕には兄弟がいないんだろう。しかしそれは結局どうにもならないことだったのだ。もうすでに時間は進んでるしもう僕に兄弟ができることはないんだ。
  寺山とこころを通い合わせたのはそんな頃だった。偶然話しが兄弟の話になり僕と寺山は互いが一人っ子であることを知った。それからは急激に互いの仲が縮まり僕らはいつも話していた。彼が好きだったのは本を読むことだった。彼は特にカフカが好きでいつもその話をしていた。中学生の僕には全く聞きいたことのない名前で、僕は全く話が理解できなかったので適当に相槌を打って、自分が話す番になるのを待っていた。本について話している時の彼は、信じられないほど雄弁で、なぜみんなこんな素晴らしい世界を知らないんだ、と語りかけていた。しかし、話している時の彼は自分の世界に閉じこもってるようにも見えた。だからそのことはぼくを少なからず居心地悪くさせた。彼が語りかけているのはいつも誰かだった。僕ではなくても良かったのだ。しかしそのようなことを除けば僕たちの関係は親友と呼べるものだった。
  彼とは高校受験の時に両親の都合で僕が引っ越すことになって彼とは違う高校に進むことになって以来、最初の3ヶ月は2、3回あったのだが、それ以来は全く合わなくなってしまった。
 彼と再び再開したのは僕が高校二年生の時の東京の大学のオープンキャンパスに行った時のことだった。僕たちは出会うや否や近くのベンチに座り、お互い、まだ苦いと感じながらコーヒーを飲んだ。今思えばあのコーヒーは単にまずかっただけだった。最初に彼が口にした言葉がそれだった。
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