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第一章 混血少女の転生記
01. 悠季とアシュレイ ※修正
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――――これまた、懐かしい夢を見たな。
攻略者が死んで以来、打ち捨てられた古い迷宮(ダンジョン)の最奥に作った秘密基地で昼寝をしていた、今年10歳となる少女――アシュレイ・カデンツァ・リーヴェンスは吊るしたハンモックから飛び降りると、壁に立て掛けた細身の長剣を腰に差し、秘密基地を後にする。
アシュレイ――かつて「九重 悠季」と呼ばれた、光の女神が犯した禁忌によって殺された人間の魂がアシュレイ・カデンツァ・リーヴェンスとしてこのディーゼガルドに転生してから10年。
アシュレイとして新たな命と生を得た悠季は存在を神々に感知される事なく、厳しくも優しい両親がいて、一緒にやんちゃしたり遊んでくれる兄弟や友達がいる、前世では味わえなかった真っ当な子供時代を全力で謳歌していた。
最初は前世の記憶など欠片もなかった。
5歳の時、この世界で「因縁の宿敵」となる存在の一人と出会った事がきっかけで突然原因不明の高熱を出し、三日三晩生死の境を彷徨った末に見た悠季としての27年間分の人生の夢を見た事で全てを思い出した。
自分が、アシュレイ・カデンツァ・リーヴェンスであると同時にこのディーゼガルドの神に殺され、地球の神話の神々からこの世界の“勇者”を超える力を与えられて転生した地球人「九重 悠季」である事を。
思い出したのまでは良いが、アシュレイは今まで通り普通の子供として振る舞った。
前世の記憶が戻ったのは万々歳だが、両親や兄弟の事は好きだし、この世界の住人に対して怨みがある訳ではない。
ましてや、前世の27年分の記憶や経験があるとは言え、例の“勇者”を超える力とやらも顕れておらず、アシュレイ自身はまだ親の庇護下にあるべき子供だった。
しかもただの子供ではない。
上位魔族であり吸血鬼の王《ヴァンパイア・ロード》が治める国の、妾腹とは言えど歴とした第1王女であり、母親は昔「悠季」の命と輪廻を子供のような癇癪でねじ曲げた光の女神アルマリアの側近として仕えていたが、自分が加護を与えた人間の少女を女神に殺された事で女神への忠誠と敬愛、そして利き腕だった左腕を捨てて堕天した元最上級天使だった。
ダンジョンを出たアシュレイは吸血鬼達が昼間に外出する時は必ず被る日除けのケープを目深に被ると指笛で10年間共に育った相棒を呼ぶ。
森の奥から現れたのは、このディーゼガルドで滅多に人に慣れる事のないとされる竜の一種・ワイバーン。
「アーシュ、お昼寝終わった?」
「うん。待たせてごめんな、シエル。そろそろ帰ろうか」
アシュレイの前世である九重 悠季にはある二つの能力、基、異常な体質があった。
彼女自身がそれを隠しながら使用し、悪用しようとは思ってもいなかったその体質の一つは母方の家系によく顕れたと言う竜や蛇等の爬虫類全般との意志疎通だった。
子供の頃から大抵の爬虫類は悠季の言うことを聞き、唯々諾々と従った為、一時期は脱走した爬虫類系ペットの捜索のバイトも請け負っていた程だ。
その体質はアシュレイとして転生してからも健在で、赤ん坊の頃に魔王から下賜されたワイバーンの卵から孵ったシエルが母を求めて暴れた時、まだ掴まり立ちがやっとだったアシュレイが暴れるシエルを鎮めると言う事件が起きた。
この世界において純粋な竜種は他の種族に対しては絶対に慣れない孤高の生き物であり、ワイバーンは竜種の中で最も飛行能力に優れ、高い知能を持つが、竜種で一、二を争うその凶暴性はこれまで竜種を騎獣にしようとしてきた者達を幾人も食い殺しており、この事実から竜種を騎獣とする事は絶対に不可能とされてきた中、当時赤ん坊のアシュレイがその常識を覆した。
この前代未聞の事件をきっかけにアシュレイの存在は大陸中へと知れ渡り、渦中の人である当時1歳のアシュレイは卵を下賜した張本人である魔王レイヴァルトから直々に「竜の姫騎士」の称号と初代魔王の愛剣であった伝説級(レジェンダリィクラス)の魔剣「エウリュアレ」を賜った。
この一件のせいで元々近隣諸国から一定数来ていた暗殺者が倍に増えたのだが。
「アシュレイ?どしたの?」
相棒の呼び掛けに我に返ったアシュレイの目の前には不思議そうな顔をするシエルのどアップ。
「あー…何でもない。じゃあ、帰ろうか」
アシュレイは乗りやすいように身を屈めたシエルの背に跨がり、手綱を掴むと空に舞い上がる。
「俺ねー、アシュレイ背中に乗せて飛ぶの大好き!」
「俺も、シエルの背中に乗って飛ぶの好きだよ」
物心ついた頃から共に育った兄弟分、一見すれば凶悪そうな顔はよくよく見れば愛嬌があると言うのに何故人がシエルを恐れるのか、前世で27年、今生で10年生きているアシュレイにもよく分からなかった。
ただ、分かるのは竜種と意志疎通が出来ると言う、前世ではあまり必要なかった自分の体質がこの世界の常識を少しずつ塗り替えつつあると言うこと。
アシュレイはシエルの鬣に顔を埋めると、目を閉じる。
今もありありと思い出せるのは、「悠季」から「アシュレイ」となったあの日の事。
アシュレイ・カデンツァ・リーヴェンスがディーゼガルドに「2度」生まれた日。
END
攻略者が死んで以来、打ち捨てられた古い迷宮(ダンジョン)の最奥に作った秘密基地で昼寝をしていた、今年10歳となる少女――アシュレイ・カデンツァ・リーヴェンスは吊るしたハンモックから飛び降りると、壁に立て掛けた細身の長剣を腰に差し、秘密基地を後にする。
アシュレイ――かつて「九重 悠季」と呼ばれた、光の女神が犯した禁忌によって殺された人間の魂がアシュレイ・カデンツァ・リーヴェンスとしてこのディーゼガルドに転生してから10年。
アシュレイとして新たな命と生を得た悠季は存在を神々に感知される事なく、厳しくも優しい両親がいて、一緒にやんちゃしたり遊んでくれる兄弟や友達がいる、前世では味わえなかった真っ当な子供時代を全力で謳歌していた。
最初は前世の記憶など欠片もなかった。
5歳の時、この世界で「因縁の宿敵」となる存在の一人と出会った事がきっかけで突然原因不明の高熱を出し、三日三晩生死の境を彷徨った末に見た悠季としての27年間分の人生の夢を見た事で全てを思い出した。
自分が、アシュレイ・カデンツァ・リーヴェンスであると同時にこのディーゼガルドの神に殺され、地球の神話の神々からこの世界の“勇者”を超える力を与えられて転生した地球人「九重 悠季」である事を。
思い出したのまでは良いが、アシュレイは今まで通り普通の子供として振る舞った。
前世の記憶が戻ったのは万々歳だが、両親や兄弟の事は好きだし、この世界の住人に対して怨みがある訳ではない。
ましてや、前世の27年分の記憶や経験があるとは言え、例の“勇者”を超える力とやらも顕れておらず、アシュレイ自身はまだ親の庇護下にあるべき子供だった。
しかもただの子供ではない。
上位魔族であり吸血鬼の王《ヴァンパイア・ロード》が治める国の、妾腹とは言えど歴とした第1王女であり、母親は昔「悠季」の命と輪廻を子供のような癇癪でねじ曲げた光の女神アルマリアの側近として仕えていたが、自分が加護を与えた人間の少女を女神に殺された事で女神への忠誠と敬愛、そして利き腕だった左腕を捨てて堕天した元最上級天使だった。
ダンジョンを出たアシュレイは吸血鬼達が昼間に外出する時は必ず被る日除けのケープを目深に被ると指笛で10年間共に育った相棒を呼ぶ。
森の奥から現れたのは、このディーゼガルドで滅多に人に慣れる事のないとされる竜の一種・ワイバーン。
「アーシュ、お昼寝終わった?」
「うん。待たせてごめんな、シエル。そろそろ帰ろうか」
アシュレイの前世である九重 悠季にはある二つの能力、基、異常な体質があった。
彼女自身がそれを隠しながら使用し、悪用しようとは思ってもいなかったその体質の一つは母方の家系によく顕れたと言う竜や蛇等の爬虫類全般との意志疎通だった。
子供の頃から大抵の爬虫類は悠季の言うことを聞き、唯々諾々と従った為、一時期は脱走した爬虫類系ペットの捜索のバイトも請け負っていた程だ。
その体質はアシュレイとして転生してからも健在で、赤ん坊の頃に魔王から下賜されたワイバーンの卵から孵ったシエルが母を求めて暴れた時、まだ掴まり立ちがやっとだったアシュレイが暴れるシエルを鎮めると言う事件が起きた。
この世界において純粋な竜種は他の種族に対しては絶対に慣れない孤高の生き物であり、ワイバーンは竜種の中で最も飛行能力に優れ、高い知能を持つが、竜種で一、二を争うその凶暴性はこれまで竜種を騎獣にしようとしてきた者達を幾人も食い殺しており、この事実から竜種を騎獣とする事は絶対に不可能とされてきた中、当時赤ん坊のアシュレイがその常識を覆した。
この前代未聞の事件をきっかけにアシュレイの存在は大陸中へと知れ渡り、渦中の人である当時1歳のアシュレイは卵を下賜した張本人である魔王レイヴァルトから直々に「竜の姫騎士」の称号と初代魔王の愛剣であった伝説級(レジェンダリィクラス)の魔剣「エウリュアレ」を賜った。
この一件のせいで元々近隣諸国から一定数来ていた暗殺者が倍に増えたのだが。
「アシュレイ?どしたの?」
相棒の呼び掛けに我に返ったアシュレイの目の前には不思議そうな顔をするシエルのどアップ。
「あー…何でもない。じゃあ、帰ろうか」
アシュレイは乗りやすいように身を屈めたシエルの背に跨がり、手綱を掴むと空に舞い上がる。
「俺ねー、アシュレイ背中に乗せて飛ぶの大好き!」
「俺も、シエルの背中に乗って飛ぶの好きだよ」
物心ついた頃から共に育った兄弟分、一見すれば凶悪そうな顔はよくよく見れば愛嬌があると言うのに何故人がシエルを恐れるのか、前世で27年、今生で10年生きているアシュレイにもよく分からなかった。
ただ、分かるのは竜種と意志疎通が出来ると言う、前世ではあまり必要なかった自分の体質がこの世界の常識を少しずつ塗り替えつつあると言うこと。
アシュレイはシエルの鬣に顔を埋めると、目を閉じる。
今もありありと思い出せるのは、「悠季」から「アシュレイ」となったあの日の事。
アシュレイ・カデンツァ・リーヴェンスがディーゼガルドに「2度」生まれた日。
END
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