異世界の中二病

安和

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そして始まる彼らの話

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「先ほどから何事ですかっ」

そんな混沌とした部屋にある青年が飛び込んできた。そこで青年が見たものは性別が良く分からないヒトと踊っている少年だった。

「はい……?」

何が何だかわからない。というか分かる訳がない。少年の大きな声が聞こえた為に急いで来たものの、見知らぬ人がいるし、当の本人は泣いて踊っている。踊っているのは全然わからないが泣いているのだ。何を言われても、何をされても泣くことはなかった少年が。驚かないはずがない。
まぁ、踊っているのは全然良く分からないが。きっとまた、何かの儀式なのであろう。突っ込むだけ無駄である。

「おや、君は誰かね?」

「はぁ。わたくし、エインストの世話係をしております、ルドと申します」

青年――ルド――は混乱したまま自分に向けられた質問に答えた。答えた後、自分に疑問を投げかけた人を良く見た。絹のような滑らかな銀髪に留まることの無い瞳の色。

――なんだこれは

ゾッとした。得体のしれない、生物として敵わないモノに出会った気分だった。

「世話係、ね。ふむふむ」

観察されるように見られた。心臓がドクドクと主張し、動くことが出来ない。
目の前の人は、ヒトなんだろうか。本当に? 疑問が沸き出て仕方がない。そんな混乱状態のルドを気にすることなく目の前のイキモノはこちらを見ていた。

「世話係なら知っているだろう?」

「な、なにをですか…?」

緊張で喉がカラカラになって、言葉が詰まった。

「アレは頭がいいのか悪いのか」

「は…?」

「いや、さ。こんなの書いている時点で本当にお察しなんだけどね。うん」

何を聞かれたのかがいまいち理解できずに目の前のイキモノが“こんなの”と表したノートを見た。それはエインストが毎日のように書いていた、ノートだった。あの痛々しいノートである。
呆然としているルドにそのイキモノは笑うのを堪えながら話を進める。

「ほらコレ。最初に『出来ないことはない。完全無欠。』って書いてあるのに、また『何でもできる』って書いてあるんだ。馬鹿なのか?それとも大事なことだから2回書いてあるのかな? クッ…ふふふふ」

「あの、笑うのを堪えられてませんよ。漏れてます。彼は、その。勉強はできるのですが…いえ、勉強はできます」

「つまり、勉強のできる馬鹿だと。ふふふふ、ははははは」

目の前で笑い出したイキモノにルドは先ほどまでの緊張を感じないことに気付いた。エインストの書いたあのノートを見て笑いっているイキモノに警戒なんて出来なかったのである。するだけ無駄だったかと力を抜いた。そしてまだ踊っているエインストに声をかけた。

「エインスト、いつまで踊っているのですか? こちらに居るヒトはいったいどこから神殿に入れたのか答えなさいっ」

エインストは動きを止めた。もちろん呼ばれたからでも、説明するからでもない。いや、呼ばれたから、というのは間違いではない。先ほどまでなかった名前を、名づけられた場に居なかった青年に呼ばれたからである。

「な、何で名前を、知って…?」

「何を意味の分からないことを言っているのです。あなたの名前を知っているのは当然でしょう」

ルドは質問の意味が分からないとばかりに眉根を寄せた。エインストは驚いた表情のまま彼の【神】の方を見た。

【神】は笑っていた。エインストの表情が面白いとでもいうように

「何をそんな顔をしている。言ったであろう? お前はエインストであると」

「な……」

「そう驚くな。私を誰だと思っている。私の決めた事象は現実となるのだよ」

そう、まさしく【神】の所業であった。その通りであるならば、おそらく名を記されなかった出生届も、彼を知るすべての人の頭にも、『エインスト』という名が記されているのだろう。何の疑問も抱かせずに。

「さぁ、私を呼び出したのは理由があるのだろう? 願いは何だ」

「…力が欲しい」

その言葉に【神】がニヤリと笑った。

「そうか。では、君の言う汚物掃除といこうかね」

何でもないことを言うような声音でそう告げた【神】にエインストは頷き、ルドは、震えた。
ルドは恐れてしまった。目の前のイキモノに。エインストが称する汚物が人間であるのを分かっていて何でもないように“掃除”と言えてしまうモノに。なにより、少年のことを“エインスト”と普通に呼んだ事に疑問を覚えてしまったことに。そして気付いてしまった。そんなルドの事を【神】が見逃すはずがないという事を。ルドが恐る恐るそちらを見れば【神】もルドの方を見てわらっていた。そして【神】は何事もなかったかのようにエインストの方に向き直した。
そちらではエインストが腕を抑えてうなっていた。

「ふっ、遂に僕に時代が来たのだ! ふふふ。くっ、この封印された右腕が疼くぜ……って痒っ、右腕が痒い!!、なにするんだ!」

「だって疼くって言うからさ、疼かせてみた。善意で」

「何が善意だ!! 疼くって言うのは痒い事ではないんだぞ!!」

「えー。一緒じゃん」

「違う!!」

漫才のようなやり取りを見ながらルドは思った。
―――とんでもない二人組が出来上がったのかもしれない、と

ここから、彼らの物語が始まるのである。
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