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あるクリスマスの話
6 告白
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さして広くない風呂場に、シャワーの音が響いている。
右手とその周りの毛並みにこびりついた白濁した粘液は床にも飛び散って、独特の臭いを狭い空間に満たしていた。
(何やってんだ俺は……)
一発、処理を終えた信慈は、冷や汗なのか興奮なのかわからない汗とともに、それらを洗い流していく。
「優太……」
何が『ごめんな』だ。
また、伝えられていないじゃないか。
それで一人、シコシコと妄想に耽るなど、どうしようもない。
(本当、情けねぇ……)
大きく、ため息をつく。
とりあえず下半身は落ち着いたので、残るは出したモノの臭いの問題だが、換気扇は回っているし、シャンプーを念入りに使えば空間の臭いも上書きできるだろう。
その時、
「にいちゃーん。せっかくだから一緒に入ろ……う?」
今まさにシャンプーのボトルを手に取った体勢で、信慈は固まった。
また今日もあしらわれた優太は、しばらく一人、残されたコタツの中でいじけていた。
今まで何度、彼に『好き』を伝えただろう。
彼は黙って口づけを返してくれたが、それ以上のことは何もしてくれない。
『好き』という言葉すら、まだ一度も返して貰えたことがなかった。
その事に気が付いてからだ。
大人のキスですら物足りなくなってしまったのは。
(兄ちゃん……)
やはり、自分は彼にとって興味対象外の子供でしかない?
そう考えてしまうと、今まで彼と過ごした時間が全て偽物になってしまいそうな気がした。
はっと我に返り、頭に浮かんだ悪い想像を振り払う。
だからこそ、今日は絶対に先に進むと決めたんじゃないか。
ここで身を引いてしまってはそれこそ今までと同じ。
もし断られて酷い結果になっても、このままずっと彼の本心をあれやこれや想像して悩み続けるのよりマシだ。
ならば、行動あるのみ。
顔をパンパンと叩いて、己に喝を入れる。
信慈は先ほど「風呂、入ってくる」と短く告げて、優太を突き放して行ってしまった。
しかしお風呂。お風呂である。
それこそ、エロ本では定番の舞台ではないか。
この機を逃す手はない。なんでぐずぐずしていたんだ!
萎れかけた心に活力が戻る。
優太はコタツを抜け出すと、忍び足で脱衣所のほうへと歩いて行った。
そっと扉を開き、シャワーの音を確認する。
よし。
今行けば、狭い個室、裸同士、二人きり、という絶好のシチュエーションが完成する。
扉を閉めて、なるべく音をたてないように気を付けながら、着ていたものを洗濯籠に放り込んでいく。
『優太……』
ギクッ。
風呂場の曇りガラスの向こうから自分の名前を呼ぶ声がして、思わず肩がすくんだ。
(バレた?)
真っ裸のまま、すりガラスの向こうの様子をじっと見つめる。
動きは、ない。
呟くような声だったし、あるいは空耳だったのかもしれない。
胸に手を当てて、深呼吸を一つ。
あくまで子供っぽく、無邪気を装って、一緒にお風呂に入る。その後の流れは雰囲気で。
頭の中のプランを再確認すると、思い切って曇りガラスの扉を開けた。
「にいちゃーん。せっかくだから一緒に入ろ……う?」
シャンプーのボトルを手に顔だけこちらに向けている信慈がすぐそこにいる。
それより先に、体を包むように溢れ出した蒸気と、その中に漂う独特の男の匂いがツンと鼻を突いた。
「ばばばば、馬鹿野郎! いきなり入ってくる奴があるか!」
「えー、と……」
目を見開き、耳を真っ赤にして、盛大に取り乱すこんな姿を、優太は初めて見た。
その態度、この匂い、もしや……?
そういえば、さっき聞こえた自分の名前を呟く声は?
おや? おやおやおや?
優太の頭の中で、目の前の出来事が一つの線に繋がっていく。
ニンマリといやらしい笑みを浮かべると、何も言わず風呂場に入って、浴槽に身を沈めた。
湯船の端に腕を置き、その上からニヤニヤとした笑みを投げかける。
「兄ちゃん、もしかしてシコってた?」
「あ、アホなこと言ってないでさっさと出てけ」
「もう濡れちゃったもん。洗ってから乾かさないと臭くなっちゃう」
獣人は全身を毛で覆われているため、雑な水洗いは逆に不衛生になってしまうことがある。
それはシャワーで濡れた信慈も同じ。
つまりこの状況、二人とも体を綺麗にするまで外に出られない。
やられた、と信慈は頭に手を当てた。
「ね、オレのこと考えながらシコってたの?」
「……」
「もしかして、さっきのキスで興奮しちゃった?」
「……優太」
声を低くしても、優太の笑みはますます深くなるだけ。
有耶無耶にするどころか、かえって確信を得てしまったようだ。
「一人でするくらいなら、協力したのにぃ」
「あのなぁ」
完全に優太のペースだ。
言えば言うほど飲まれていきそうで、わざとらしいため息で会話を終わらせる。
そのまま無言で床の掃除を再開することにした。
「……ちょっと、安心した」
「ん?」
シャワーの音だけが響く中、急にしおらしい声になって優太が言う。
つられて目を向けると、本当にモジモジとしながら耳を赤らめていた。
「兄ちゃん、ほんとはオレのことなんてなんとも思ってないんじゃないかって思ったから。
もしかしたら他に本当に好きな人がいるんじゃないかって、ずっとそんな気がしてた」
「……」
「へへへ。でもオレ、オカズくらいにはなってるんだな」
悲しいことを、嬉しそうに笑いながら言う。
その顔に、信慈は今まで付き合った人たちにも同じような思いをさせていたのだろうかと胸が痛んだ。
それと同じ思いをこんな子供にまでさせている自分が、何よりも情けない。
今度こそ、決意は固まった。
蛇口をひねり、シャワーを止める。
そして、大切な人に向き直った。
「優太」
「え? な、なに?」
ガシッと、大きな手で小さな肩を掴み、くりくりと愛嬌のある丸い黒目をじっと見据える。
「自慢じゃないが、俺は今まで告白されたことしかない」
「は?」
なんだそれ、ほんとにただの自慢じゃないか。
という言葉は次の一言で忘れてしまった。
「好きだ。お前のことを、愛してる」
「へ……??」
思考が止まる。
なんと、言った?
「な、慣れてないんだ。すまん。これで、いいのか?」
「……もう一回」
「?」
「もう一回、ちゃんと言って?」
今聞いた言葉が信じられず、優太は呆けた顔で信慈をじっと見つめている。
信慈は耳を真っ赤にしながら、もう一度伝えた。
「愛してる。優太」
ずっと待ってた、短い言葉。
ああなんだ。
一番欲しかったのはこんな、こんなに短い言葉だったんだ。
「お、おい!?」
「あ、あれ? あれ?」
溢れ出す涙に、優太自身が一番驚いていた。
「なんでだろ? オレ、おかしいな。なんで泣いてるんだろ?」
「……泣き虫なんだな、優太は」
「に、兄ちゃんが泣かせたくせに!」
突然泣き出したことには狼狽えたが、いつもの憎まれ口をたたく優太にホッとして、小さな頭をグシグシと撫でる。
これだけのことでよかったんだ。
怯えて逃げ回らなくても、人を好きになるというのはたったこれだけのことだったんだと、信慈は小さな体を大切に、大切に抱きしめた。
その夜。
「ええっ!? ここまで来てエッチなし!?」
「だから、それは卒業まで我慢する約束だろ」
「だってだって、今日はクリスマスだよ?」
「だからなんだ」
「クリスマスって言ったらそういう日でしょ!?」
堂々たる宣言に、信慈はまた頭に手を当てていた。
「優太。俺だってお前とそういうことはしたい」
「うん」
「でもそういうことだけがしたいわけじゃない」
「……」
「お前の初めては絶対に俺が奪ってやる。だからそれまで、優太も我慢してくれないか?」
「……だって、兄ちゃんはさっき一人でヌいたからいいけどさぁ」
「ウ……」
それを言われると痛い。
もっともらしく振舞っているが、先に性欲に屈して自身を慰めていたのは信慈のほうだ。
「オレだって男だよ? だからさぁ、ねーえー」
優太は腰をモジモジとくねらせ、甘えるように体を摺り寄せてくる。
ムラムラして我慢できない体が無意識にそうさせているようだ。
その口がこれ以上我儘を言う前に、不意打ちで黙らせた。
「!!」
噛みつき合うように口を口で塞ぎ、有無を言わせず舌を滑り込ませる。
「……これはもう、練習じゃないぞ」
軽くなぶってから一言告げて、相手が気を取り直す前にもう一度口を塞ぐ。
二回目はじっくりと、長く、長く。
もう練習なんて言い訳をしない、本当の、恋人のキス。
しつこいくらいにねっとりと舌を絡め合って、本気のキスに腕の中の小さな体がピクッピクッと小刻みに震え始めた。
ゆっくりと、顔を離す。
うっとりした顔で放心している頭の上にポン、と手を置いて、
「じゃ、おやすみ」
有無を言わさず一方的に宣言すると電気を消した。
そしてさっさと自分の布団に逃げ込む。
「……ずっりぃ」
真っ暗になった部屋で我に返った優太は悔しげに呟いた。
「明日寝坊したら、冷蔵庫のケーキ全部食っちまうからな」
「……はぁい」
本当ならキスだけで終わりなんて納得できなかったが、ケーキまで人質に取られては、悔しいけど引き下がるしかない。
渋々と、優太も自分の布団に入っていった。
しばらくして、暗闇の中に小さな、うわずった少年の声が聞こえてくる。
果たしてこの先、自分はいつまでこの少年に流されないでいられるだろうか。
聖なる夜に、信慈は目を閉じたまま静かにため息を漏らすのだった。
右手とその周りの毛並みにこびりついた白濁した粘液は床にも飛び散って、独特の臭いを狭い空間に満たしていた。
(何やってんだ俺は……)
一発、処理を終えた信慈は、冷や汗なのか興奮なのかわからない汗とともに、それらを洗い流していく。
「優太……」
何が『ごめんな』だ。
また、伝えられていないじゃないか。
それで一人、シコシコと妄想に耽るなど、どうしようもない。
(本当、情けねぇ……)
大きく、ため息をつく。
とりあえず下半身は落ち着いたので、残るは出したモノの臭いの問題だが、換気扇は回っているし、シャンプーを念入りに使えば空間の臭いも上書きできるだろう。
その時、
「にいちゃーん。せっかくだから一緒に入ろ……う?」
今まさにシャンプーのボトルを手に取った体勢で、信慈は固まった。
また今日もあしらわれた優太は、しばらく一人、残されたコタツの中でいじけていた。
今まで何度、彼に『好き』を伝えただろう。
彼は黙って口づけを返してくれたが、それ以上のことは何もしてくれない。
『好き』という言葉すら、まだ一度も返して貰えたことがなかった。
その事に気が付いてからだ。
大人のキスですら物足りなくなってしまったのは。
(兄ちゃん……)
やはり、自分は彼にとって興味対象外の子供でしかない?
そう考えてしまうと、今まで彼と過ごした時間が全て偽物になってしまいそうな気がした。
はっと我に返り、頭に浮かんだ悪い想像を振り払う。
だからこそ、今日は絶対に先に進むと決めたんじゃないか。
ここで身を引いてしまってはそれこそ今までと同じ。
もし断られて酷い結果になっても、このままずっと彼の本心をあれやこれや想像して悩み続けるのよりマシだ。
ならば、行動あるのみ。
顔をパンパンと叩いて、己に喝を入れる。
信慈は先ほど「風呂、入ってくる」と短く告げて、優太を突き放して行ってしまった。
しかしお風呂。お風呂である。
それこそ、エロ本では定番の舞台ではないか。
この機を逃す手はない。なんでぐずぐずしていたんだ!
萎れかけた心に活力が戻る。
優太はコタツを抜け出すと、忍び足で脱衣所のほうへと歩いて行った。
そっと扉を開き、シャワーの音を確認する。
よし。
今行けば、狭い個室、裸同士、二人きり、という絶好のシチュエーションが完成する。
扉を閉めて、なるべく音をたてないように気を付けながら、着ていたものを洗濯籠に放り込んでいく。
『優太……』
ギクッ。
風呂場の曇りガラスの向こうから自分の名前を呼ぶ声がして、思わず肩がすくんだ。
(バレた?)
真っ裸のまま、すりガラスの向こうの様子をじっと見つめる。
動きは、ない。
呟くような声だったし、あるいは空耳だったのかもしれない。
胸に手を当てて、深呼吸を一つ。
あくまで子供っぽく、無邪気を装って、一緒にお風呂に入る。その後の流れは雰囲気で。
頭の中のプランを再確認すると、思い切って曇りガラスの扉を開けた。
「にいちゃーん。せっかくだから一緒に入ろ……う?」
シャンプーのボトルを手に顔だけこちらに向けている信慈がすぐそこにいる。
それより先に、体を包むように溢れ出した蒸気と、その中に漂う独特の男の匂いがツンと鼻を突いた。
「ばばばば、馬鹿野郎! いきなり入ってくる奴があるか!」
「えー、と……」
目を見開き、耳を真っ赤にして、盛大に取り乱すこんな姿を、優太は初めて見た。
その態度、この匂い、もしや……?
そういえば、さっき聞こえた自分の名前を呟く声は?
おや? おやおやおや?
優太の頭の中で、目の前の出来事が一つの線に繋がっていく。
ニンマリといやらしい笑みを浮かべると、何も言わず風呂場に入って、浴槽に身を沈めた。
湯船の端に腕を置き、その上からニヤニヤとした笑みを投げかける。
「兄ちゃん、もしかしてシコってた?」
「あ、アホなこと言ってないでさっさと出てけ」
「もう濡れちゃったもん。洗ってから乾かさないと臭くなっちゃう」
獣人は全身を毛で覆われているため、雑な水洗いは逆に不衛生になってしまうことがある。
それはシャワーで濡れた信慈も同じ。
つまりこの状況、二人とも体を綺麗にするまで外に出られない。
やられた、と信慈は頭に手を当てた。
「ね、オレのこと考えながらシコってたの?」
「……」
「もしかして、さっきのキスで興奮しちゃった?」
「……優太」
声を低くしても、優太の笑みはますます深くなるだけ。
有耶無耶にするどころか、かえって確信を得てしまったようだ。
「一人でするくらいなら、協力したのにぃ」
「あのなぁ」
完全に優太のペースだ。
言えば言うほど飲まれていきそうで、わざとらしいため息で会話を終わらせる。
そのまま無言で床の掃除を再開することにした。
「……ちょっと、安心した」
「ん?」
シャワーの音だけが響く中、急にしおらしい声になって優太が言う。
つられて目を向けると、本当にモジモジとしながら耳を赤らめていた。
「兄ちゃん、ほんとはオレのことなんてなんとも思ってないんじゃないかって思ったから。
もしかしたら他に本当に好きな人がいるんじゃないかって、ずっとそんな気がしてた」
「……」
「へへへ。でもオレ、オカズくらいにはなってるんだな」
悲しいことを、嬉しそうに笑いながら言う。
その顔に、信慈は今まで付き合った人たちにも同じような思いをさせていたのだろうかと胸が痛んだ。
それと同じ思いをこんな子供にまでさせている自分が、何よりも情けない。
今度こそ、決意は固まった。
蛇口をひねり、シャワーを止める。
そして、大切な人に向き直った。
「優太」
「え? な、なに?」
ガシッと、大きな手で小さな肩を掴み、くりくりと愛嬌のある丸い黒目をじっと見据える。
「自慢じゃないが、俺は今まで告白されたことしかない」
「は?」
なんだそれ、ほんとにただの自慢じゃないか。
という言葉は次の一言で忘れてしまった。
「好きだ。お前のことを、愛してる」
「へ……??」
思考が止まる。
なんと、言った?
「な、慣れてないんだ。すまん。これで、いいのか?」
「……もう一回」
「?」
「もう一回、ちゃんと言って?」
今聞いた言葉が信じられず、優太は呆けた顔で信慈をじっと見つめている。
信慈は耳を真っ赤にしながら、もう一度伝えた。
「愛してる。優太」
ずっと待ってた、短い言葉。
ああなんだ。
一番欲しかったのはこんな、こんなに短い言葉だったんだ。
「お、おい!?」
「あ、あれ? あれ?」
溢れ出す涙に、優太自身が一番驚いていた。
「なんでだろ? オレ、おかしいな。なんで泣いてるんだろ?」
「……泣き虫なんだな、優太は」
「に、兄ちゃんが泣かせたくせに!」
突然泣き出したことには狼狽えたが、いつもの憎まれ口をたたく優太にホッとして、小さな頭をグシグシと撫でる。
これだけのことでよかったんだ。
怯えて逃げ回らなくても、人を好きになるというのはたったこれだけのことだったんだと、信慈は小さな体を大切に、大切に抱きしめた。
その夜。
「ええっ!? ここまで来てエッチなし!?」
「だから、それは卒業まで我慢する約束だろ」
「だってだって、今日はクリスマスだよ?」
「だからなんだ」
「クリスマスって言ったらそういう日でしょ!?」
堂々たる宣言に、信慈はまた頭に手を当てていた。
「優太。俺だってお前とそういうことはしたい」
「うん」
「でもそういうことだけがしたいわけじゃない」
「……」
「お前の初めては絶対に俺が奪ってやる。だからそれまで、優太も我慢してくれないか?」
「……だって、兄ちゃんはさっき一人でヌいたからいいけどさぁ」
「ウ……」
それを言われると痛い。
もっともらしく振舞っているが、先に性欲に屈して自身を慰めていたのは信慈のほうだ。
「オレだって男だよ? だからさぁ、ねーえー」
優太は腰をモジモジとくねらせ、甘えるように体を摺り寄せてくる。
ムラムラして我慢できない体が無意識にそうさせているようだ。
その口がこれ以上我儘を言う前に、不意打ちで黙らせた。
「!!」
噛みつき合うように口を口で塞ぎ、有無を言わせず舌を滑り込ませる。
「……これはもう、練習じゃないぞ」
軽くなぶってから一言告げて、相手が気を取り直す前にもう一度口を塞ぐ。
二回目はじっくりと、長く、長く。
もう練習なんて言い訳をしない、本当の、恋人のキス。
しつこいくらいにねっとりと舌を絡め合って、本気のキスに腕の中の小さな体がピクッピクッと小刻みに震え始めた。
ゆっくりと、顔を離す。
うっとりした顔で放心している頭の上にポン、と手を置いて、
「じゃ、おやすみ」
有無を言わさず一方的に宣言すると電気を消した。
そしてさっさと自分の布団に逃げ込む。
「……ずっりぃ」
真っ暗になった部屋で我に返った優太は悔しげに呟いた。
「明日寝坊したら、冷蔵庫のケーキ全部食っちまうからな」
「……はぁい」
本当ならキスだけで終わりなんて納得できなかったが、ケーキまで人質に取られては、悔しいけど引き下がるしかない。
渋々と、優太も自分の布団に入っていった。
しばらくして、暗闇の中に小さな、うわずった少年の声が聞こえてくる。
果たしてこの先、自分はいつまでこの少年に流されないでいられるだろうか。
聖なる夜に、信慈は目を閉じたまま静かにため息を漏らすのだった。
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