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エピローグ
おまけ
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また、夢を見た。
いつも見ていた夢。
でも、バジリスク事件のあの日以来、あの夢の結末には必ず怪物がその姿を現して、それを二匹の獣が一瞬で蹴り飛ばしてしまうようになっていた。
それだけならいいのだけど……
あの日以来、夢の終わりに現れるようになった黒い狼と豹は、怪物を退治すると僕の体に体をこすりつけるんだ。
そのまま体中をペロペロしたり、もっと激しい何かをされて……
先生にされたのよりずっと熱くて激しい、そして生々しい感触が起きた後にも残っている。
起きた後になって、それが二人にされた"契り"の暗喩だって思い出すのもいつものこと。
(うぅ……)
体の底が、ムズムズする。
夢の内容が変わってから、僕の発情はすごく落ち着いている。
薬を飲まなくてもこの程度で収まっているのが何よりの証拠だ。
でも、全く何もないわけじゃない。
今でもふとしたはずみであの夢を見た後は、こんなふうにムズムズしてしまう。
クライヴく……クライヴにはこんなこと頼めない。
ラキなら嬉々として僕の"発散"に付き合ってくれるだろうけど、やっぱり駄目。
ラキは絶対、すぐにはやめてくれないし意地悪するから。
するときは、三人一緒がいい。
僕は日程表を思い出していた。
次の休みまであと三日。
それまで、我慢できるだろうか。
「……クライヴ、起きてる?」
「どうした?」
小声で上に聞いてみると、声はすぐに返って来た。
夜中なのに。
「なんか、眠れなくなっちゃって……そっちに行ってもいい?」
「……いや、俺が行く」
ギシ、とベッドがきしむ音がして、本当にクライヴが下りてきた。
そのまま無言で僕のベッドに入ってくる。
(わわ……)
自分で誘ったようなものなのに、僕は慌ててしまった。
もしかしたら、"契り"が始まってしまうかもしれない。
思わず縮こまる僕を、しかしクライヴ君は何もせず、ただ横に添い寝してくれただけだった。
僕は恐る恐る、彼の身体にくっつく。
彼の体温を感じて、体の力が抜けてくると、
「ハリム、お前、発情期か?」
匂いでばれちゃった。
僕は恥ずかしさで顔を赤くしながら、胸の毛並みに顔を埋めて、
「そうみたい……で、でも、"契り"がしたいわけじゃないよ? 本当に」
「そ、そうか」
「今日は、このままでいてもいい?」
「もちろん」
「えへへ……」
こんな子供みたいなこと、って照れ笑いが出ちゃうけど、僕はこうしてもらうのが好きだ。
ただ一緒にこうして、一つのベッドで寝るのが嬉しくて、安心する。
「クライヴ君のこういうとこ、好き」
「そ、そうか?」
「うん。ラキにこんなことしたら、絶対悪戯するもん」
ラキに同じことをねだったら、絶対に"契り"が始まっちゃうもの。
「嫌なのか?」
「嫌じゃないけど……こうしていたいだけのときもあるから」
それだけ答えて、僕はもう一度クライヴく……クライヴの毛並みに顔を埋める。
"契り"を交わしたときから『君付けはやめてくれ』と言われているので意識してるんだけど、なかなか慣れない。
彼の毛並みの中で目を閉じると、お腹の底のムズムズが心地よい温もりに変わっていく気がした。
彼が、僕の頭を撫でてくれている。
同じ布団の中で。
それだけで僕は安心して……気が付いたら、朝になっていた。
「で、本当のところはどうなのよ?」
「な、何もしていない」
「ふーん?」
お昼を食べて、何気なく今朝のことが話に出ると、ラキはあからさまに訝しんだ目で僕たちを見てくる。
「こいつはこんなこと言ってるけど、本当は何されたか正直に言ってみな? な?」
「な、何もしてないってば。添い寝してもらっただけ」
「ハリムぅ。オレたち番だろ? 隠し事はなしだぜ」
「ほんとだってば!」
ラキがしつこいのでつい大声が出てしまった。
すると、周りの生徒たちが僕たちを見てクスクス笑っている。
僕はここが公衆の場だということを思い出して、ハッとなった。
添い寝して貰った、とかも聞かれていたんだろうか?
僕は顔から火が出そうで、食べ終わった食器の乗ったプレートを持って席を立つ。
「は、ハリム?」
「ま、待ってくれよ。悪かった。悪かったからさ」
「知らない!」
二人が追いかけてくるけど、僕は一刻も早くこの場を去りたくて、急ぎ足で二人から逃げる。
僕らのことが学園中の噂になっていると僕が知るのは、まだずっと先のお話。
いつも見ていた夢。
でも、バジリスク事件のあの日以来、あの夢の結末には必ず怪物がその姿を現して、それを二匹の獣が一瞬で蹴り飛ばしてしまうようになっていた。
それだけならいいのだけど……
あの日以来、夢の終わりに現れるようになった黒い狼と豹は、怪物を退治すると僕の体に体をこすりつけるんだ。
そのまま体中をペロペロしたり、もっと激しい何かをされて……
先生にされたのよりずっと熱くて激しい、そして生々しい感触が起きた後にも残っている。
起きた後になって、それが二人にされた"契り"の暗喩だって思い出すのもいつものこと。
(うぅ……)
体の底が、ムズムズする。
夢の内容が変わってから、僕の発情はすごく落ち着いている。
薬を飲まなくてもこの程度で収まっているのが何よりの証拠だ。
でも、全く何もないわけじゃない。
今でもふとしたはずみであの夢を見た後は、こんなふうにムズムズしてしまう。
クライヴく……クライヴにはこんなこと頼めない。
ラキなら嬉々として僕の"発散"に付き合ってくれるだろうけど、やっぱり駄目。
ラキは絶対、すぐにはやめてくれないし意地悪するから。
するときは、三人一緒がいい。
僕は日程表を思い出していた。
次の休みまであと三日。
それまで、我慢できるだろうか。
「……クライヴ、起きてる?」
「どうした?」
小声で上に聞いてみると、声はすぐに返って来た。
夜中なのに。
「なんか、眠れなくなっちゃって……そっちに行ってもいい?」
「……いや、俺が行く」
ギシ、とベッドがきしむ音がして、本当にクライヴが下りてきた。
そのまま無言で僕のベッドに入ってくる。
(わわ……)
自分で誘ったようなものなのに、僕は慌ててしまった。
もしかしたら、"契り"が始まってしまうかもしれない。
思わず縮こまる僕を、しかしクライヴ君は何もせず、ただ横に添い寝してくれただけだった。
僕は恐る恐る、彼の身体にくっつく。
彼の体温を感じて、体の力が抜けてくると、
「ハリム、お前、発情期か?」
匂いでばれちゃった。
僕は恥ずかしさで顔を赤くしながら、胸の毛並みに顔を埋めて、
「そうみたい……で、でも、"契り"がしたいわけじゃないよ? 本当に」
「そ、そうか」
「今日は、このままでいてもいい?」
「もちろん」
「えへへ……」
こんな子供みたいなこと、って照れ笑いが出ちゃうけど、僕はこうしてもらうのが好きだ。
ただ一緒にこうして、一つのベッドで寝るのが嬉しくて、安心する。
「クライヴ君のこういうとこ、好き」
「そ、そうか?」
「うん。ラキにこんなことしたら、絶対悪戯するもん」
ラキに同じことをねだったら、絶対に"契り"が始まっちゃうもの。
「嫌なのか?」
「嫌じゃないけど……こうしていたいだけのときもあるから」
それだけ答えて、僕はもう一度クライヴく……クライヴの毛並みに顔を埋める。
"契り"を交わしたときから『君付けはやめてくれ』と言われているので意識してるんだけど、なかなか慣れない。
彼の毛並みの中で目を閉じると、お腹の底のムズムズが心地よい温もりに変わっていく気がした。
彼が、僕の頭を撫でてくれている。
同じ布団の中で。
それだけで僕は安心して……気が付いたら、朝になっていた。
「で、本当のところはどうなのよ?」
「な、何もしていない」
「ふーん?」
お昼を食べて、何気なく今朝のことが話に出ると、ラキはあからさまに訝しんだ目で僕たちを見てくる。
「こいつはこんなこと言ってるけど、本当は何されたか正直に言ってみな? な?」
「な、何もしてないってば。添い寝してもらっただけ」
「ハリムぅ。オレたち番だろ? 隠し事はなしだぜ」
「ほんとだってば!」
ラキがしつこいのでつい大声が出てしまった。
すると、周りの生徒たちが僕たちを見てクスクス笑っている。
僕はここが公衆の場だということを思い出して、ハッとなった。
添い寝して貰った、とかも聞かれていたんだろうか?
僕は顔から火が出そうで、食べ終わった食器の乗ったプレートを持って席を立つ。
「は、ハリム?」
「ま、待ってくれよ。悪かった。悪かったからさ」
「知らない!」
二人が追いかけてくるけど、僕は一刻も早くこの場を去りたくて、急ぎ足で二人から逃げる。
僕らのことが学園中の噂になっていると僕が知るのは、まだずっと先のお話。
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