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獣ノ59話「自己紹介、そしてこれから」
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新人教育にアジサイは専念することになった。彼女たち三人を兵舎の中にある教室に呼ぶ。教室は学校の教室を彷彿させる
ヘムロック、ダチュラ、アキーの三人にあらゆることを叩き込む授業が始まるのだった。
「はいはい、じゃあ講義を始める前……おいおいどうしたどうした?」
全員が机に突っ伏して死にかけの状態であった。
何があったかと言うと、アジサイが早朝の運動がてら十キロほどランニングをさせたからである。彼女たちの体力が追いついていないことがここで判明した。
「おい、起きろー、今日の講義は割と楽だから頑張れー」
「アジサイなにさせたんだ?」
ジークはケタケタと笑いながらアジサイに聞く。
「いやなに、十キロほど走らせた」
「あー、うん、こいつらの問題だな」
ジークは肩を竦める。
「俺なら五分も掛らんぞ」
ミオリアは呆れながら彼女たちを眺めている。
「まま、意識はあるので続けましょう。今日は組織の自己紹介ですからね。前もやりましたが、詳しい自己紹介っすね。まず彼女たちには全体像を見せた方がいいと思って」
「なるほどな、じゃあ、俺からでいいか、これからちょっと急務が入った」
「了解っす」
ミオリアは教壇に立つ。
「あー、ミオリアだ。懐刀、一応正式名称は王立斥候騎士国王直轄師団っていうんだけど長い上に覚えるのもだるいから懐刀でいい。一応階級はシュヴァリエ、アジサイとジークの直属上司って感じだな。君らの上司の上司に当たる感じだな。基本はアジサイとジークが面倒を見る。俺と関わるのはあんまりないと思うけど顔位は覚えておいてくれ。まぁこんなもんかな。」
「普段はどんなことをしているのですか?」
アキーは手を上げて問いかける。
「基本的には、戦闘全般だな冒険者でも手に負えない魔獣神獣の討伐から重犯罪組織の強襲、能力の適性もあって急務が多いな。あっちこっち地方を巡ってるというか王城に居る方が少ないな、と言ってもまぁ、最近は色々落ち着いて王城に長くいるけどな。こんなもんかな」
「懐刀ってどうやってなるんですか?」
ヘムロックが質問を続けて聞く。
「色々あるけど基本的にアクバ王がスカウトするって感じだな。俺は神獣イルルクムっていうやつを倒して懐刀入りしたな。エレインなら魔術の社会貢献が認められてスカウト、ネフィリの場合は秋の闘技大会の徒手格闘部門で優勝を六回して殿堂入りと言う名の懐刀入りって感じだな」
早口でミオリアは話をする。
「そんなイベントあるんだ……」
アジサイは少し驚く。
「二、三年に一回の頻度であるぞ」
「今度出てみるか」
「ジークなら神獣戦に出れるな」
「死人でそう」
ジークは冗談交じりに言う。
「ジーク、残念だが毎回出てる」
「マジかよ……」
「さて、他に質問は?」
「俺らと合流する前は何してたんです?」
アジサイは冗談交じりに質問する。
「あー、その話か、新人たち聞きてえか?」
「興味あります」
ダチュラが話を促す。
「じゃあ、話すか。えっと十年前くらいかな、普通に生き倒れていたところをネフィリとエレインに拾われてな。その後は二人に付いて行く形で何となく旅をしていたな。それでたまたま王城に立ち寄った時に王城にイルルクムが現れてそれを倒してそれから王城で働いている感じだな。それから神獣倒したり、色々やってたら懐刀の第一席になって、ネフィリとかと今と同じような生活をしてた感じ」
「なんだろう、すごいはずなのに大したことなさそうなこの感じ」
「何というかすごく先輩」
ジークとアジサイは雑なコメントする。
「こう見えて色々やってんだからな、ジークの竜狩りを正式なもんにしたりとか」
「あ、はい」
「んじゃ、ジーク、次は任せた」
「うい」
ミオリアは教壇から降りるとジークに交代する。そのままミオリアは教室を後にした。
「えっと……ジークだ。アジサイの補助で面倒みるって感じだな。座学に関しては数学と物理を担当するが、こう見えてアジサイに勉強を教えていたこともある。それなりに頼ってくれ。戦闘関係も面倒見れるが、加減がいまいちわからんから怪我させたらすまん。仕事は竜狩り、読んで字のごとく竜をぶっ殺すのが今の仕事だ。質問は?」
「竜を狩るときは部隊はどのぐらいの人数を率いるのですか?」
アキーが興味津々に聞く。
「一人だ」
「え?」
「一人で狩っている」
「竜は一般的に大群率いて何日もかけて狩ると聞いていますが?」
「アキーさんだっけ? まぁ、俺の竜狩りはちょっと特殊でな少し長くなる話だが、アルスマグナっていう竜の魂を七つに分割してそれぞれをイシュバルデの地に固定した。これによって大地の豊穣を安定化させていた。しかし近年になってアルスマグナの力が人間の数に追いつけなくなった。そこでアルスマグナは一旦、磨り減った七つの魂を集めて一つにして魂を再度打ち直すことで強化し豊穣を安定化させようとした。でもってこれが難儀でな、長年魂を分けてしまったせいで各個の魂たちが自我を持ち、肉体を得てしまった。そいつらを分魂と呼び、戦い、致死に至らせることで魂を回収。これが今の俺の役目だ」
「なるほど、それでどのぐらいの魂を集めたのですか?」
アキーは質問を続ける。
「そうだな、意思のロマネスク、感情のルネサンス、豊穣のアマルナ、飛翼のバロック、そして宝珠のマニエリスムの五体だな、ちなみにどいつもこいつもまともにやったら死ぬし俺も死にかけてる。まぁ、そのうちの一回はアジサイに殺されかけているんだがな」
「やんわりボコってやったぜ」
アジサイはここぞとばかりに粋がる。
「その後、ボッコボコにしてやったがな」
「脱臼マジで痛かったからな」
アジサイは手首を抑えて顔をしかめた。
「どれが一番強敵でした?」
ヘムロックが質問する。
「あーうーん、バロックかな、一撃で鎖骨が切断して腕が上がらなくなった。おまけにニンギルレストっていうくっそ寒い場所で体も思ったように動けないし、散々だったな。その次にやばかったのはマニエリスムだな。純粋に強かった。たぶん俺より強かった」
「強かったのに勝ったのですか?」
「まぁ、ちょっと色々あってな」
「そんなことがあったんですね」
「そしてこれからあと二体残ってる。アルスマグナが言うにはこの二体が凶悪らしい。大災害なんだとよ」
「そんなに……ですか」
ヘムロックは息を飲んだ。
「まぁな、他に質問はあるか?」
「竜狩りは反対されなかったのですか?」
ダチュラが突拍子もなく聞く。
「反対されている。うーん、反対されていたって感じだな。元々イシュバルデ王国は保守派と改革派の派閥があってな。この辺はアジサイの方が詳しいんだが、簡単に言えば、アルスマグナが豊穣を約束するって言うけど反故にすのではって疑う派閥とこのままいくと豊穣無くなってみんな餓死するんやんっていう派閥の二つで、疑う派閥を保守派、餓死するやん派閥を改革派って呼んでいる。まぁ、今は保守派の人間を丸め込んで黙らせているから公では竜狩りは問題なしって感じになっているな」
「丸め込んだ?」
「具体的には武力を背景にした脅しだね! こういう薄汚い手を使うのもテクニックだから覚えておくといいよダチュラさん」
「は、はい……」
「ちなみに脅しはアジサイがやった」
「いつものように闇に葬ったZE!」
調子よくアジサイは返事をする。挙句の果てにウインクまでして場を凍らせる。
「いいか、あのお調子者がお前らの師匠なんだぞ、気の毒だな」
「ええ、そうですね」
「なるほど」
「確かに……」
「ねぇ、酷くない、結構酷いよ、酷くない?」
「と言うわけで俺がやってることがこんなもんかな、わかりやすく言えばアルスマグナを助けるために竜をぶっ殺しているの一言だ」
ジークはそういうと教壇から降りる。アジサイがバトンをパスするように教壇へと上がる。
「最後に、と言ってもまぁ一番顔馴染だと思うけどアジサイです。俺もジークもそうだけど様はなんか嫌だから、さんでいいよ。さてと俺の仕事の話か、えっと主にフィールドワークしてるな。ジークがニンギルレストに行く際も装備品や食事、極寒での対応なんかを指導したり、領土のあっちこっちを調査して生態系とか生物についての研究なんかをやっているな」
「え、領民十万を殺したっていうのは?」
ダチュラがアジサイを質問で刺し殺す。
「元々はダンプトエルでちょっと依頼があってな、調査していたところウィズアウトのピーシーと交戦、その結果、十万の領民を巻き込んだ争いになってね。唯一の生き残りが俺だっただけ」
色々割愛してアジサイは経緯を話す。
「基本的に戦うようなことはないのですか?」
「なんとも言えないかな、魔物とか魔獣とよばれているものの生態調査の際、襲われることも珍しくない。戦う能力はある方が良いが、そんことより必要以上に争わない、周囲と同化する能力が必要かな。森、山、海、川、街、都市、村、その場所で目立たないということが重要だね。他に質問は?」
「これから私たちは何をするのですか?」
アキーが小さく手を挙げた。緊張しているか周りをキョロキョロしたり落ち着きがない。
「これから一年は訓練だね。厳しく徹底的に、ナイフとフォークの使い方から死体処理まであらゆることを叩き込む。はっきり言うけど地獄だと思ってほしい。自己紹介が終わったら詳しく説明する。他には?」
アジサイは三十秒ほど返答を待つが返事はない。
「よろしい、じゃあ、これからのスケジュールを説明するよ。まず最初に謝っておくことがあるけど、俺もジークも新人育成は初めてなんだだから俺たちが全てなんでも教えられると思わないで欲しい。自分で学び、自分で解決するものだ。もちろん相談事があれば気軽に聞いてほしい。何が言いたいかと言うと、一緒に頑張っていこうってことだね」
アジサイは一息ついて三人を見る。
「そして俺もジークも君たちには厳しく接する。時には冷酷に、時には怒鳴りつけることもある。我々は君たちの命を預かるからね。ここまではいいかい?」
三人は首を縦に振る。
「よしよし、んじゃ、スケジュール話だ。
基本的には六時起床、軽いランニングと柔軟運動。
八時に朝食。
九時から座学。
十二時に昼食
十三時から十七時まで基礎鍛錬。途中で三十分の休憩が二回ある。
十八時から魔術の訓練。
十九時から夕食。
その後は風呂とか自由時間とりあえずはこの日程でやるよ」
アジサイは黒板に大体のスケジュールを記載し、三人覚えさせる。
「さてと、まずは慣れるところからだ。今日は十分休んで明日に備えて欲しい」
アジサイはにっこりと微笑む。彼女たちはこの後待ち受ける地獄をまだ甘く見ていた。
ヘムロック、ダチュラ、アキーの三人にあらゆることを叩き込む授業が始まるのだった。
「はいはい、じゃあ講義を始める前……おいおいどうしたどうした?」
全員が机に突っ伏して死にかけの状態であった。
何があったかと言うと、アジサイが早朝の運動がてら十キロほどランニングをさせたからである。彼女たちの体力が追いついていないことがここで判明した。
「おい、起きろー、今日の講義は割と楽だから頑張れー」
「アジサイなにさせたんだ?」
ジークはケタケタと笑いながらアジサイに聞く。
「いやなに、十キロほど走らせた」
「あー、うん、こいつらの問題だな」
ジークは肩を竦める。
「俺なら五分も掛らんぞ」
ミオリアは呆れながら彼女たちを眺めている。
「まま、意識はあるので続けましょう。今日は組織の自己紹介ですからね。前もやりましたが、詳しい自己紹介っすね。まず彼女たちには全体像を見せた方がいいと思って」
「なるほどな、じゃあ、俺からでいいか、これからちょっと急務が入った」
「了解っす」
ミオリアは教壇に立つ。
「あー、ミオリアだ。懐刀、一応正式名称は王立斥候騎士国王直轄師団っていうんだけど長い上に覚えるのもだるいから懐刀でいい。一応階級はシュヴァリエ、アジサイとジークの直属上司って感じだな。君らの上司の上司に当たる感じだな。基本はアジサイとジークが面倒を見る。俺と関わるのはあんまりないと思うけど顔位は覚えておいてくれ。まぁこんなもんかな。」
「普段はどんなことをしているのですか?」
アキーは手を上げて問いかける。
「基本的には、戦闘全般だな冒険者でも手に負えない魔獣神獣の討伐から重犯罪組織の強襲、能力の適性もあって急務が多いな。あっちこっち地方を巡ってるというか王城に居る方が少ないな、と言ってもまぁ、最近は色々落ち着いて王城に長くいるけどな。こんなもんかな」
「懐刀ってどうやってなるんですか?」
ヘムロックが質問を続けて聞く。
「色々あるけど基本的にアクバ王がスカウトするって感じだな。俺は神獣イルルクムっていうやつを倒して懐刀入りしたな。エレインなら魔術の社会貢献が認められてスカウト、ネフィリの場合は秋の闘技大会の徒手格闘部門で優勝を六回して殿堂入りと言う名の懐刀入りって感じだな」
早口でミオリアは話をする。
「そんなイベントあるんだ……」
アジサイは少し驚く。
「二、三年に一回の頻度であるぞ」
「今度出てみるか」
「ジークなら神獣戦に出れるな」
「死人でそう」
ジークは冗談交じりに言う。
「ジーク、残念だが毎回出てる」
「マジかよ……」
「さて、他に質問は?」
「俺らと合流する前は何してたんです?」
アジサイは冗談交じりに質問する。
「あー、その話か、新人たち聞きてえか?」
「興味あります」
ダチュラが話を促す。
「じゃあ、話すか。えっと十年前くらいかな、普通に生き倒れていたところをネフィリとエレインに拾われてな。その後は二人に付いて行く形で何となく旅をしていたな。それでたまたま王城に立ち寄った時に王城にイルルクムが現れてそれを倒してそれから王城で働いている感じだな。それから神獣倒したり、色々やってたら懐刀の第一席になって、ネフィリとかと今と同じような生活をしてた感じ」
「なんだろう、すごいはずなのに大したことなさそうなこの感じ」
「何というかすごく先輩」
ジークとアジサイは雑なコメントする。
「こう見えて色々やってんだからな、ジークの竜狩りを正式なもんにしたりとか」
「あ、はい」
「んじゃ、ジーク、次は任せた」
「うい」
ミオリアは教壇から降りるとジークに交代する。そのままミオリアは教室を後にした。
「えっと……ジークだ。アジサイの補助で面倒みるって感じだな。座学に関しては数学と物理を担当するが、こう見えてアジサイに勉強を教えていたこともある。それなりに頼ってくれ。戦闘関係も面倒見れるが、加減がいまいちわからんから怪我させたらすまん。仕事は竜狩り、読んで字のごとく竜をぶっ殺すのが今の仕事だ。質問は?」
「竜を狩るときは部隊はどのぐらいの人数を率いるのですか?」
アキーが興味津々に聞く。
「一人だ」
「え?」
「一人で狩っている」
「竜は一般的に大群率いて何日もかけて狩ると聞いていますが?」
「アキーさんだっけ? まぁ、俺の竜狩りはちょっと特殊でな少し長くなる話だが、アルスマグナっていう竜の魂を七つに分割してそれぞれをイシュバルデの地に固定した。これによって大地の豊穣を安定化させていた。しかし近年になってアルスマグナの力が人間の数に追いつけなくなった。そこでアルスマグナは一旦、磨り減った七つの魂を集めて一つにして魂を再度打ち直すことで強化し豊穣を安定化させようとした。でもってこれが難儀でな、長年魂を分けてしまったせいで各個の魂たちが自我を持ち、肉体を得てしまった。そいつらを分魂と呼び、戦い、致死に至らせることで魂を回収。これが今の俺の役目だ」
「なるほど、それでどのぐらいの魂を集めたのですか?」
アキーは質問を続ける。
「そうだな、意思のロマネスク、感情のルネサンス、豊穣のアマルナ、飛翼のバロック、そして宝珠のマニエリスムの五体だな、ちなみにどいつもこいつもまともにやったら死ぬし俺も死にかけてる。まぁ、そのうちの一回はアジサイに殺されかけているんだがな」
「やんわりボコってやったぜ」
アジサイはここぞとばかりに粋がる。
「その後、ボッコボコにしてやったがな」
「脱臼マジで痛かったからな」
アジサイは手首を抑えて顔をしかめた。
「どれが一番強敵でした?」
ヘムロックが質問する。
「あーうーん、バロックかな、一撃で鎖骨が切断して腕が上がらなくなった。おまけにニンギルレストっていうくっそ寒い場所で体も思ったように動けないし、散々だったな。その次にやばかったのはマニエリスムだな。純粋に強かった。たぶん俺より強かった」
「強かったのに勝ったのですか?」
「まぁ、ちょっと色々あってな」
「そんなことがあったんですね」
「そしてこれからあと二体残ってる。アルスマグナが言うにはこの二体が凶悪らしい。大災害なんだとよ」
「そんなに……ですか」
ヘムロックは息を飲んだ。
「まぁな、他に質問はあるか?」
「竜狩りは反対されなかったのですか?」
ダチュラが突拍子もなく聞く。
「反対されている。うーん、反対されていたって感じだな。元々イシュバルデ王国は保守派と改革派の派閥があってな。この辺はアジサイの方が詳しいんだが、簡単に言えば、アルスマグナが豊穣を約束するって言うけど反故にすのではって疑う派閥とこのままいくと豊穣無くなってみんな餓死するんやんっていう派閥の二つで、疑う派閥を保守派、餓死するやん派閥を改革派って呼んでいる。まぁ、今は保守派の人間を丸め込んで黙らせているから公では竜狩りは問題なしって感じになっているな」
「丸め込んだ?」
「具体的には武力を背景にした脅しだね! こういう薄汚い手を使うのもテクニックだから覚えておくといいよダチュラさん」
「は、はい……」
「ちなみに脅しはアジサイがやった」
「いつものように闇に葬ったZE!」
調子よくアジサイは返事をする。挙句の果てにウインクまでして場を凍らせる。
「いいか、あのお調子者がお前らの師匠なんだぞ、気の毒だな」
「ええ、そうですね」
「なるほど」
「確かに……」
「ねぇ、酷くない、結構酷いよ、酷くない?」
「と言うわけで俺がやってることがこんなもんかな、わかりやすく言えばアルスマグナを助けるために竜をぶっ殺しているの一言だ」
ジークはそういうと教壇から降りる。アジサイがバトンをパスするように教壇へと上がる。
「最後に、と言ってもまぁ一番顔馴染だと思うけどアジサイです。俺もジークもそうだけど様はなんか嫌だから、さんでいいよ。さてと俺の仕事の話か、えっと主にフィールドワークしてるな。ジークがニンギルレストに行く際も装備品や食事、極寒での対応なんかを指導したり、領土のあっちこっちを調査して生態系とか生物についての研究なんかをやっているな」
「え、領民十万を殺したっていうのは?」
ダチュラがアジサイを質問で刺し殺す。
「元々はダンプトエルでちょっと依頼があってな、調査していたところウィズアウトのピーシーと交戦、その結果、十万の領民を巻き込んだ争いになってね。唯一の生き残りが俺だっただけ」
色々割愛してアジサイは経緯を話す。
「基本的に戦うようなことはないのですか?」
「なんとも言えないかな、魔物とか魔獣とよばれているものの生態調査の際、襲われることも珍しくない。戦う能力はある方が良いが、そんことより必要以上に争わない、周囲と同化する能力が必要かな。森、山、海、川、街、都市、村、その場所で目立たないということが重要だね。他に質問は?」
「これから私たちは何をするのですか?」
アキーが小さく手を挙げた。緊張しているか周りをキョロキョロしたり落ち着きがない。
「これから一年は訓練だね。厳しく徹底的に、ナイフとフォークの使い方から死体処理まであらゆることを叩き込む。はっきり言うけど地獄だと思ってほしい。自己紹介が終わったら詳しく説明する。他には?」
アジサイは三十秒ほど返答を待つが返事はない。
「よろしい、じゃあ、これからのスケジュールを説明するよ。まず最初に謝っておくことがあるけど、俺もジークも新人育成は初めてなんだだから俺たちが全てなんでも教えられると思わないで欲しい。自分で学び、自分で解決するものだ。もちろん相談事があれば気軽に聞いてほしい。何が言いたいかと言うと、一緒に頑張っていこうってことだね」
アジサイは一息ついて三人を見る。
「そして俺もジークも君たちには厳しく接する。時には冷酷に、時には怒鳴りつけることもある。我々は君たちの命を預かるからね。ここまではいいかい?」
三人は首を縦に振る。
「よしよし、んじゃ、スケジュール話だ。
基本的には六時起床、軽いランニングと柔軟運動。
八時に朝食。
九時から座学。
十二時に昼食
十三時から十七時まで基礎鍛錬。途中で三十分の休憩が二回ある。
十八時から魔術の訓練。
十九時から夕食。
その後は風呂とか自由時間とりあえずはこの日程でやるよ」
アジサイは黒板に大体のスケジュールを記載し、三人覚えさせる。
「さてと、まずは慣れるところからだ。今日は十分休んで明日に備えて欲しい」
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