この異世界は理不尽で残酷で儚く、そして竜を狩り、国を護り、獣が吠えた。

白井伊詩

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天ト竜ト神ノ43話「身体検査」

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「はいはーい、議事とりますよー、さっむいなぁ」

 アジサイは気怠るけた。

「ういー」

 ジークは朝が早いせいか、寝起きで機嫌が悪い。

「そんじゃあ、まず、久々に会ったことだし、スキルチェックしようぜ」

 ミオリアは羊皮紙を取りだしながら口を開いた。
 
 女性陣たちはショッピング(?) しに行くと言い、席を外している。合流するのは夕方の食事会の時である。
 ミオリア達は、演習場に赴き肌寒い風に吹かれながら荒野のような場所で上着を脱ぎ始める。

「寒い」
「さみぃ」
「ファッキンコールド、はいじゃあ、アジサイ、背中だせ」
「あ、はい、何やるんです?」
「スキルチェック」

 ミオリアは羊皮紙をアジサイの背中に張り付けると鑑定を行う。

「あ、もう着替えていいよ。どれどれ結果は……えっ……」

 ミオリアは絶句する。

「何ですかその反応は」

 アジサイは上着を着直しながら言う。

「ちょっとジーク、これ見てみろよ」
「どれどれ……うっはあ!」

「何ですかその反応は、結果教えてくださいよ」

「「スキルゼロ!!」」
 
「えっ……私の能力低すぎ……?」

「低いと言うか無やな、一般人やな」

 ミオリアは半笑いになりながら白紙のスキル一覧を見せる。

「私は悲しい」


「はい、気を取り直してジーク」
「おう」

 ジークの背中に羊皮紙を張り付けて、スキルを鑑定する。
 
「うわぁ……」
「先輩これ……うわぁ」
 
「何だよその反応」

 ジークはジト目と言う名の殺し屋の目で気怠そうに訴える。

「殺意むき出し過ぎて草しか生えねえ」
「お、でも、新しいスキル増えてんな、竜殼、竜脚、これはどんな感じで使うんだ?」
 
「竜殼は名の通り、竜、豊穣のアマルナの外殻を体表に纏わせることが出来ます。端的に言えば鎧ですな。鎧と言っても武器でもありますからね」

「どのぐらい耐えられそう?」

 ミオリアは純粋な気持ちで問う。 

「やったことないんでどうにも、竜の一撃にも余裕で耐えられるとしか」

 ジークは肩を竦めた。

「十分なんだよな」
「そういや先輩、先輩は竜を狩ったことは?」

 アジサイは聞く。

「あー、そもそも竜を狩るのって今は違法だから、無理だな」
「じゃあ、ジークは犯罪者か」
「あれは、アクバ王が勅命を出しているから大丈夫。というより、竜本人が殺してくれと端的に言っているようなものだしな」
「なるほど」
「竜は積極的に狩ろうとする過激派と竜に護られようぜっていう擁護派がいたりして面倒臭いんだよな、ジークの竜狩りも結構グチグチ言われているが、肝心のアルスマグナがジークにべったりしてるから擁護派が最近呼吸困難になってるな」

 息が詰まっている現状にミオリア気だるそうな表情だった。

「話は戻しますが竜脚の方ですが、これは風の足場を作るようなものですね。それを蹴り上げて上空を自在に動けます」
「空を走っているような感じっすね」

 アジサイは捕捉を入れる。

「なるほどな」
「ちなみに、空気の壁のようなものを作るので風の塊をぶつけて遠距離からの攻撃も出来ますが、武器に纏わせることも出来て刃物を傷めずに攻撃も出来ますが、いかんせん扱いが難しくて訓練がいります。新規で得た能力はこんなもんでしょうかね?」
「前回会得した竜眼を含めて三つだ、元々身体能力系アップのスキルはてんこ盛りだったからスキルだけでもさらに凶悪なものになっているな、あと基礎ステータスも竜を倒したおかげか大幅に向上しているな」
「アルスマグナも言ってましたね、竜クラスの生物を倒すとその生物の力を得ることが出来るって」
「それにジークは、血液を浴びるとパワーが向上するスキルもあったな、これが頭のおかしい腕力の正体か」

 ミオリアは納得したような表情で頷く。

「一応、ジークのスキルやステータスはアペンディクスにしておきます」
「オッケー、ジーク、アジサイの能力は俺の方で伏せておく」

 ミオリアはアクバ王暗殺の一件から見えない敵にアジサイやジークの能力を隠したいのが念頭にあった。

「議事は破棄しますか?」

 アジサイは書きかけの議事録を見せる。

「それは俺が使うから取っておいて」
「わかりました」


「さてと、次は俺の能力を教えておくか」

 ミオリアは準備運動を始める。

「お願いします」
 アジサイはペンを滑らせながらサムズアップする。
 
「まず、何でも入る無限の倉庫『次元倉庫』だろ、お前らにも使った鑑識眼が日常で使える。次元倉庫は重さとか関係ないからなんでも入れ放題で容量も無限っぽいから」

「ファック」「ファック」
 
「なんでや!」
「いやだって、ねえ?」

 アジサイはジークと顔を合わせる。

「そりゃあ、まぁ知ってたけど改めて言われるとくたばれって感じだよな」

 肩を竦ませながら引き攣らせた笑いを一回だけする。

「弾薬持ち運び放題とか俺たちの苦労は何だったのか」
「わざわざ、容量の多いバックパックを買ってきたり、食料を高カロリー食品で埋め尽くして極寒糖度の中をひたすら歩いたりしてるとき荷物がどれほど邪魔だったか、加えて大太刀もあったしな」
「はー、ホンマ、クソかよ、先輩晩飯奢ってくださいよ、懐刀だから羽振りいいでしょ?」
「いや、奢る金はあるけど態度として奢りたくねえ」

「こちとら弾薬ケチりながら盗賊狩ったり、夜盗狩ったり、魔獣ぶっ殺したり、魔物ぶっ殺したりしてるんですよ」

 アジサイが毒を吐き出す。

「理不尽すぎる……」
 
「まぁ、先輩イジリ倒すのもこの辺りにして、戦闘方面はどうなんですか? 強いのは知っとりますが、詳細は知らんので」
 
「基本的に超高速で移動できる、本気出せば小一時間程度で領土横断出来るな、スキル系は羊皮紙渡しておくからアペンディクス送りで頼むアジサイ」
「了解っす」
 アジサイはスキルなどが書かれた羊皮紙をミオリアから受け取ると中身を確認した。
「うわ、筋力だけならジークの一回り下だけど速力に再生能力、スピード、あらゆる点でジークに勝ってる……と言うか自分のステータスと比較すると桁が二つくらい違うのですが」

 落胆するアジサイ。

「アジサイは……うん、なんか見放されている感がヤバイな」

 ジークは慰めるように肩を叩いて励ます。

「今は、大体奴らを手抜きで倒せるけど、本来は次元倉庫からアイテムを取り出してあの手この手で戦う感じだな、ジークと違って俺はある程度魔術を使えるから、遠近両用ファイターだな」
「なるほどっす」

 アジサイはメモを取る。

「と言っても潤沢な魔力があるわけじゃないから戦闘と言うよりも焚火や飲み物冷やしたりする程度だな、あとアイテムがあるから魔術をわざわざ使うほどでもないし」
「他に目立ったスキルはありますか?」
「あー、『オートアイテム』だな。指定したアイテムをいちいち次元倉庫から取り出す手間を省いて使用できるな、選べるの最大七種類までだけど、回復薬とか色々設定できるから何かと便利だな」

 ミオリアは次元倉庫を開かずに回復薬を展開する。

「ふぁーーーーー、ほんまクソ、デメリットとか短所とか弱点とかねえのかよ」

 アジサイは声を裏返しながら叫ぶ。

「アジサイ、ステイステイ」

 ジークがアジサイを制する。
 
「他の能力としては、倒した敵の能力を奪えるで、永遠」
 
「アジサイ、ゴーゴーゴー!」
「ファッキュファッキューーー! フゥウゥゥゥゥ!」

 アジサイとジークは武器を取り出しながらにっこりと狂気孕んだ笑顔でミオリアに近づく。

「ステイステイ!」

「私の能力低すぎませんかね!! 一般人ですよ!」

 アジサイが悲鳴のような声を上げる。

「えっ、逸般人?」

 ミオリアが煽る様に言葉のアクセントを変える。 

「ほんと、やめたくなりますよ」

 アジサイは呆れながらペンを走らせる。

「と言うわけでそんなもんかな、自分でも言うのもあれだけど、一応、俺の方が強いと思う」

 それはミオリア自身の意地もあるが、それ以上に懐刀として矜持があるからだ。

「まぁ、ステータス的には一番ですね」

 アジサイは軽くあしらう。

「そうですね」

 アジサイに合わせて、ジークも頷く。
 
 
「まぁ、確認できたし、次、アジサイ行こうか、一番、独特だろうしな」
「自分は長くなりますよ」
「まぁ、装具なんて言う特別な武具だしな、ひとつずつ聞こうか」
 
 アジサイは先ほどからずっと腰かけている金属製の箱から立ち上がる。

「ではまず、論装『怜青』からですね」

 アジサイは装具を展開する。ピアス、コンタクト戦闘用のグローブを装着すると、話を戻す。

「このコンタクトが論装『怜青』です。本来はジャケットなのですが、今はこの形状になっています。こいつの出来ることは、計測ですね。温度、湿度、照度、周波数、電流電圧、圧力、風向風力などなど、自分でも使いきれないものもありますね」
「はえぇ、オーバーテクノロジー」

 ジークが驚く。

「ただ、いっぺんに情報を展開すると自分の脳ミソが耐えられないのか頭痛と共に鼻血が出ますね、そして武器がグロック、このタイプは18Cだと思います、所謂オートマチック拳銃ですね。この銃はハンドガンのクセに単発式と連発式を切り替えられます。セミオートマチック、フルオートマチックともいいますね。弾薬は9 mmパラベム弾、装弾数は17発、薬室に一発入れられるので最大で18発ですね。破壊力は人間を殺すなら十分な威力です。射程は自分が確実に当てられるのは10 mくらいですね。有効射程は50 mほどです」
「連射はどのぐらいの速度で撃てるんだ?」

 ミオリアの問いに対し、アジサイは拳銃からマガジンを引き抜き、弾薬箱から銃弾を取り出し、リロードする。
 
「まず単発」
 アジサイは三秒ほど間隔を設けて誰もいない方へ発砲する。誰もいないと言ってもアジサイが事前にターゲットとして鉄板に丸い円を書いた的へ発砲する。

「意外に音すごいな」
「こんなもんです。次はフルオート」

 ダンダンダンダン、と小気味よい炸裂音が連続する。

「ビビる」

 ミオリアは耳を塞ぎながら

「こいつはある種、良い基準です。良くも悪くもバランスが良いです。地球ならですが」
「どういうこと?」
「こちらの世界は、大型の魔獣が多いし、回復魔術が発達しているのでこの銃では決定打に欠けてしまいます。と言っても接近戦になれば取り回しが良く反動も少ないので狙いが定めやすいです」
「あー、なるほどな、9 mmだと威力が足りないのか」
「そんなところですね、それで、次の武器になります」

 アジサイはグロックを仕舞うと、次に大型のリボルバー拳銃を取り出す。先ほどまでのオートマチック拳銃よりも明らかに強力である。

「律装『鈍凛』、筋力を向上させる装具です。このグローブがそうですね。武器はM500、地球上で一般流通している拳銃の中で最も口径が大きく、強力な拳銃です。流通していなきゃもっとヤバイ拳銃もありますが、それはそれ、これはこれ」

 アジサイは、弾薬箱からこれまた大きな弾薬を取り出す。先ほどまでの9 mmパラベム弾が短小に見える。

「うわぁ、こりゃあヤバイな」

 ジークが喜々として拳銃を眺める。

「人間を撃ったら頭が消えますよ」

 ジークと、ミオリアはアジサイのジョークだと思ったが、当人のアジサイは実際にこの銃を人間に発砲し無残な肉片を生成している。

「じゃあ撃ちますよ、耳塞いでください」

 アジサイは大型リボルバーM500を両手で持って、構えると撃鉄を引いて、狙いを定める。目の焦点が合うのを確認してから引き金を絞る。
 
 衝撃がミオリアとジークの身体を一瞬だけ震わせた。

「やべえ……あんなのに撃たれたら死ぬな」
「だなあ、アジサイが敵じゃなくてよかった」
「M500は装弾数五発、威力はお墨付き、たぶん口径のデカさは今ある装具の中では一番ですね」

 アジサイはそういうと、シリンダーをスイングさせて空薬莢を取り出す。

「筋力増大の律装に何でも計測できちゃう論装ね、把握把握」

 ミオリアは頷きながら確認する。

「そして、次の装具がこれですね。名前は感装『蘭舞』です」

 アジサイは雫型のピアスを指差す。

「どんな能力なんだ?」
「簡単に言えば、脳内麻薬を制御して強制的にハイになったり、人を殺したり襲われたりしても冷静でいられるように装具ですね。設定をミスるとアヘ顔発情チンパンジーみたいになるので結構危ない装具です。痛覚や筋肉などを制御しやすいので射撃時のブレなども減らせます」
「え、それなんかやばそうなんだけど」
「いやいや先輩、あれやばいとかそういうレベルじゃないです。ヤク中装具ですよ」
「だよなぁ……」
「ひどない? ねえねえ? ひどない?」

 突っ込むアジサイ。それとは別に今度はライフル銃を取り出す。

「そしてこれが感装の武器です。レミントンM700、スナイパーライフルですね。射程は約800 m、バイポットに消音機……あ、消音機って言うのはサプレッサーとかサイレンサーとかいう音を消すためのアタッチメントのことですね。それにスコープと至れり尽くせりの狙撃のハッピーセットですね」
「超遠距離だな、たぶんこの国でもそんな距離を魔術で狙える奴は少ねえぞ」
 
「んで、ここから話はちょっと拗れるのですが、この論装、感装、律装は同時発動できる装具なんですよ。三つの装具を合わせると義装『忠節』という名前になります。まぁ、本来の姿に戻ったと言うのが正確ですけどね……この三つが合わさると、今までの能力にプラスして新しい能力が追加されます」
「もうこれわからねえよ、小説だったら設定モリモリすぎてわからねえ奴だよ」
 ミオリアがツッコミを入れる。

「と言っても、新しく追加された機能はシミュレーションですね。弾道シミュレーションができるようになるので、この装具を使っている状態なら弾丸が届くなら精度良く当てることが出来ます。と言っても速過ぎる相手は避けられてしまいますけどね」
「便利だな」
「とまぁ、義装『忠節』とそれを構成する感装『乱舞』と論装『怜青』と律装『鈍凛』の装具紹介でした」
「これだけでもだいぶおなかいっぱいになれそう。忠節シリーズね了解」
「まだあるんすよ……と言うか全部合わせると十二種類ですよ」
「クソ多いな便利グッズ」
「装具ですよ先輩、装具!」
「はいはい、じゃあ次の装具」
 
「ういうい」

 アジサイは義装を解除すると義装は鈍色と藍色とそして七色に変化する色が混ざった宝珠に戻る。

「それ無くしそうになるな」
「ああ、大丈夫っす、なんか勝手に付いてくるので」
「え、なにそれ怖い」
「まま、そんなことはさておき、次の装具はこれっすね、これも二種類の装具が混ざった物ですね」

 空色と桃色が混ざった宝玉を取り出すと装具を展開する。宝玉の通りの淡い色彩が美しい羽織がアジサイを着飾る。

「二つまとめて紹介しますね、起装『雪解』と雲装『雷鳴』ですね。起装は空気を操り、雲装は電気を操ることできます。まだ全部そろっていないので、マージされた装具の名前は分かりません」
「さっきのよりシンプルでわかりやすいな、武器は?」

 アジサイは二つの武器を取り出す。一つはサブマシンガン、もうひとつは軽機関銃である。

「軽機関銃ミニミとサブマシンガンのMP5っすね。どっちも高火力装備っすね」
「ゲームでよく出る奴」
「ジークの言う通り、結構有名な武器ですね。射撃も想像が用意なので今回は抜きですで大丈夫そうですね」
「まぁ、何となくわかったわ」
「俺も」
 
「了解です。一応装具の使い方ですが、この二つは用途が広いので一例になりますけど、まず空気を操れるので空を自在に飛べます。また空気を固定したり、圧縮したり風の刃を作り出すこともできます。そして真空も生み出せます。電気を操る方は、雷を操って落雷を起こしたりもできますが、心臓に電気ショックの要領で衝撃を与えて心臓を止めたり、神経を刺激して筋肉を収縮させたりするなど様々使えます。どちらの装具も能力行使は半径20 mが限界です」
「なんだろう、派手な使い方出来るはずなのに使用者の方針が陰湿……」
「やめてください、暗殺者気質なのは連れにも言われているので……実際、電気ショックは死因不明になると思いますので暗殺向きですけど」
 
「そういや、アジサイ、装具展開しているけど神性は大丈夫なのか?」
「装具は発動しているだけ神性を上昇するのではなく、特殊能力を使う時だけ神性が上昇する。自動的に能力が発揮される装具もあるかもしれないけど、今ある装具は全て自分の意思で力を行使できるんだ。もちろん能力を行使しまくれば吐血もんだ」
「なるほどな」

「そして最後の装具紹介ですね」

 アジサイは装具を解除すると黒い半分欠けた宝珠を取り出す。
 装具を展開すると黒い襤褸切れのようなどす黒い包帯がアジサイに巻き付く

「前は羽織だった気がするけど、もう戻らないのかな、それとも元々こんなんだったかな……」
「その装具かぁ」

 ジークはトラウマがあるのか苦虫を噛み潰した表情になる。

「この装具は……人間の血液を操ります」

 アジサイは自分の影から不定形のどす黒い何かが溢れ出す。

「これが血液?」
「超高濃度で凝縮されているので黒いです。今まで殺してきた人間の血液がこの装具に貯め込まれます。勝手に貯めこまれるんですよ」
「この量だと何人か殺しているのか」
「まぁ、盗賊とか」
「まぁ、俺だって殺してるし」 
「まぁ、しょうがない」

「それに付随してもう一つの能力が穢れを吸収します。これは血液が持つ性質であって悪装の性質ではないのです。アルスマグナの分魂である豊穣のアマルナを浄化した際も使っていますね」
「あーなるほどね、ところでこいつの武器は?」

 ミオリアが尋ねるとアジサイは首を捻った。

「それが分からないんすよね」

 アジサイは高濃度の血液の中から鉄柱を取り出す。

「これだけなんですよね、これが六本だけっす」
「なんか微妙」
「そうなんですよ」
「装具も玉状態の時欠けてたしな何だろうな」

 ジークも首を捻る。この時ジークはアジサイのこの鉄柱が円筒形で中に溝が彫り込まれていることを忘却の彼方へと見送っている。

「わからないねえ、ただ感覚的にこれは不完全なんだと思う。まだ何かが足りていない」
「わかるのか?」
「ええ、まぁ、装具の素材になったものとは縁があるので」
「素材?」
「自分が地球に居た頃霊感あるって言ってたじゃないですか」
「うんうん、実際お前占いとか割とえぐい当たり方してたもんな」
「占いもそうですが、あの能力の多くは自分に憑りついていた守護霊の力で、こっちの世界に来ても不自由しないように彼女たちが装具に形を変えて自分と一緒に来たんだと思います。ただまぁ、タダでは力を貸してくれないのは彼女たちらしいですね」
「そういうもんだったのか」
「最初に装具と出会った時点で何となくわかっていたのですが数が揃うと強く守護霊を感じますね」
「装具集めもしなきゃいけないのか」
「そうっすね、と言ってもあと六個なのでようやく折り返しってところです」

 アジサイは指を折りながらミオリアに返答する。

「全部で十二個か」
「そうですね、それぞれ組み合わせもあるので名称的にはもっと増えるのでさらに話がこじれそうです……」
「アジサイが装具と修羅場だってぇ?」
「シリアスな空気をぶっ壊すなジーク」
「いや、そろそろ真面目な話も飽きたしな」
 

「それもそうだな、目的の能力確認も終わったし、中に戻って昼飯でも食いながら今後の話をするか」

 ミオリアは空腹なのか腹を鳴らす。

「今後ですか?」
「とりあえず飯だ」
「あ、先輩、この弾薬箱倉庫にお願いします」
「いいよー、どこ置いておく?」
「あ、それは先輩が持っててください、予備弾として保管したいので」
「オッケー」
 
 
 
 ミオリアは王城の部屋を借りて、昼食兼会議を始める。

「飯美味いっすな」
「チキンのトマト煮込みに焼き立てのパン最高だろ」
「俺とジークはワイバーンのペミカンとハードタック、干しタムル……」
「あの護衛任務はクソ辛かった」

 ジークとアジサイは遠い目をしていた。

「何それ」
「保存食っす、不味くはないけど毎日同じ物ばかり食べていたので飽きてしまったのですよね」

 次元倉庫に何でも保存できるミオリアにとって無視できるため馴染の薄いものとなっていた。

「一週間はきつかったなぁ」

 しみじみとアジサイは嫌そうな表情をした。

「ほんとそれ」

 ジークも心底いやそうな顔をした。

「他にもグラタンにパスタとかもあるけど」

 ミオリアの一言に二人は目を輝かせた。

「「食います」」

 二人が同時に同じ言葉を話す。
 
「あいよ」

 ミオリアが呼び鈴を鳴らしてメイドを呼ぶと、注文を付けた。メイドはすぐに返事をして部屋を後にした。
 
「とりあえず、今後の方針を放そうかなと思ってな」

 ミオリアはナイフとフォークを置いて真剣な表情になる。

「方針ですか」
「うん、単刀直入で言うと、アジサイの管理をアンタレスから俺の下につけようと話を付けているんだ。アンタレスは現在、アクバ王の周辺警護の仕事していて部下にどうこう指示を与えられるたちばじゃない、はっきり言うとアジサイは浮いちまってる。実際仕事も領土調査の仕事を長期間やらせているという感じだろ」
「先輩の仰る通りです」
「俺の下に付けばウィズアウト対応の仕事、もしくは竜狩りの仕事になるから、今までバラバラに仕事をしていた俺たちを集めるのにいい切っ掛けになるかなと踏み切った」
「なるほど、わかりました」
「なんかたらい回しにして都合よくホイホイ移動させているようですまんな」
「大丈夫っすよ、仕事ってやつは往々にしてそんなもんですから」
「と言うわけでこれから俺の部下になってもらうからよろしく」
「わかりました。んで私は、ウィズアウトですか、それとも竜ですか?」


「その話だが、ここからが本題、ジークにも関係している」
 
「と言いますと?」

 ジークもフォークを置く。

「まず、ネフィリの呪いについては知っているか?」
「ええ、厄災の呪いですよね、内容は一定期間同じ場所に居続けると災害や疫病などが頻発するとかですよね」
「それで合っている。ウィズアウトのエスエッチから聞き出した情報だが、ネフィリの呪いにはどうやら竜……アルスマグナ関係している」

 アジサイとジークは顔を見合わせた。

「どういうことですか?」
「ここからはエレインとネフィリと予想した話だが、おそらくネフィリの呪いはアルスマグナ分魂のひとつが関わっているんじゃねえかなと」

 ジークとアジサイは手を額に被せた。

「ちなみに先輩、呪いを解く方法は?」
「……アルスマグナの殺害」

 ジークが目の色を変えた。

「でも先輩的にはそれは絶対に避けたいと?」
「それなんだよ、んで、なんかいい方法無いかなって……」
「まぁ、ノープラン」
「ですよね」

 後輩二人はため息を付く。
 
「どうするかな、アルスマグナの分魂である平穏のビサンティンにもう一回会いに行って話を聞いてもらうか、それともレイペールになにかヒントがあるのか」

 アジサイはぼやく。

「レイペール? なんであそこが?」
「ビサンティンに言われたんですよ、レイペールに行けば答えが出るって、それを解決するまでお前の相手はしねーよバーカみたいなこと言われましてな、ジークと俺で登頂計画を立てていたんです」
「ほーん、レイペールか……お前らあそこがどういうところかわかってんのか?」
「富士山より高い山」
「なんか危ない山」
「小学生かよ」
「標高六千メートル級、神獣の園、生還者ゼロの山、色々聞いてますよ」
「行くのかぁ、うーん、でもお前ら行くって言うしなぁ、いやぁでもうーん」

 ミオリアは高所恐怖症であるため断崖絶壁が予想されるレイペールには近づきたくないのが正直なところである。

「無理しなくていいっすよ」
「んだけど、流石にネフィリを後輩に任せっぱなしになるのはなぁ……」

 ミオリアは唸るように悩み始める。

「あ、そうだ、アジサイの装具で空気操るやつで飛んでいけばいけるんじゃね?」

 苦肉の策で思いついた作戦をミオリアは提案する。

「それ俺とジークも思いついたんですが、ホワイトアウトした状態でしかもコンパスがまともに利かないような場所をどうやって真っ直ぐ進むんだって怒られましたよ」
「ですよねー」
「レイペール山脈の攻略はだいぶきついと思います。準備するならかなり時間が掛りますよ、ニンギルレストですらかなりきつかったですからね」
「むしろあれでよく生きて帰ってこれたよな……今思うと色々足りてなかったわ……」
「いや、アジサイには助けられた」

「決めた、俺もレイペール山脈に向かう」
「よっしゃあ、便利な荷物持ちがパーティ加わった!」
「よし、これで荷物は何とかなるな」
「俺の扱いは車か」
「どっちかっていうと荷馬車?」
 
「ひっどいなぁ、異世界来てもほんとお前ら変わらねえな」

 ミオリアは少し安堵した表情を見せる。

「そういや、俺らのいた世界はどうなってんだろ」
「さぁ、帰りたいとも思わないしな」
「ほんそれ、こっちの方が生きてて気楽っす」
 アジサイは二人の会話を黙って見守っているだけだった。

「アルスマグナさんを助ける、ネフィリさんも助ける。どっちもやらなきゃいけないのが男の辛いところっすな……俺関係ないな!」
「今更かよ」
「いやまぁ、良いんですけね。仲間外れにされてもあれですし、便利グッツ(装具)もありますからね」
「地味に便利だよな、代償デカイけど」
「ちゃんと魔術を勉強しろということなんだと思います。もうすっかり秋ですし、読書の秋と言うのも悪くないと思いますね」

 アジサイは外から見える茶色くなった木々を見下ろしながら言う。

「読書いいよなぁ、活字はいいぞ」

 ミオリアも頷く。

「……あっ……うん」

 アジサイが声を漏らす。

「どうした?」
「いや、うん、秋鮭の塩焼きにメシかき込みてえなって……ジークもそう思うだろ」
「わかる」
「米の話はやめるんだ、どうやらこの世界、たぶん米がねえ」

 ミオリアも懐かしい望郷の味を想起したのか食べられないと言う事実に顔を歪める。

「まじか……アジサイなんとかしろよ」
「せめて米に近い植物があればなぁ……」

 アジサイも頭を悩ませる。

「米の話は今後はやめよう」
「……そうっすね」
「そうですね」

 二人は頷く。
 
 
 
「お、いたいた」

 女性陣が予定の時刻よりも早く部屋に入ってくる。

「あれ、思った以上に早かったな」
「男性の方にやたらと声をかけられてのんびり買い物ができなくて早々に切り上げてきた」

 言われてみるとそれも当然で、女性陣は見な毛色は違うが美形で可愛らしいため、声をかけられるのはさも当然と言えば当然であるが、蓋を開ければ、竜、天使と人間のハーフ、宮廷魔術師、一等級冒険者と強者揃いであるため、不意に近づけば物理的に骨抜きにされかねない。

「んお、スピカが服を着ている……」

 白のワイシャツに藍色のジーンズ姿のスピカを見てアジサイは目を丸くする。

「流石にこの時期にブラとパンツと言うか痴女みたいな恰好見てるこっちが寒い、アジサイも男なら服のひとつやふたつ買ってやりなさい」

 ネフィリは呆れながら、アジサイに苦言を投げる。

「はい……今度は強く言っておきます……」
「あの恰好動きやすいんだけどな……」
「スピカねぇ! あなた美人でスタイル良いのに勿体無いんだからオシャレしなさいよ! 胸大きいんだし!」

 ネフィリの慎ましい胸を一瞥してから破壊力のあるスピカの胸を見てアジサイは目を閉じて俯き何も言わないようにした。

「アジサイもなんか言いなさいよ」
「いや、うん、服着たスピカも好きだよ」
「……うん、そうか、お前が言うなら今後もオシャレと言うものに気を使ってやらんでも……ない」
 
「うわ、ミオリア、こいつらの聞いた?」
「聞いたぞネフィリ、完全に惚気たな、エレインもそう思うだろ?」
「全くだミオリア、惚気もいいところだ。アルスマグナさんもそう思いますよね」
「ええ、ジーク様、これが惚気というやつですか」
「惚気に決まってんじゃん、ふぁああ、草生える」

「ふぁあああああ、今のナシ! テイク2テイク2!!」

「はい、もう一回惚気はいりまーーーす」
「ジークテメェこのやろう、この前のワインレッド祭りの宿で惚気てた話をバラすぞ!」
「ふぁああ、逆キレかよ、だったら俺も先輩の嫁自慢をバラしたろ!」
「おいおいおいおいおいおいおいやめろボゲェ!!!」


「お前らホント仲いいな」

 呆れたようにスピカは肩を竦めた。

「と言うか、男子ってホントバカだよね」

 ネフィリが話になると男性陣はこれ以上はやめようと言わんばかりの雰囲気で三人は話題を逸らす。

「それじゃあ、本題に入るか」
「あ、その前にアジサイ、少しいいか?」

 スピカは話を遮って、小さな高級感のある箱を取り出す。箱の質感から宝石の類であることはすぐにわかった。

「……俺の誕生日は六月だぜ」
「いいかろ受け取れ」

 アジサイは箱を開くと、紅葉色の宝玉。大きさは大体十円玉程度の大きさである。

「これ装具じゃないか?」
「装具だね」

 アジサイは宝玉を手に取ると、立ち上がって窓辺に向かう。
 装具を展開する宝珠と同じ色の羽織が展開される。

「おー、綺麗」
「アジサイが赤色を着るのは初めて見たな」
「おー、これは、すごい」

 アジサイは左手の指先から炎を現す。

「炎を操る装具か」
「あー、うーん、これは、まぁそんなところっす先輩、たぶん炎ではないです」
「炎じゃないって言うことは熱か」
「正解ジーク、これ熱だね枯装『禾火』、まさか売りに出されているとは思わなかったけど、思わぬ縁があるもんですな」
「まさか秋物ジュエリーの在庫処分品に混ざってるとは思わなかった」
「スピカ、ありがとう、またひとつ装具が帰ってきたよ」
「おう、そんじゃまぁ、本題に入るか」
 
 
 
「レイペールに行くの!?」

 ネフィリが露骨にいやな表情をする。

「レイペールか」

 色々と思うところが乗り気なエレイン。

「レイペールですね」

 ジークが行くところについて行く絶対の意思を感じるアルスマグナ。

「レイペール面白そうだな!」

 好奇心に勝てず、ハイキングにでも行くかのように楽し気なスピカ。
 女性陣は十人十色の表情を浮かべていた。
 
「とまぁ、そんな感じだから諦めて行こう」

 アジサイは励ましたつもりだったがあまり効果はなかった。

「じゃあ、春まで準備だな、みんな力を蓄えておいてくれ」
「じゃあ、先輩訓練しますよ」
「えっ……なんで?」
 
 
 
「高所恐怖症の克服」
 
 
 ミオリアはしばらく悲鳴やらなんやら止まらない数か月となった。
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