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天ノ27話「されど天使は我らの共に」
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現在、ミオリアは、エリュシオンテに到着し、宿にて作戦会議を始めるところだった。
「いやぁ、しかし、シーエム、恐ろしく弱かったな」
「ああ、この程度で我々を捕らえようとしていたとは舐められたものだな」
エレインは余裕綽々な表情でベッドに寝転がった。
「そうだねー」
ネフィリは気怠そうにベッドに寝転がっている。
「しかし、あいつらの目的はなんだろうな?」
ミオリアは道中も何度も呟いたことを改めて言う。
「まるでわからない、そもそも狙いはどちら何だろうな、ネフィリはどう思う?」
「今更そんなこと口にする必要はないよ」
いつになくネフィリは不機嫌だった。
「そうか……」
「じゃあ、ボクはお出かけしてくるよ、この部屋にも飽き飽きだ」
「おう、気を付けてな」
ミオリアは軽く手を振ると、ネフィリは起き上がって、部屋を後にした。
あの状態のネフィリはニトログリセリンのようにちょっとしたことで怒りを爆発させるため残された二人は静かに見送った。
「アイツ、不機嫌だな」
「何かあったのだろうか、原因は今日の昼食だろうか?」
エレインは顎を右手に乗せて黙考した。
「なんか俺やった?」
「さて、今回はなんとも……」
「わからねえなぁ」
「さて、ウィズアウトについて、現状わかっている情報を精査したい、議事を書く用意をする」
「わかった」
今回はアクバ王の勅命であるため報告書を作成する義務がある。会議や旅の軌跡を残すために定期的に会議を行う。今日の議事録の担当はネフィリだったが、どこかに行ってしまったためエレインが担当することになった。
エレインは鉛筆と羊皮紙を取り出し、記録の準備を完了する。
「ちょっと筆慣らしをしたいからいくつか質問をする」
「オッケー」
「今日の日付は?」
「えっと……ヘロットテリトリーを出たのが六月九日で、ここまで来るのに三日かけたから六月十二日だ」
エレインはミオリアの言葉に合わせながら鉛筆を走らせていく。
「大丈夫そうだな、では本題に入る。まず我々は五月二十五日にダブルピーと初遭遇し、能力によってミオリアが支配された。私とネフィリはミオリアが人質にある状態であるため、ダブルピーの言いなりとなった。ミオリアは王城に帰還し、アジサイと連携して捕虜となった私とネフィリを救助した。そして五月二十八日、暴徒化したヴェスピーア市民を鎮圧、ダブルピーを殺害した。この間にアジサイは敵の情報を入手しヘロットテリトリーにウィズアウトがいることを報告し、最大戦力の一角である我々のチームが対処になった」
現状までの経緯をエレインは簡潔に説明した。
「六月九日にヘロットテリトリーに到着し、シーエムと遭遇、即日討伐し、ワイルドコート商会に依頼しウィズアウトの情報を入手しエリュシオンテにウィズアウトのケーシーがいると情報を得て討伐に向かった。そして三日かけてエリュシオンテに到着で現在に至る」
「概ねの情報はこれで全てか」
エレインはテーブルの上にある羊皮紙に鉛筆を滑らせている。
「そうだな、付け加えるならダブルピーの能力は人間の心を掌握し服従させるような感じで、シーエムは取引を行った人間を支配できる能力だったな」
「人間と言ってもある程度、魔力に耐性があれば抵抗できるようだった。私が大丈夫だったことからそうではないかと予想している」
「魔力か……だからアジサイも支配されなかったのか」
「アジサイの魔力は、人間の領域を逸脱している。御伽噺に出て来る四大種族をみているような気分だ」
「そんなにあいつの魔力すごいのか?」
「魔力の強さを決める要素は三つあると昔説明したことがあるな」
「なんだっけ?」
ミオリアは記憶にありませんと言わんばかりの顔をした。
「……魔力生成能力、魔力貯蓄能力、魔力感応能力この三つだ。生成能力が高ければ、魔力が空になってから回復するまでの速度が早いと言うこと。魔力貯蓄能力が高ければ、一度に巨大な魔術を発動したり連続で魔術を発動することが出来る。魔力変感応力が高ければより多くの種類の魔術を行使できる。要は各種魔術との相性だ。私なら氷結系魔術への感応能力が高い。といったものだ」
「アジサイはその三つがずば抜けて高いと?」
「まず生成能力に関してアジサイは一般人よりちょっと強い程度だろう。魔道騎士を輩出しているアタラクシア学院ならポンコツ劣等生だ」
「酷い言われよう」
「だがあいつには装具がある、あれは能力を発動すると魔力が大量生成されるという代物だ。肉体への負荷を度外視していいなら、魔力生成能力は魔道騎士たちの中でもトップクラスだ。通常の人間なら魔力生成が自身の魔力許容量を超える前に生成がストップするが、装具にはそれがないため肉体が魔力に耐えられず崩壊していく」
「それじゃあ、あいつは装具を使い過ぎたら魔術を使ってガス抜きしないとまずいのか」
エレインは首を縦に振った。
「次に魔力貯蓄量、これに関しては、人間の領域から出てしまっている。神獣と同じレベルだ。神性持ちだからな。わかりやすく言えば、私の貯蓄限界がコップならあいつは湖だ」
「はえー、やべえやつだな」
「そして最後に魔術感応能力、アジサイはかなり特殊で、通常時は全ての魔術に対して弱い感応力しかないが、発動している装具によってこの感応が変化する」
「あー、うーん、あいつらしいな」
「ただ、本人には伝えていない」
「どうして?」
「不確定な要素が多すぎるし、ちょっと引っかかるところがあって、すまない今は確証がないから言えない」
「そっか」
「アジサイの総合評価は状況次第では懐刀と渡り合えると思う」
「じゃあ、ジークは?」
「竜狩りか……あいつは、なにをしたらああなるんだ?」
「え、どういうこと?」
「ジークが一人で戦っている竜はいずれも神獣クラスの化け物なんだ。それを単独で、しかもこの二か月で三体も倒している。とてもじゃないが人間が成し得るなんて……」
「あいつのスキルもやばいからなぁ」
アルスマグナの分魂は竜の中でもトップクラスの強さを誇っている。イシュバルデ王国の国力を二割も消費して初めて分魂を一体倒すことができるレベルの相手をこの二か月でジークは三頭倒していることになる。
「あれはまるで生物殺すために生まれたようなもの、それに竜を倒すたびに力を向上するらしいな……本気を出したあれを倒すことができるのだろうか……?」
エレインはジークが仲間であったことを心底よかったと思う表情だった。
「んでも、仲間だし、目つきはあれだが、良い奴だよ」
「ああ、本当に、それだけが救いだ」
「しかし、俺の後輩たちがあんなに強くなっているとは思わなかった」
ミオリアは嬉しそうに笑った。
「アジサイに関しては魔術をもっと修得してほしいところだが、教えるにしても人間的な部分でちょっとな、だが良い魔術師になるに違いない」
エレインもミオリアにつられて頬を緩ませた。
「さて、話がいいところでまとまったところで、ウィズアウトの目的についてだ」
「話が脱線しまくっていたな」
「ああ、まったくだ」
「ウィズアウトかぁ……あいつらの能力は危険だな」
「今わかっているだけで、人心掌握に取引した人間の支配……もしも人間をどうにかする能力だった場合、これからも犠牲者がたくさん出るな……」
「どうやら俺はウィズアウトに無力っぽいし、おそらく懐刀でもレオニクス、グーラントもアウトだろうなぁ」
「ああ、だから私とネフィリが撃破するのが安定だろう」
「あとはアジサイか……国土調査もいいが、こっちの方が重要じゃねえか?」
と言っても、各領土と領主に直接接触して 内情を探るという点に対してアジサイの行動は口実として最高であるため、アジサイの判断を否定はできなかった。ただ戦力と考えた時、アジサイがいればミオリアはもっと楽に戦闘ができたというボヤキである。
「アジサイもアンタレスと一緒に領土を調査しながらウィズアウトを調査している、文句を言うな」
「はいよー」
気怠そうにミオリアは返事をする。
「あまり気を抜くな、既にケーシーのテリトリーにいるんだ。いつ襲撃されるかわからない」
「それはそうだけど、こうも平和だと、ついつい緩むよなぁ、旅疲れもあるし」
窓からは花の都と比喩されるエリュシオンテの街道が一望で来た。その光景は今にも甘い香りが届きそうなほどだった。
「気持ちはわかるが……」
「それにエレインはウィズアウトの能力が効かないっぽいし、俺は大丈夫だろ」
「その言い方は卑怯だ……」
見事にミオリアは、エレインの惚れた弱みを逆手に取った発言をした。
学者肌で、恋愛に疎かったエレインにとってこの一言は破壊力が大きいようだ。
「はぁ、イチャイチャしているところ申し訳ないけど」
ネフィリがドアの前に立っていた。
「お、おかえり」
エレインは頬を赤らめながらネフィリにそう言い返した。
「あのさ……今日は何日?」
ネフィリは不機嫌な表情のまま、ミオリアに目を合わせた。
「え、六月十二日」
「はぁ……」
ネフィリは露骨に呆れた表情と落胆のため息をついた。
「それがどうしたんだ?」
「今日は六月二十五日だよ……」
ネフィリは呆れた表情をそのままにミオリア達にそう告げた。
「どういうことだ?」
「ついでにいうとケーシーも倒してるよ」
「えっ! どういうことだ?」
「はぁ……まぁ、仕方ないか……」
ネフィリはドアの前からミオリア達の近くに寄ると話を続けた。
「私たちになにがあったと言うのだ?」
エレインは困惑した表情で、ネフィリを問いただす。
「まず、ケーシーの能力は人間の記憶を奪い取る能力。つまり、エレインとミオリアは十三日分の記憶をケーシーに奪い取られているの」
「十三日分の記憶が?」
「そしたらなんで、ネフィリは大丈夫なんだ?」
「それは、ウィズアウトの目的とも重なるけど、その前提になる話を先にするよ。ウィズアウトはそもそも、天使族が作ったホムンクルスなんだけど、こいつらに天使がちょっぴり権能を与えたのをやつがウィズアウト。天使たちはある目的を果たすためにエルシェルに派遣したんだ」
エルシェルとはこの世界のことでミオリア達の居た世界でいう地球に等しい。
「ある目的って?」
ミオリアが首を傾げながらネフィリに聞く。
「ウィズアウトの目的は私を捕まえること、『クタナー・ネフィリ=クリゴーリ』を捕まえろって指令……」
ネフィリは憂鬱そうな表情になっていた。
「私は……人間じゃないから」
押し殺した表情でネフィリは声を絞り出す。
「私ね……天使族と人間のハーフなんだって……お父さんの名前はリツフェル……」
エレインの表情が硬直した。
「リツフェル……そんな……ネピ……冗談は――」
リツフェル、かつて四大種族が戦争したという御伽噺に登場する人間側付いた裏切りの天使の名前である。
「冗談じゃないんだ、現に今もお父さんの力がこうして……」
ネフィリは上着を脱ぐと、目を閉じて意識を集中させた。
六枚の白い羽を展開させた。天使の翼と言うのが当てはまる美しい羽だった。
「ケーシーと戦っているときに発現したんだ……ボク……人間じゃ……なくて化け物なんだ」
「絶句したでしょ?」
人間でないことを悟ったネフィリは、もうミオリアたちのそばにいれないと覚悟した上でカミングアウトした。
「めっちゃかっこいいなそれ」
「ああ、天使の翼を初めてみたがこんなに美しいのか……」
興味津々でエレインとミオリア達は顔を近づけてまじまじと見つめた。
「え、いや、話聞いてた? ボク人間じゃないんだよ……」
「それがどうした? ネピは俺のパートナーに変わりないだろ?」
「それは……そうだけど……」
「それに、天使と人間のハーフってことは、ネピも人間と子供を成せるんだ、なんか問題あんのか?」
「そうだ、君の言っていた、自分の家を持って、自分の家族と一緒に暮らす夢は叶えられるだろ?」
「一緒に……いていいの?」
「というか、むしろ天使と人間のハーフってかっこよすぎじゃねえか?」
ミオリアは高いテンションでネフィリにそう返した。
「うん、ミオリア……君と……出会えて良かった」
ネフィリはにっこりと明るい笑顔を取り戻した。
「ところで、ネフィリ、一点だけ気になっていたことがあるんだが、十三日も同じ場所に留まっていて大丈夫なのか?」
「ふふん、ちょっとだけお父さんの能力を使いこなせるようになったのさ!」
「それは良かったじゃないか!」
エレインは嬉しそうにネフィリの腕を掴んで心の底から喜んだ。
「大天使リツフェルの力、これは呪いじゃなくて、お父さんが死ぬ前にボクにくれた贈り物だったんだ……だからこの力を必ずボクは復活させるんだ」
「えっ、復活?」
エレインはネフィリの言葉を反芻した。
「うん、この力どうやら封印されているみたいなんだ」
「ネピ……君には聞きたいことが山ほどできたよ。一番は――」
エレインは言葉を放つ前に、一呼吸置いた。
「一体何歳なんだ?」
今夜は長くなりそうだなとミオリアはため息をつきながら、嬉しそうに笑っている天使と魔術師を見守っていた。
「女子にそれを聞くのは失礼なんじゃないかな、ボクはがっかりだよ?」
「いやぁ、しかし、シーエム、恐ろしく弱かったな」
「ああ、この程度で我々を捕らえようとしていたとは舐められたものだな」
エレインは余裕綽々な表情でベッドに寝転がった。
「そうだねー」
ネフィリは気怠そうにベッドに寝転がっている。
「しかし、あいつらの目的はなんだろうな?」
ミオリアは道中も何度も呟いたことを改めて言う。
「まるでわからない、そもそも狙いはどちら何だろうな、ネフィリはどう思う?」
「今更そんなこと口にする必要はないよ」
いつになくネフィリは不機嫌だった。
「そうか……」
「じゃあ、ボクはお出かけしてくるよ、この部屋にも飽き飽きだ」
「おう、気を付けてな」
ミオリアは軽く手を振ると、ネフィリは起き上がって、部屋を後にした。
あの状態のネフィリはニトログリセリンのようにちょっとしたことで怒りを爆発させるため残された二人は静かに見送った。
「アイツ、不機嫌だな」
「何かあったのだろうか、原因は今日の昼食だろうか?」
エレインは顎を右手に乗せて黙考した。
「なんか俺やった?」
「さて、今回はなんとも……」
「わからねえなぁ」
「さて、ウィズアウトについて、現状わかっている情報を精査したい、議事を書く用意をする」
「わかった」
今回はアクバ王の勅命であるため報告書を作成する義務がある。会議や旅の軌跡を残すために定期的に会議を行う。今日の議事録の担当はネフィリだったが、どこかに行ってしまったためエレインが担当することになった。
エレインは鉛筆と羊皮紙を取り出し、記録の準備を完了する。
「ちょっと筆慣らしをしたいからいくつか質問をする」
「オッケー」
「今日の日付は?」
「えっと……ヘロットテリトリーを出たのが六月九日で、ここまで来るのに三日かけたから六月十二日だ」
エレインはミオリアの言葉に合わせながら鉛筆を走らせていく。
「大丈夫そうだな、では本題に入る。まず我々は五月二十五日にダブルピーと初遭遇し、能力によってミオリアが支配された。私とネフィリはミオリアが人質にある状態であるため、ダブルピーの言いなりとなった。ミオリアは王城に帰還し、アジサイと連携して捕虜となった私とネフィリを救助した。そして五月二十八日、暴徒化したヴェスピーア市民を鎮圧、ダブルピーを殺害した。この間にアジサイは敵の情報を入手しヘロットテリトリーにウィズアウトがいることを報告し、最大戦力の一角である我々のチームが対処になった」
現状までの経緯をエレインは簡潔に説明した。
「六月九日にヘロットテリトリーに到着し、シーエムと遭遇、即日討伐し、ワイルドコート商会に依頼しウィズアウトの情報を入手しエリュシオンテにウィズアウトのケーシーがいると情報を得て討伐に向かった。そして三日かけてエリュシオンテに到着で現在に至る」
「概ねの情報はこれで全てか」
エレインはテーブルの上にある羊皮紙に鉛筆を滑らせている。
「そうだな、付け加えるならダブルピーの能力は人間の心を掌握し服従させるような感じで、シーエムは取引を行った人間を支配できる能力だったな」
「人間と言ってもある程度、魔力に耐性があれば抵抗できるようだった。私が大丈夫だったことからそうではないかと予想している」
「魔力か……だからアジサイも支配されなかったのか」
「アジサイの魔力は、人間の領域を逸脱している。御伽噺に出て来る四大種族をみているような気分だ」
「そんなにあいつの魔力すごいのか?」
「魔力の強さを決める要素は三つあると昔説明したことがあるな」
「なんだっけ?」
ミオリアは記憶にありませんと言わんばかりの顔をした。
「……魔力生成能力、魔力貯蓄能力、魔力感応能力この三つだ。生成能力が高ければ、魔力が空になってから回復するまでの速度が早いと言うこと。魔力貯蓄能力が高ければ、一度に巨大な魔術を発動したり連続で魔術を発動することが出来る。魔力変感応力が高ければより多くの種類の魔術を行使できる。要は各種魔術との相性だ。私なら氷結系魔術への感応能力が高い。といったものだ」
「アジサイはその三つがずば抜けて高いと?」
「まず生成能力に関してアジサイは一般人よりちょっと強い程度だろう。魔道騎士を輩出しているアタラクシア学院ならポンコツ劣等生だ」
「酷い言われよう」
「だがあいつには装具がある、あれは能力を発動すると魔力が大量生成されるという代物だ。肉体への負荷を度外視していいなら、魔力生成能力は魔道騎士たちの中でもトップクラスだ。通常の人間なら魔力生成が自身の魔力許容量を超える前に生成がストップするが、装具にはそれがないため肉体が魔力に耐えられず崩壊していく」
「それじゃあ、あいつは装具を使い過ぎたら魔術を使ってガス抜きしないとまずいのか」
エレインは首を縦に振った。
「次に魔力貯蓄量、これに関しては、人間の領域から出てしまっている。神獣と同じレベルだ。神性持ちだからな。わかりやすく言えば、私の貯蓄限界がコップならあいつは湖だ」
「はえー、やべえやつだな」
「そして最後に魔術感応能力、アジサイはかなり特殊で、通常時は全ての魔術に対して弱い感応力しかないが、発動している装具によってこの感応が変化する」
「あー、うーん、あいつらしいな」
「ただ、本人には伝えていない」
「どうして?」
「不確定な要素が多すぎるし、ちょっと引っかかるところがあって、すまない今は確証がないから言えない」
「そっか」
「アジサイの総合評価は状況次第では懐刀と渡り合えると思う」
「じゃあ、ジークは?」
「竜狩りか……あいつは、なにをしたらああなるんだ?」
「え、どういうこと?」
「ジークが一人で戦っている竜はいずれも神獣クラスの化け物なんだ。それを単独で、しかもこの二か月で三体も倒している。とてもじゃないが人間が成し得るなんて……」
「あいつのスキルもやばいからなぁ」
アルスマグナの分魂は竜の中でもトップクラスの強さを誇っている。イシュバルデ王国の国力を二割も消費して初めて分魂を一体倒すことができるレベルの相手をこの二か月でジークは三頭倒していることになる。
「あれはまるで生物殺すために生まれたようなもの、それに竜を倒すたびに力を向上するらしいな……本気を出したあれを倒すことができるのだろうか……?」
エレインはジークが仲間であったことを心底よかったと思う表情だった。
「んでも、仲間だし、目つきはあれだが、良い奴だよ」
「ああ、本当に、それだけが救いだ」
「しかし、俺の後輩たちがあんなに強くなっているとは思わなかった」
ミオリアは嬉しそうに笑った。
「アジサイに関しては魔術をもっと修得してほしいところだが、教えるにしても人間的な部分でちょっとな、だが良い魔術師になるに違いない」
エレインもミオリアにつられて頬を緩ませた。
「さて、話がいいところでまとまったところで、ウィズアウトの目的についてだ」
「話が脱線しまくっていたな」
「ああ、まったくだ」
「ウィズアウトかぁ……あいつらの能力は危険だな」
「今わかっているだけで、人心掌握に取引した人間の支配……もしも人間をどうにかする能力だった場合、これからも犠牲者がたくさん出るな……」
「どうやら俺はウィズアウトに無力っぽいし、おそらく懐刀でもレオニクス、グーラントもアウトだろうなぁ」
「ああ、だから私とネフィリが撃破するのが安定だろう」
「あとはアジサイか……国土調査もいいが、こっちの方が重要じゃねえか?」
と言っても、各領土と領主に直接接触して 内情を探るという点に対してアジサイの行動は口実として最高であるため、アジサイの判断を否定はできなかった。ただ戦力と考えた時、アジサイがいればミオリアはもっと楽に戦闘ができたというボヤキである。
「アジサイもアンタレスと一緒に領土を調査しながらウィズアウトを調査している、文句を言うな」
「はいよー」
気怠そうにミオリアは返事をする。
「あまり気を抜くな、既にケーシーのテリトリーにいるんだ。いつ襲撃されるかわからない」
「それはそうだけど、こうも平和だと、ついつい緩むよなぁ、旅疲れもあるし」
窓からは花の都と比喩されるエリュシオンテの街道が一望で来た。その光景は今にも甘い香りが届きそうなほどだった。
「気持ちはわかるが……」
「それにエレインはウィズアウトの能力が効かないっぽいし、俺は大丈夫だろ」
「その言い方は卑怯だ……」
見事にミオリアは、エレインの惚れた弱みを逆手に取った発言をした。
学者肌で、恋愛に疎かったエレインにとってこの一言は破壊力が大きいようだ。
「はぁ、イチャイチャしているところ申し訳ないけど」
ネフィリがドアの前に立っていた。
「お、おかえり」
エレインは頬を赤らめながらネフィリにそう言い返した。
「あのさ……今日は何日?」
ネフィリは不機嫌な表情のまま、ミオリアに目を合わせた。
「え、六月十二日」
「はぁ……」
ネフィリは露骨に呆れた表情と落胆のため息をついた。
「それがどうしたんだ?」
「今日は六月二十五日だよ……」
ネフィリは呆れた表情をそのままにミオリア達にそう告げた。
「どういうことだ?」
「ついでにいうとケーシーも倒してるよ」
「えっ! どういうことだ?」
「はぁ……まぁ、仕方ないか……」
ネフィリはドアの前からミオリア達の近くに寄ると話を続けた。
「私たちになにがあったと言うのだ?」
エレインは困惑した表情で、ネフィリを問いただす。
「まず、ケーシーの能力は人間の記憶を奪い取る能力。つまり、エレインとミオリアは十三日分の記憶をケーシーに奪い取られているの」
「十三日分の記憶が?」
「そしたらなんで、ネフィリは大丈夫なんだ?」
「それは、ウィズアウトの目的とも重なるけど、その前提になる話を先にするよ。ウィズアウトはそもそも、天使族が作ったホムンクルスなんだけど、こいつらに天使がちょっぴり権能を与えたのをやつがウィズアウト。天使たちはある目的を果たすためにエルシェルに派遣したんだ」
エルシェルとはこの世界のことでミオリア達の居た世界でいう地球に等しい。
「ある目的って?」
ミオリアが首を傾げながらネフィリに聞く。
「ウィズアウトの目的は私を捕まえること、『クタナー・ネフィリ=クリゴーリ』を捕まえろって指令……」
ネフィリは憂鬱そうな表情になっていた。
「私は……人間じゃないから」
押し殺した表情でネフィリは声を絞り出す。
「私ね……天使族と人間のハーフなんだって……お父さんの名前はリツフェル……」
エレインの表情が硬直した。
「リツフェル……そんな……ネピ……冗談は――」
リツフェル、かつて四大種族が戦争したという御伽噺に登場する人間側付いた裏切りの天使の名前である。
「冗談じゃないんだ、現に今もお父さんの力がこうして……」
ネフィリは上着を脱ぐと、目を閉じて意識を集中させた。
六枚の白い羽を展開させた。天使の翼と言うのが当てはまる美しい羽だった。
「ケーシーと戦っているときに発現したんだ……ボク……人間じゃ……なくて化け物なんだ」
「絶句したでしょ?」
人間でないことを悟ったネフィリは、もうミオリアたちのそばにいれないと覚悟した上でカミングアウトした。
「めっちゃかっこいいなそれ」
「ああ、天使の翼を初めてみたがこんなに美しいのか……」
興味津々でエレインとミオリア達は顔を近づけてまじまじと見つめた。
「え、いや、話聞いてた? ボク人間じゃないんだよ……」
「それがどうした? ネピは俺のパートナーに変わりないだろ?」
「それは……そうだけど……」
「それに、天使と人間のハーフってことは、ネピも人間と子供を成せるんだ、なんか問題あんのか?」
「そうだ、君の言っていた、自分の家を持って、自分の家族と一緒に暮らす夢は叶えられるだろ?」
「一緒に……いていいの?」
「というか、むしろ天使と人間のハーフってかっこよすぎじゃねえか?」
ミオリアは高いテンションでネフィリにそう返した。
「うん、ミオリア……君と……出会えて良かった」
ネフィリはにっこりと明るい笑顔を取り戻した。
「ところで、ネフィリ、一点だけ気になっていたことがあるんだが、十三日も同じ場所に留まっていて大丈夫なのか?」
「ふふん、ちょっとだけお父さんの能力を使いこなせるようになったのさ!」
「それは良かったじゃないか!」
エレインは嬉しそうにネフィリの腕を掴んで心の底から喜んだ。
「大天使リツフェルの力、これは呪いじゃなくて、お父さんが死ぬ前にボクにくれた贈り物だったんだ……だからこの力を必ずボクは復活させるんだ」
「えっ、復活?」
エレインはネフィリの言葉を反芻した。
「うん、この力どうやら封印されているみたいなんだ」
「ネピ……君には聞きたいことが山ほどできたよ。一番は――」
エレインは言葉を放つ前に、一呼吸置いた。
「一体何歳なんだ?」
今夜は長くなりそうだなとミオリアはため息をつきながら、嬉しそうに笑っている天使と魔術師を見守っていた。
「女子にそれを聞くのは失礼なんじゃないかな、ボクはがっかりだよ?」
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