この異世界は理不尽で残酷で儚く、そして竜を狩り、国を護り、獣が吠えた。

白井伊詩

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竜ノ11話「誰がための力」

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「これをこうして、鞘を引きながら太刀を前に抜く感じだな」

 アジサイは闘技場でジークに剣術を教える。

「こうか?」
「うん……」

 先ほどから全ての挙動を完全再現するジークを横目にアジサイはため息をついた。
どうやらこれがスキルの差なのかとジークは内心で呟く。

「なるほど」
「そういやジーク、三所隠しやってるけど、使い方間違えない方がいい」
「ああ、そうなのか」
「うん、あの構えは胴体がら空きになるから、状況によって危ないんだよね。基本は中段に構えるのがいいかな……まぁ、実際にやってみせた方がいいな」
 
 アジサイはジークに大太刀を返すと、お手製の木刀を構える。

「構えて」
「おう」
 
 お互いに切っ先を向けて中段に構える。

「やっと剣術っぽくなってきたな」
「扱いに気を付けろよ、教える技術は殺す技術だからね。じゃあ、続けるか、そっちが打太刀でいいよ」

 ジークは目の色を変えて、まっすぐ刀で突きを放つ。
 鋭い一撃をアジサイに放つがアジサイに刃は掠りもしない。

「もういっちょ」
「おう!」

 ジークはあの手この手でアジサイを切りつけるが、鉄で作られた刀が木刀すら断ち切れていない、良くても少し削れるだけだった。


「なんで当たらねえんだ……」

 ジークは構えながら首を傾げた。

「じゃあ、交代ね、そっちが仕太刀、こっちが打太刀ね」

 ジークは頷いて、中段に構え直す。
 
 
 アジサイはニコニコしている。
 三十秒ほどお互いが構え続けている状態が続いた。
 ジークが息を吐こうとした瞬間、アジサイが木刀でジークの大太刀を巻き上げた。
 大太刀は空中くるくると回りながら、地面に落ちる。
 あっけらかんとしている喉元に木刀の切っ先がこつんと触れた。

「打ちまくるのも戦略だけど、芸がないってやつよ」
「くっそぉ、気を抜いた瞬間やるのかよ」
「お前のその目が発動していたら普通にやっても勝ち目はねえよ」

 アジサイは嗤いながら言うと大太刀を拾い上げてジークに渡す。

「巻き上げっていう技で、相手が気を抜いた時にやると案外すっぽり取れるんだ。あとは煮るなり焼くなりよ」
「巻き上げかぁ……」
「真似しなくていいから、実戦じゃあんまり使えないし、俺が教えたいのは呼吸を意識するところだな」
「呼吸?」

 ジークは首を傾げた。

「せやで、人間は息を吐くとき、動けなくなるんだよね、筋肉の動きと関係していると思うんだけど詳しくはわからない、呼吸の隙をつけば、勝率が上がるな、更に言えばこっちの呼吸の動作を悟られなければ相手は攻撃しにくくなる」
「へえ、なるほどな」
「あと、さっきジークが打ち込んで来ていた時、ジークの剣線が体の中心からずらされていたのがわかったか?」
「言われてみると……」

 ほんのわずかにジークの大太刀の切っ先はアジサイによってずらされていたことを改めて思い出す。

「切っ先の角度が何度かずれるだけで剣が最終的に到達する位置っていうのが何十センチもずれてしまうんだ。だから俺はジークの攻撃が当たらないけど当てられる」
「ああ、だからさっきから当たらねえのか」

 アジサイは頷いた。
 遠くの方で鐘が鳴った、昼飯の合図だ。

「さてと、そろそろ昼飯だし最後にちょっとやって、戻るか」


 二時間ほどの稽古が終わると、アジサイとジークはシャワーを浴び、昼食を食べるために食堂へ向かった。食堂は騎士や兵士が食事に我先にと混雑してしまうためジークたちは一通りの波が終わったあとに食堂へ向かう。
ジークとアジサイは午後もこれと言ってやることがないためのんびりも食事ができるというのもある。

食堂に向かうと、人は少なくなってはいるものの何人かが食事をしている。早朝の警備業務が終わってその日の仕事が終わった者たちのようだ。
それらを横目に、アジサイとジークは、マッシュポテトに豚肉をトマトソースで煮込んだものを渡されると、ジーク達は適当に長いテーブルの一角に腰かけた。

「はぁ……」

 アジサイはため息をついた。

「どうした?」

 ジークはため息の原因を探る。

「和食が食いてえ」

 アジサイはスプーンを握り締めて切実に言う。

「それなぁ、流石に毎日毎日、こうも洋食が続くと流石に堪えるな」
「味噌汁と白米、それに冷奴が食いてえ!」
「やめろアジサイ、俺まで和食が食いたくなる」
「……ああ、そうだな……なんか違う話題……」

 アジサイはマッシュポテトを噛みながら首を捻る。

「あ、そういや、アジサイ、武器はどうするんだ?」
「ああ、そうだな、装具だけだと今はちょっときついし、神性侵食がいつ起こるかわからねえしな、なんかありゃいいんだけどな」
「午後は武器探しにでもいくか?」
「そうするか、とりあえず闘技場にある武器庫を当たってみるか」

 倉庫にある武器は自由に持って行っていいと既に許可は貰っている。

「武器庫か、いいな、行ってみよう」

 午後の予定が決まると、二人は食事をそそくさと終わらせる。

 
「ここが武器庫か」
「なんか思った以上に……」

 埃まみれで数年くらい放置されているような状態だった。
 それもそうである、現在このイシュバルデ王国の兵力の九割九分が魔道騎士である。魔術で剣や槍などの武器を作り、魔術で攻撃する。つまるところ、武器も防具も必要なく、必要に迫られればその場で魔力を操り解決する高機動部隊なのである。
 武器も防具も持たず、一般人に紛れ込むこむことも容易である。もはや門番や衛兵が付けている防具は制服のような扱いでしかない。

「どれもこれもさび付いて、使えなさそうだな」

 ジークはがさ入れしながら武器庫を漁る。

「だなぁ、んでも、錆は表面だけだな」

 アジサイはまじまじと錆びた武器を眺めて言う。

「にしても、こりゃあ酷でえな、赤錆まみれだ」

 アジサイは埃を息で吹飛ばして赤錆た武器たちを悲しむ。

「そういや、話は変わるけど」

 アジサイが話題を変える。

「どうした?」
「アルスマグナさんと出来ているのかなって」

 アジサイはいたずらに聞く。

「んっ、それは……まだ」
「ふーん、そうかそうか、てっきり、結構、行くところまで行ったのかなと」
「どこまでだと思ってたんだ?」

「そりゃあもうセッ――」

「やめろ馬鹿!」
「失敬失敬、いや、アルスマグナさんジークとべったりしてるからてっきりな」
「そっちはそういどうなんだよ、アンタレスだったっけ?」
「あー、ヨボヨボの婆さんだったよ」
「あー、婆さんだったか、なんかノリ的にそこは金髪巨乳の美人さんなのかと思ったんだけどな」
「そんな都合のいい……ことはねえよ」
「お? なんか怪しいな」
「はっはっは、そんなに甘くねえよ」
「それもそうか」

 ジークはアジサイの話を信用した。

「そういや先輩は何やってるんだ?」
「ネフィリさんとショッピングだってさ。今朝、エレインさんがいかめしい表情で言ってたよ」
「両手に華も考え物だな」

 ジークは肩を竦めた。

「全くだな、ショッピングねぇ……城下町か?」
「いや、それがヴェシピーアっていう都市だってさ、ここから結構離れているらしい」
「ずいぶん遠いな、エレインさんが不機嫌なのも頷ける」
「エレインさんのところ行ったのか」

 ジークは少し驚いた顔でアジサイを見た後、視線を戻し錆びにまみれ武器の埃を払う。

「ああ、ちょっと用があってな、午後に出直してくれって言われたよ。これが終わったら行く予定だ」
「用ってのは?」
「実は、二つ目の装具が見つかった」
「おお、良かったな、どんな能力なんだ?」
「論装『怜青れんせい』って言うんだが、わかりやすく言えば計測器だな」
「計測?」
「俺が把握しているだけでも、温度、電流電圧、磁束、赤外線、照度、材質、時間だな、それに付随するデータもある」
「クソ強いな」 
「そのはずなんだが、データが膨大過ぎて脳みそがパンクして鼻血が出たわ」
「人間側の問題か」
「計測されたデータと脳みそを直結させているようなもんだからな、一瞬で処理がパンクする」
「難儀だなぁ」
「そして、一番の問題がこれだ」

 アジサイは装具を展開しジャケットを羽織る。それから胸ポケットに左手を入れると、拳銃を取り出した。

「お前、それって!」
「グロック17……拳銃だ」
「マジかよ、撃てるんだよな?」
「それが、弾は無く、自分で作るしかねえみたいだ」
「ああ、だからエレインさんのところに」
「その通り、だけど多忙で門前払いよ」
「あちゃー」
「現状じゃ十分な弾薬も作れねえし、他に武器がいる」
「それもそうだな、おっと!」

 ジークは雑に武器を引っこ抜こうとした罰が当たったのか、錆びたハルバードが倒れてきた。

「いってぇ」
「大丈夫!?」
「大丈夫だ」

 ジークは肩に刺さった斧を引き抜く、傷は即座に回復する。

「服が台無しだな」
「ああ、クソ、せっかく買ったのに」
「まぁ、あとでメイドさんに頼んで直してもらおう」
「そうだな」

 アジサイはジークの血の付いハルバードを手に取る。

「これは……」

 アジサイは目を丸くした。

「どうした?」

「こいつ、おそらく日本人が作ったものだ」

「えっ!」

 アジサイは長い柄に湾曲した長方形の斧に加えて、先端には鋭い刺突用の直槍のような刃が付けられている。全体は赤錆がこびりついており、柄はボロボロに風化していた。

「斧の部分をよく見て、錆びていてわかりにくいが表には三本の溝、裏には四本の溝がある。これは日本独特の文化だ」 
「マジか、ということは」
「過去、ここには俺らと同じように誰かが来ている可能性がある」
「確かに、この世界、SI単位系が使われているしひょっとしてとは思ったんだよな」
「おっと、そっちもマジかよ」
「ああ、マジだ」
「こりゃあ、可能性が濃厚だな、にしてもこれだけ単位や、魔術とかあるのにテクノロジーが紀元前のヨーロッパレベルなんだよな、なんか歴史が浅いなぁ」

 アジサイは冗談交じりに言った。ジークもそう感じることは度々あったが口に出すほどのことでもなかった。
 
「まぁいいや、日本の好だ。こいつを使おうかな、武器としても威圧的だし」
「しかし、錆びまみれだな、治せるのか?」
「やすりと砥石があればなんとかなるかな、とりあえずエレインのところ行こうか、あそこガチでなんでもあるからな」
 
 錆びたハルバードを持ってアジサイたちは武器庫を出た。
 闘技場が賑わっていた。どうやら魔道騎士が魔術の訓練を始めているらしい。

「おお、やっているな、邪魔しないうちに出るか」

 アジサイは興味津々に魔道騎士の訓練を眺めていた。

「それもそうだな、あっちは仕事だし」

 魔道騎士は剣や手から、風や炎、雷、氷などを巧みに操っていた。

「うーん」
「どうした?」
「あー、いやなんだろう、魔術に意識が持ってかれていそうだなって」
「魔道騎士だもんな」

 ジークは当たり前のことを返す。

「せやなぁ」

 アジサイは暢気に答える。

「そこのお前っ!」

「怒られているみたいだな、縦社会はこれだから辛いぜ」
「いや、アジサイ、お前が呼ばれているぞ」

 ジークは小声でアジサイに耳打ちした。
 アジサイはハッとしながら声の主へと向かった。ジークも暇つぶしがてらついて行く。

「なんでしょうか?」
「お前、アジサイだな?」

 魔道騎士たちがぞろぞろ集まり始める。
 
「えーっと、どちら様でしたっけ?」
「エリュール・タンドレッサ、階級は騎士、アンタレス様の護衛任務を本来受けるはずだった魔道騎士だ」

 兜を外すと、精悍な顔つきでいかにもやりそうな男がいた。

「改めまして、アジサイと申します」

 アジサイは握手するべく右手を差し出した。
 タンドレッサはアジサイの右手を突っぱねた。

「馴れ馴れしくするな」

 タンドレッサは眉間に皺を寄せた。

「これは失礼しました。我々の文化では親愛と敬意を握手で示すもので、そちらの文化に無知であることをお許しください」

 心にもないことをいいやがって。とジークはほくそ笑む。

「以後気を付けたまえ」
「以後、肝に銘じておきます。して、私のような下郎に一体、何用でしょうか?」
「私はお前がアンタレス様の守護に向いていないと思っている」
「役職を代われと言う事でしょうか?」

 アジサイは笑顔を顔に張り付けている。ジークは気味悪がりながら会話を見る。

「話が早くて助かる。だがそれでは意味がない、私こそが守護者として価値があると証明しなければならない。故に決闘を申し込む」
「……少し考える時間をもらえないでしょうか?」

 アジサイは顔を引きつらせて困った表情になる。ジークはそれが演技であることを見抜いている。
 ジークは少し考える。アジサイが全力で戦うところが想像つかないからである。少し遊び心がくすぐられた。

「アジサイ、やったらいいじゃねえか、どうせすぐ終わるだろ?」

 ジークはアジサイの背中を言葉という刃物で刺した。

「竜狩り殿もそう思われるか」
「俺はただアジサイの実力が見たいだけだ」

 それを聞いたアジサイはため息をついた。

「それじゃあ、勝負の方法は?」

 投げやりになりアジサイの言葉遣いが悪くなる。

「一騎打ちで、魔力装甲が消滅したら敗北ということでどうだろうか?」
「魔力装甲?」
「ダメージを吸収してくる魔術で、痛みはあるが怪我ない安全な決闘だ」

 アジサイは頷いて了承した。

「今からでもいいんだが……来週なら完全に準備が整うのですが」

 アジサイが提案する。

「来週の日曜日、今日含めて、四日後だ」

 それに了承し、アジサイたちは解放された。






「だぁクソめんどくせえことになったなおい」
「ハッハッハナンノコトカナー」
「クッソ、はぁ……武器もこれだぞ、装具を使ったらどうなるかわからねえしな」
「素で強いから大丈夫だろ、しかしアジサイ、期間を開けようとした理由は?」
「まず、武器が完成していない。その次に神性がまだ安定ラインまで行ってないみたいでエレインに治療と言う名の魔力実験をしなきゃいけないってのと、エレインさんから魔術を少し教えてもらう、付け焼刃だが準備しときたい」

 アジサイは指を折りながらやることを列挙した。

「なんか普通だな」

「うるさいやい」

 そんな会話をしながら魔術研究所エレインラボへ到着する。
 三度扉をノックし、扉を開ける。

「来たか、ずいぶん遅かったじゃないか」

 エレインは数枚の書類を整理しながらそう呟いた。

「うへぇ、今朝は山積みだった書類が消えてやがる」

 アジサイは軽口を叩いた。

「これでも天才と言われている、伊達ではないということだ」

 エレインは立ち上がると杖を持った。

「む、それは?」

 アジサイの持つハルバードを見てエレインが訝しんだ。

「ああ、これね、こいつは、武器庫で運命的な出会いをしたから貰ってきた」
「ふむ、これは……エンチャントか」
「エンチャント?」
「武器に魔力を帯びさせることで特性を表すもので、この杖もそうだ」
「へえ、んでもなんで武器庫にあったんだろうな」
「厳密に言えばこれはエンチャントする前のひな型が掘り込まれているだけに過ぎない。この状態では、ただの武器と同じだ。しかもこんなにさび付いて……勿体無い、そうだ、私が道具を貸そう」

 エレインは作業机を指さした。机にはやすりや砥石、あらゆる道具が備えられていた。

「へえ、てっきり魔力で動かす機械とかあるのかと思ったけど意外と原始的なんだな」
「もちろん魔工機器などもあるが、それで加工された物はわずかに魔力の残滓が残る。魔術の研究ではそれらが誤差として実験に現れてしまう。そこで古い魔術に頼らない技法が研究所ではメインに使われている。鍛冶師も王城以外を除いて殆どが魔力を使ったちょっと技術をつければ誰でも出来る仕事になってしまった」

 エレインは愚痴を言う。

「さて、その獲物はここに置いていくといい、実験場では不要な物だからな」

 エレインの指示に従いハルバードを置くと、エレインに案内されながらついて行った。当然ジークも興味があるため見学するために二人について行く。
 
 
「わぁ、めっちゃ広い」

 東京ドーム十個分というアナウンスが聞こえてきそうな広さだ、王城から出たすぐそこにそれはあった。
 ただひたすら荒れた平地が永遠続いている。

「二十キロはこの平地が続いている。投擲魔術などの研究もあるからな、最大でも八百メートルが限界だが、安全のためにマージンを取っている」

「じゃあ始めようか」

 エレインが白衣を着て準備をする。アジサイは怪しげな端子につながれている。繋がれている先は地面である。

「何始めるんですか?」
「土から宝石を生み出す。理屈が正しければアジサイの魔力と神性で事足りるはずだ」

 魔術を起動させると、魔法陣を象った薄い金の板を地面に敷き端子を接続する。

「これを起動するとアジサイの魔力を吸い取る。では、始める」
「うっす」

 エレインが魔術を起動すると、アジサイの神性が吸収され始める。

「おお、なんかすげえ吸われる感覚がやばい」

「具体的に言うと50000 mgc / secで吸収している。1 mgcが1mm×1mm×1mmのピュアクリスタルに充填できる魔力量のことだ」
「どのぐらいかわからねえな」

 アジサイはその場に座って楽な姿勢になる。

「そうだな、1000 J = 1 mgcだ」

 エレインが作業しながら言う。

「結構やべえな」

 アジサイは驚いた。

「おおよそ50 MJを毎秒吸いだしているのか……そりゃあ神の性質と言われるわけだ」

 ジークは暗算した結果をつぶやく

「ちなみに神性の定義は50000 mgc / h の魔力量だ」
「ということは通常の3600倍の速度で吸われているのか」

 ジークは顔をしかめた。

 それから二十分ぐらいするとエレインが端子を外して実験を終えた。

「もういいのか?」

 アジサイは余裕そうな表情をしている。

「あまり一気に魔力を吸い出し過ぎると貧血に似た症状が出るためこれくらいにしよう。訓練も行うため実験は少しづつ行う」

 アジサイは「わかった」と頷いて繋がれていた端子を外す。

「二十分だから1200 sec × 4 MJ = 4800 MJ か……1カロリーが4.18 J だから約1150×E9 か……やべえなおい」
「魔術が軍事利用される理由がわかったみたいだな」
 
 エレインは不服そうだった。自分の好きなもので人が死ぬのだから当然か、とジークは思った。


「ではアジサイ、体調に問題なければ今ここで早速、魔術の訓練を始めたい」
「あい、わかりました」

 アジサイは立ち上がる。

『ジークさん、ちょっとよろしいでしょうか?』

 ジークの頭の中でアルスマグナが直接語り掛ける。これも魔術の一種である。

『どうした?』
『第三の竜が見つかりました。すぐ戻っていただきたいのですがよろしいでしょうか?』
『わかったすぐ行く』

 アルスマグナに意思を伝えると会話をやめる。

「わりい、ちょっと用事で来たから戻るわ」

 アジサイとエレインは頷いてジークを見送った。



 ジークが戻るとアルスマグナが椅子に腰かけて、窓から外を眺めていた。

「お疲れさまです」

 アルスマグナは悲しそうな顔だった。

「ああ、ただいま」
「先ほど、三体目の分魂を感知いたしました」
「場所は?」
「ニンギルレスト、イシュバルデ王国でもっとも北の大地です。長い旅になると思います。ミオリア様やアジサイ様としばらく会えないでしょう」

 アルスマグナは申し訳なさそうに言う。

「大丈夫だ、行こう」

 ジークは優しい声音でアルスマグナに言った。

「優しいのですね……私は……」

 アルスマグナは泣きそうな表情になる。

「どうしたんだ?」
 
「竜狩りをし続けた者の末路をご存知ですか?」

 アルスマグナは重々しく言う。
 
「竜を殺すということは竜に呪われるということ、貴方は既に三頭の竜を殺してしまった。つまり三頭の竜があなたを呪っているということです。あの黄色い瞳もまた呪いのひとつです。戦禍に飲まれる呪い、死ぬまで戦い続ける呪いなのです。それを私は……」

 感情を取り戻した彼女は近頃情緒が安定しなかった原因はこのことだろう。


「なんだ、そんなことか」
 

 ジークは一蹴した。


「いいぜ、死ぬまで戦ってやる」


 アルスマグナは目を大きく見開いてから、俯いた。それから顔を上げると、泣きながら笑った。


「竜狩りジーク、あなたの御傍にずっといさせてください」


 ジークは告白された。
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