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二章 向き合う覚悟
13 迫る闇、払う光
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――遺体安置室
それは死者を弔うため悪魔の嫌う百合の花を添え、死者の体を得るためにやってくるという魂だけの魔物……スピリットと呼ばれるそれらを跳ね退けるよう冷たい石の棺には神聖魔法が掛けられていた。
しかし、この惨状はどうだ。今や厳粛な雰囲気に包まれ、死者の尊厳を護らんとする場は白の壁を聖騎士団達の血で汚し、さらに死体は重い石の棺を押し上げ動き出したかと思えば人へと牙を剥いてくる有様だった。マットが駆け付けた時には、既に辺りは血の臭いに満ちていた。
そこから数こそ減らしはしたものの、状況は一変してしまった――
(なんだこれは……!)
マットは自分の目の前に居る存在を信じられない気持ちで見ていた。そこに居るのは、一匹の人の骨格を残した狼――人狼である。しかし問題はただの人狼ではない事、その存在が元は死んだはずの女、ナーシャ・ヒュイだった事だ。
(……だが奴の体から魔素が見当たらない)
ただの遺体の一つから突如として巨大な狼へと変貌したナーシャは、その異質な瞳……金色と赤が半分ずつ彩られた目でマットを見ては舌なめずりした。襲いかかる気配はないが、涎を零している様子を見てマットは嫌悪感に眉をしかめる。どういう訳か、周りの蘇った死体たちもつい先ほどまでの獰猛さは控え、襲いかかっては来なくなっていた。
自分の持っている盾は白銀の光沢に混じり相手の姿を映し、辺りの血もそのままだ。そして、自分の鼻の上に乗っているはずの眼鏡もそのままだった。そこまで確認してマットは顔を上げた。
(少なくとも、奴らは幻影ではない。そして、こちらが魔素を探知できる手段も失った訳ではない)
再び目の前の動く遺体――リビングデッドに囲まれている人狼を睨む。
「マットさん……!」
そんな中、不安げな声に自分を呼ぶ声にマットは警戒を解かないまま後ろを確認した。負傷者は全部で三人、傷は腹部や腕や足と複数個所に及び、簡単に動けそうにはない。内一人は怪我を負っていなかったため救援を呼ぶように逃がした。もう一人は手当てのためと残っていたがに残っていたが、回復が追い付かない――そう悟っているのか、その表情には焦りと不安が浮き出ていた。
「大丈夫だ、そのままお前は回復に充てていろ。俺がなんとかする」
「はっ……はいッ!」
声を震わせずに叱咤をするマットの言葉に多少は安心したのか、兵士は再び手に力を籠めて回復魔法をかけ続けた。淡い光が傷に触れていくが、傷の塞がりは遅い。傷にかざしている手は緊張からか恐怖からか、震えが止まる気配はなかった。
そこまで見た上でマットは目の前の存在へと向き直った。何がおかしいのか、人狼は狼の顔でも分かるくらいに底意地の悪い笑みを浮かべていた。その、人を卑下するような笑みにマットは不快さを覚える。
「何がおかしい」
「惨めに転がってる存在なんて放っておいていいじゃないの、あなたと比べたら価値なんかないわ」
つい出していた言葉に返答があると思わず、一瞬マットは驚きこそしたもののならばと言葉と続けた。相手がどういう存在かは不明だが、時間稼ぎに話し続けていれば救援が間に合うかもしれない。
見た目は狼とも人とも取れない、上半身だけが膨張し醜悪にも思える姿にも関わらず、意外にもその口から出たのは言葉を舌で転がすような、明らかに場違いな女の艶めいた甘ったるい声だった。
「ねぇ、マット」
己の名前を口の中で転がした後、品定めでもしているかのような目を向けられる。真意は分からないが、そんな目を向けられても良い気などしない。マットは苛立ったように「黙れ」と吐き捨てた。
「お前に名を呼ばれる筋合いはないぞ。一体どうやって入り込んだかは知らんが、この聖騎士団本部に入り込むなど命知らずにも程がある。攻め落とせるとでも思ったか」
「いやねぇ、攻め落とす気ならあなたが来る前にその子達、全員殺してたわよ」
「ひっ……!」
人狼の言葉に、治療していた兵士が思わずと言った様子で顔を上げた。震え、相手の反応を窺うよう縮こまっている兵士に、人狼は今度こそ声を上げて笑い出す。
「アハハッ――! ねぇ、マット、今の聞いた? ひっ、ですって。そんな臆病さでよく聖騎士団をやれて――」
「大丈夫だ。逃げずに残っている時点でお前はよくやってる。治療を続けろ」
人狼の嘲笑混じりの言葉を遮り、マットが声を掛けた。そして、一歩踏み込む。剣先を構え、銅色の双眸はこれから切り裂く相手を見据える。その目に対して、人狼は笑みを引っ込めた。
「もういい。地獄へと落ちろ、死者を弄ぶ外道が」
時間稼ぎを考えては居たが、どうもこのように場をかき乱してくるような――底の読めない相手をこれ以上放置するのは妥当な考えとも思えなかった。覚悟を決め、マットは臨戦態勢に入る。敵意を向けられても人狼は涼しい顔をしていた。
「それは無理な相談だわ――だって、私、死なないもの」
そう鼻で笑い飛ばすと手を挙げる。すると遺体が一斉にマットの方へと襲い掛かって行った。背後で悲鳴が聞こえたが、マットは盾を大きく振り上げると光が盾へ集まり、やがて十字架の形へと変わっていく。
「――<聖なる導き手>!」
すると盾から解き放たれた光が、部屋全体を眩く包み込んだ。人狼は咄嗟に目を閉じ、顔を隠す。だが死者達の体は、焦げるような音と白い煙が立ち上り始め、悶え苦しむように頭を抱えて呻いたかと思えば――ふと力を全て無くしたかのようにその場へと倒れ込んだ。
「あら……」
光が晴れて見えた遺体の山に対し、人狼は意外そうな声を上げるだけで特に慌てふためく様子もなく、むしろ興味深そうに倒れた遺体の腕を持ち上げた。離せば、地面へ落ちる――そんな当たり前な事を確認した人狼は目を細めた。
「あなた――もしかして<聖痕>持ち?」
薄っすらと開いた口から赤く長い舌が尖った牙を舐めた。姿勢を低くし、腕を地へと付け、その姿は得物へと迫る狼そのものだ。再び盾を構え、マットは襲撃へと備えた。
――しかし、一瞬で人狼の顔がマットの目の前へと差し迫っていた。
(なッ――!?)
涎を零した牙が眼前を掠め、間一髪のところで攻撃は避ける事が出来た。その隙に右手に持っていた剣を振るう。態勢を多少反らしながらも放たれた鋭い斬撃を人狼は後ろへ大きく仰け反り、そのまま手を付けると大きく空中へ回りながら回避して見せた。
(……見えなかった!)
「なるほど――印があるのは左手だけなのね」
まだまだ余裕そうに人狼は笑いながら舌を出して見せた。先ほどと同じように駆け出すような体勢へと移る。それに気が付いて今度はマットが地面を蹴った。
「うぉおぉぉっ!!」
剣を振り上げて斬りかかって行こうとするも、人狼はまるで笑うかのように目を細め――またしてもマットの眼前から姿を消した。足音から探ろうにも音が聞こえない。
「ねぇ、人狼の有名な話は知ってるでしょう? 村人の誰かが人狼で、善人をフリをしながら夜を待って、一人ずつ喰らっていく――この場はもはや血で満たされ、死者の屍が転がる闇の舞台……<夜に招かれた者>以外は私の姿なんて見えないのよ」
笑い声混じりの女の声がまるで反響するかのように、部屋のあちこちから聞こえてくる。音を探ろうにも探れず、マットは辺りを見渡した。足音すら聞こえなければ、何かが動く気配もない。纏わりつくような気配に自分でも気が付かず汗が流れた。
(全く何の気配もなく姿を消すだと? 人狼にこんな能力はない――)
「マットさん後ろですっ!!」
沈黙を破るように兵士の叫びに似た声が聞こえ、振り向くと巨大な狼の口がマットの背後から首を狙っていた。
反射的に前に屈む事で躱し、盾が再び十字架の光を浮かべる。人狼に向かってかざしたが人狼は口端を上げて、マットの盾を思い切り蹴飛ばした。ただの蹴りとは思えない衝撃が盾からマットの腕へ、体へと伝わる。
「ぐっ――!」
重い鎧を纏った体が浮き上がったかと思えば飛ばされ、背から落ちて地面へと叩きつけられる。その体を守るはずの鎧が叩きつけられた事で、耳障りなほど激しい音を鳴らした。急いで体を起こそうとするが、握りしめていた盾が不自然に凹んでいるのを見て、マットは舌打ちをして盾を捨て、立ち上がると剣を両手で持ち構え直した。
「今度はもっと良い盾が貰えるといいわねぇ……次があればだけど」
「ほざけっ!」
しかし立て直して睨みつけたが、マットには違和感が残る。終始一貫して人狼の顔には余裕の表情が浮かんでいる。決定打がないのは互いに同じ、さらに――先ほどは最大の攻撃のチャンスだったにも関わらず相手は踏み込む事もせず、後ろに居る兵士達を人質に取る訳でもなく、襲う訳でもなく、笑みを浮かべてこちらを見つめている。
――これではまるで、あちらが時間稼ぎしているようではないか。
「貴様の狙いはなんだ?」
ふと頭に過った疑問が頭を引っ掻き回す……嫌な予感がする。そんな思いからか、口を衝いて出る言葉に、人狼はやはり値踏みするようなそんな視線を向けては狼の顔で笑うだけだった。
「そんな事、あなたが知ってどうなるの? だってもう――」
言葉の最中で人狼の姿が揺らぎ――そして三度消えた。
しかしマットの頬へと何かが流れ、それが頭上から落とされたのに気が付くとその頭目掛けて牙を向け……狼の口が大きく開かれているのが見えた――
それは死者を弔うため悪魔の嫌う百合の花を添え、死者の体を得るためにやってくるという魂だけの魔物……スピリットと呼ばれるそれらを跳ね退けるよう冷たい石の棺には神聖魔法が掛けられていた。
しかし、この惨状はどうだ。今や厳粛な雰囲気に包まれ、死者の尊厳を護らんとする場は白の壁を聖騎士団達の血で汚し、さらに死体は重い石の棺を押し上げ動き出したかと思えば人へと牙を剥いてくる有様だった。マットが駆け付けた時には、既に辺りは血の臭いに満ちていた。
そこから数こそ減らしはしたものの、状況は一変してしまった――
(なんだこれは……!)
マットは自分の目の前に居る存在を信じられない気持ちで見ていた。そこに居るのは、一匹の人の骨格を残した狼――人狼である。しかし問題はただの人狼ではない事、その存在が元は死んだはずの女、ナーシャ・ヒュイだった事だ。
(……だが奴の体から魔素が見当たらない)
ただの遺体の一つから突如として巨大な狼へと変貌したナーシャは、その異質な瞳……金色と赤が半分ずつ彩られた目でマットを見ては舌なめずりした。襲いかかる気配はないが、涎を零している様子を見てマットは嫌悪感に眉をしかめる。どういう訳か、周りの蘇った死体たちもつい先ほどまでの獰猛さは控え、襲いかかっては来なくなっていた。
自分の持っている盾は白銀の光沢に混じり相手の姿を映し、辺りの血もそのままだ。そして、自分の鼻の上に乗っているはずの眼鏡もそのままだった。そこまで確認してマットは顔を上げた。
(少なくとも、奴らは幻影ではない。そして、こちらが魔素を探知できる手段も失った訳ではない)
再び目の前の動く遺体――リビングデッドに囲まれている人狼を睨む。
「マットさん……!」
そんな中、不安げな声に自分を呼ぶ声にマットは警戒を解かないまま後ろを確認した。負傷者は全部で三人、傷は腹部や腕や足と複数個所に及び、簡単に動けそうにはない。内一人は怪我を負っていなかったため救援を呼ぶように逃がした。もう一人は手当てのためと残っていたがに残っていたが、回復が追い付かない――そう悟っているのか、その表情には焦りと不安が浮き出ていた。
「大丈夫だ、そのままお前は回復に充てていろ。俺がなんとかする」
「はっ……はいッ!」
声を震わせずに叱咤をするマットの言葉に多少は安心したのか、兵士は再び手に力を籠めて回復魔法をかけ続けた。淡い光が傷に触れていくが、傷の塞がりは遅い。傷にかざしている手は緊張からか恐怖からか、震えが止まる気配はなかった。
そこまで見た上でマットは目の前の存在へと向き直った。何がおかしいのか、人狼は狼の顔でも分かるくらいに底意地の悪い笑みを浮かべていた。その、人を卑下するような笑みにマットは不快さを覚える。
「何がおかしい」
「惨めに転がってる存在なんて放っておいていいじゃないの、あなたと比べたら価値なんかないわ」
つい出していた言葉に返答があると思わず、一瞬マットは驚きこそしたもののならばと言葉と続けた。相手がどういう存在かは不明だが、時間稼ぎに話し続けていれば救援が間に合うかもしれない。
見た目は狼とも人とも取れない、上半身だけが膨張し醜悪にも思える姿にも関わらず、意外にもその口から出たのは言葉を舌で転がすような、明らかに場違いな女の艶めいた甘ったるい声だった。
「ねぇ、マット」
己の名前を口の中で転がした後、品定めでもしているかのような目を向けられる。真意は分からないが、そんな目を向けられても良い気などしない。マットは苛立ったように「黙れ」と吐き捨てた。
「お前に名を呼ばれる筋合いはないぞ。一体どうやって入り込んだかは知らんが、この聖騎士団本部に入り込むなど命知らずにも程がある。攻め落とせるとでも思ったか」
「いやねぇ、攻め落とす気ならあなたが来る前にその子達、全員殺してたわよ」
「ひっ……!」
人狼の言葉に、治療していた兵士が思わずと言った様子で顔を上げた。震え、相手の反応を窺うよう縮こまっている兵士に、人狼は今度こそ声を上げて笑い出す。
「アハハッ――! ねぇ、マット、今の聞いた? ひっ、ですって。そんな臆病さでよく聖騎士団をやれて――」
「大丈夫だ。逃げずに残っている時点でお前はよくやってる。治療を続けろ」
人狼の嘲笑混じりの言葉を遮り、マットが声を掛けた。そして、一歩踏み込む。剣先を構え、銅色の双眸はこれから切り裂く相手を見据える。その目に対して、人狼は笑みを引っ込めた。
「もういい。地獄へと落ちろ、死者を弄ぶ外道が」
時間稼ぎを考えては居たが、どうもこのように場をかき乱してくるような――底の読めない相手をこれ以上放置するのは妥当な考えとも思えなかった。覚悟を決め、マットは臨戦態勢に入る。敵意を向けられても人狼は涼しい顔をしていた。
「それは無理な相談だわ――だって、私、死なないもの」
そう鼻で笑い飛ばすと手を挙げる。すると遺体が一斉にマットの方へと襲い掛かって行った。背後で悲鳴が聞こえたが、マットは盾を大きく振り上げると光が盾へ集まり、やがて十字架の形へと変わっていく。
「――<聖なる導き手>!」
すると盾から解き放たれた光が、部屋全体を眩く包み込んだ。人狼は咄嗟に目を閉じ、顔を隠す。だが死者達の体は、焦げるような音と白い煙が立ち上り始め、悶え苦しむように頭を抱えて呻いたかと思えば――ふと力を全て無くしたかのようにその場へと倒れ込んだ。
「あら……」
光が晴れて見えた遺体の山に対し、人狼は意外そうな声を上げるだけで特に慌てふためく様子もなく、むしろ興味深そうに倒れた遺体の腕を持ち上げた。離せば、地面へ落ちる――そんな当たり前な事を確認した人狼は目を細めた。
「あなた――もしかして<聖痕>持ち?」
薄っすらと開いた口から赤く長い舌が尖った牙を舐めた。姿勢を低くし、腕を地へと付け、その姿は得物へと迫る狼そのものだ。再び盾を構え、マットは襲撃へと備えた。
――しかし、一瞬で人狼の顔がマットの目の前へと差し迫っていた。
(なッ――!?)
涎を零した牙が眼前を掠め、間一髪のところで攻撃は避ける事が出来た。その隙に右手に持っていた剣を振るう。態勢を多少反らしながらも放たれた鋭い斬撃を人狼は後ろへ大きく仰け反り、そのまま手を付けると大きく空中へ回りながら回避して見せた。
(……見えなかった!)
「なるほど――印があるのは左手だけなのね」
まだまだ余裕そうに人狼は笑いながら舌を出して見せた。先ほどと同じように駆け出すような体勢へと移る。それに気が付いて今度はマットが地面を蹴った。
「うぉおぉぉっ!!」
剣を振り上げて斬りかかって行こうとするも、人狼はまるで笑うかのように目を細め――またしてもマットの眼前から姿を消した。足音から探ろうにも音が聞こえない。
「ねぇ、人狼の有名な話は知ってるでしょう? 村人の誰かが人狼で、善人をフリをしながら夜を待って、一人ずつ喰らっていく――この場はもはや血で満たされ、死者の屍が転がる闇の舞台……<夜に招かれた者>以外は私の姿なんて見えないのよ」
笑い声混じりの女の声がまるで反響するかのように、部屋のあちこちから聞こえてくる。音を探ろうにも探れず、マットは辺りを見渡した。足音すら聞こえなければ、何かが動く気配もない。纏わりつくような気配に自分でも気が付かず汗が流れた。
(全く何の気配もなく姿を消すだと? 人狼にこんな能力はない――)
「マットさん後ろですっ!!」
沈黙を破るように兵士の叫びに似た声が聞こえ、振り向くと巨大な狼の口がマットの背後から首を狙っていた。
反射的に前に屈む事で躱し、盾が再び十字架の光を浮かべる。人狼に向かってかざしたが人狼は口端を上げて、マットの盾を思い切り蹴飛ばした。ただの蹴りとは思えない衝撃が盾からマットの腕へ、体へと伝わる。
「ぐっ――!」
重い鎧を纏った体が浮き上がったかと思えば飛ばされ、背から落ちて地面へと叩きつけられる。その体を守るはずの鎧が叩きつけられた事で、耳障りなほど激しい音を鳴らした。急いで体を起こそうとするが、握りしめていた盾が不自然に凹んでいるのを見て、マットは舌打ちをして盾を捨て、立ち上がると剣を両手で持ち構え直した。
「今度はもっと良い盾が貰えるといいわねぇ……次があればだけど」
「ほざけっ!」
しかし立て直して睨みつけたが、マットには違和感が残る。終始一貫して人狼の顔には余裕の表情が浮かんでいる。決定打がないのは互いに同じ、さらに――先ほどは最大の攻撃のチャンスだったにも関わらず相手は踏み込む事もせず、後ろに居る兵士達を人質に取る訳でもなく、襲う訳でもなく、笑みを浮かべてこちらを見つめている。
――これではまるで、あちらが時間稼ぎしているようではないか。
「貴様の狙いはなんだ?」
ふと頭に過った疑問が頭を引っ掻き回す……嫌な予感がする。そんな思いからか、口を衝いて出る言葉に、人狼はやはり値踏みするようなそんな視線を向けては狼の顔で笑うだけだった。
「そんな事、あなたが知ってどうなるの? だってもう――」
言葉の最中で人狼の姿が揺らぎ――そして三度消えた。
しかしマットの頬へと何かが流れ、それが頭上から落とされたのに気が付くとその頭目掛けて牙を向け……狼の口が大きく開かれているのが見えた――
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