118 / 147
連載
娘に弱い者は?
しおりを挟む
二人は地面を転がった拍子に外套が捲れ、素顔が晒される。
剣士の方は鋭い目付きの中年で、魔法使う者は優男といった風貌だった。
ん? この二人は⋯⋯
「パパ! リックに何てことするのよ!」
「いくらお父様でも許せません!」
そう。この二人はエミリアの父親であるイシュバル公爵とサーシャの父親のフェルト公爵だ。
俺もエミリアの婚約者として⋯⋯勇者パーティーの一員として何度か会ったことがあるけど、まさか公爵ともあろう人が、真っ昼間から襲撃してくるとは思わなかった。
けどよくよく考えてみると、これ程の実力者はこの世界では限られた人しかいない。
この世界では女神のように人外の能力を持つ七人は、七聖神と言われているのだ。そしてグランドダイン帝国にはその七聖神と呼ばれている者は三人いる。
現皇帝であり、戦えば何もない残らないと言われている虚空のエグゼルド、あらゆる剣技を使い騎士団長である剣聖イシュバル、全ての精霊魔法を使うことが出来ると言われている賢聖フェルト。
その内の二人と戦ったんだ。苦戦するのも仕方ないな。
そして何故俺を殺そうとしたのかも大体わかった。
二人は娘に凄く甘く、娘の近くをうろちょろする俺のことが目障りなんだ。
だから実力的に劣るエミリアとサーシャでも、二人を倒すことが出来たのだろう。
そういえばイシュバル公爵と初めて会った時のことを思い出した。
あの時は一言も喋らず、ずっと俺を視線で威圧していたな。
まあ結局エミリアに注意され、その後項垂れて機嫌が悪かったのを今でも覚えている。
「パパ! ほらリックに謝りなさい!」
「おお! エミリアが俺のことをパパと! 最近は父としか呼んでくれなかったのに!」
「バ、バッカじゃないの! でもこの後の態度次第では一生父とも呼ばなくなるわよ」
「わ、わかった! 謝ればいいんだろ。謝れば」
イシュバル公爵は頭を下げるとは言っているけど、不満だということが明らかにわかる。
「お父様もです! リック様に謝罪して下さい!」
「サーシャ⋯⋯わかったから首にナイフを当てるのをやめなさい。少し引くだけで血が吹き出して、パパは死んでしまうよ」
「血の気が多いから、少しくらい抜いた方がいいかもしれませんね」
「ひぃっ! その光がない目はやめなさい! ちゃんとリックくんに謝るから」
そしてフェルト公爵も頭を下げることに了承したが、表情からして嫌々だということがわかる。
「⋯⋯悪かったな」
「モウシワケアリマセンデシタ」
絶対悪いと思ってないよな。
この様子だとまた襲ってくると考えた方がよさそうだ。
しかし相手は公爵。納得いかなくてもこのまま謝罪を受け入れるしかない。
「はっ? それで謝罪のつもり?」
「お父様⋯⋯リック様に対して頭が高いですよ」
エミリアとサーシャもちちおや達の態度に納得いかなかったようだ。
二人に対してさらにプレッシャーをかける。
「まさか土下座しろっていうのか! グランドダイン帝国の公爵であるこの俺がこの小僧に!」
「サーシャ⋯⋯これでも私は七聖神と呼ばれていて、それなりの立場にいるんだよ」
「そんなこと私には関係ないわ。相手がどれだけ偉くても、私が謝罪しなさいと言ったら謝罪するのよ」
「お父様⋯⋯悪いことをしてしまったら、心から謝罪するのは当然のことですよ」
「それに私は例の件をまだ許してないから」
「くっ!」
この時エミリアが言葉にした例の件とは、リックとの婚約解消についてだ。
エミリアとしては、何としてでもリックとの婚約は解消したくなかった。しかしイシュバルはリックが勇者パーティーを抜けたことでいち早く動き、婚約を破棄させたのだ。
「お父様。私も皇帝陛下の暴走を止めて下さらなかったことを忘れていませんから」
「うっ!」
これはリックがスパイ容疑をかけられた時のことだ。この時フェルトは、娘のサーシャの意見を無視しして静観を決め込んだのだ。
「パパ!」
「お父様!」
「ち、ちくしょう!」
「何故このようなことに⋯⋯」
公爵達は娘から再度謝罪するように促され、悔しそうな表情をしながら、とうとうその汚れていない膝を、地面につける。
「「も、申し訳⋯⋯ありませんでした」」
そしてイシュバルとフェルトは、血の涙を流しながらこちらに向かって土下座をするのであった。
「くそっ! この屈辱忘れねえからな」
「月のない夜には気をつけたまえ」
確実に反省してないよな。
次襲われてもいいようにもっと強くなっておこう。
こうして俺はエミリアとサーシャのおかげで九死に一生を得ることが出来たが、父親達が何を考えているかわからないため、まだまだ予断は許さない状況であった。
剣士の方は鋭い目付きの中年で、魔法使う者は優男といった風貌だった。
ん? この二人は⋯⋯
「パパ! リックに何てことするのよ!」
「いくらお父様でも許せません!」
そう。この二人はエミリアの父親であるイシュバル公爵とサーシャの父親のフェルト公爵だ。
俺もエミリアの婚約者として⋯⋯勇者パーティーの一員として何度か会ったことがあるけど、まさか公爵ともあろう人が、真っ昼間から襲撃してくるとは思わなかった。
けどよくよく考えてみると、これ程の実力者はこの世界では限られた人しかいない。
この世界では女神のように人外の能力を持つ七人は、七聖神と言われているのだ。そしてグランドダイン帝国にはその七聖神と呼ばれている者は三人いる。
現皇帝であり、戦えば何もない残らないと言われている虚空のエグゼルド、あらゆる剣技を使い騎士団長である剣聖イシュバル、全ての精霊魔法を使うことが出来ると言われている賢聖フェルト。
その内の二人と戦ったんだ。苦戦するのも仕方ないな。
そして何故俺を殺そうとしたのかも大体わかった。
二人は娘に凄く甘く、娘の近くをうろちょろする俺のことが目障りなんだ。
だから実力的に劣るエミリアとサーシャでも、二人を倒すことが出来たのだろう。
そういえばイシュバル公爵と初めて会った時のことを思い出した。
あの時は一言も喋らず、ずっと俺を視線で威圧していたな。
まあ結局エミリアに注意され、その後項垂れて機嫌が悪かったのを今でも覚えている。
「パパ! ほらリックに謝りなさい!」
「おお! エミリアが俺のことをパパと! 最近は父としか呼んでくれなかったのに!」
「バ、バッカじゃないの! でもこの後の態度次第では一生父とも呼ばなくなるわよ」
「わ、わかった! 謝ればいいんだろ。謝れば」
イシュバル公爵は頭を下げるとは言っているけど、不満だということが明らかにわかる。
「お父様もです! リック様に謝罪して下さい!」
「サーシャ⋯⋯わかったから首にナイフを当てるのをやめなさい。少し引くだけで血が吹き出して、パパは死んでしまうよ」
「血の気が多いから、少しくらい抜いた方がいいかもしれませんね」
「ひぃっ! その光がない目はやめなさい! ちゃんとリックくんに謝るから」
そしてフェルト公爵も頭を下げることに了承したが、表情からして嫌々だということがわかる。
「⋯⋯悪かったな」
「モウシワケアリマセンデシタ」
絶対悪いと思ってないよな。
この様子だとまた襲ってくると考えた方がよさそうだ。
しかし相手は公爵。納得いかなくてもこのまま謝罪を受け入れるしかない。
「はっ? それで謝罪のつもり?」
「お父様⋯⋯リック様に対して頭が高いですよ」
エミリアとサーシャもちちおや達の態度に納得いかなかったようだ。
二人に対してさらにプレッシャーをかける。
「まさか土下座しろっていうのか! グランドダイン帝国の公爵であるこの俺がこの小僧に!」
「サーシャ⋯⋯これでも私は七聖神と呼ばれていて、それなりの立場にいるんだよ」
「そんなこと私には関係ないわ。相手がどれだけ偉くても、私が謝罪しなさいと言ったら謝罪するのよ」
「お父様⋯⋯悪いことをしてしまったら、心から謝罪するのは当然のことですよ」
「それに私は例の件をまだ許してないから」
「くっ!」
この時エミリアが言葉にした例の件とは、リックとの婚約解消についてだ。
エミリアとしては、何としてでもリックとの婚約は解消したくなかった。しかしイシュバルはリックが勇者パーティーを抜けたことでいち早く動き、婚約を破棄させたのだ。
「お父様。私も皇帝陛下の暴走を止めて下さらなかったことを忘れていませんから」
「うっ!」
これはリックがスパイ容疑をかけられた時のことだ。この時フェルトは、娘のサーシャの意見を無視しして静観を決め込んだのだ。
「パパ!」
「お父様!」
「ち、ちくしょう!」
「何故このようなことに⋯⋯」
公爵達は娘から再度謝罪するように促され、悔しそうな表情をしながら、とうとうその汚れていない膝を、地面につける。
「「も、申し訳⋯⋯ありませんでした」」
そしてイシュバルとフェルトは、血の涙を流しながらこちらに向かって土下座をするのであった。
「くそっ! この屈辱忘れねえからな」
「月のない夜には気をつけたまえ」
確実に反省してないよな。
次襲われてもいいようにもっと強くなっておこう。
こうして俺はエミリアとサーシャのおかげで九死に一生を得ることが出来たが、父親達が何を考えているかわからないため、まだまだ予断は許さない状況であった。
56
お気に入りに追加
4,690
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます
兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。