上 下
115 / 147
連載

返り討ち

しおりを挟む
 俺の後を尾行してきた。
 狙いは俺か⋯⋯それともノノちゃんとリリが領主館に入ったため、追跡不可能と考えて、一緒にいる俺への尾行に切り替えたか。
 どちらにせよ俺の跡をつけてくるなら好都合だ。
 誰もいない場所へと連れて行き、返り討ちにしてやる。

 俺は追跡者を気にしつつ、東門から街の外へと向かう。
 追跡者はただ俺の動向を探りたいのか、それとも俺の命を奪いたいのか。もし後者なら今は辺りに人気はなく、周囲は林や大きな岩に囲まれており、襲撃の絶好のチャンスだ。

「死ね!」

 俺はより周囲を警戒していると、突如追跡者が背後から襲ってきた。
 武器は細身の剣。狙いは心臓。間違いなく俺を抹殺するための攻撃だ。

 俺はカゼナギの剣を使って攻撃を弾く。

「お、重い⋯⋯細身の剣なのになんて威力と鋭さだ!」

 これなら武器が折れてしまうのでは?
 いや、今気にするのはそんなことじゃない。
 わかってしまったのだ。
 今の一撃で力もスピードも剣の鋭さも、全てエミリアより上だということが。

「クラス2旋風フウァールウインド創聖魔法ジェネシスとクラス2烈火レイジングファイア創聖魔法ジェネシス

 俺は瞬時に力とスピードの強化魔法を自身にかけ、動体視力強化と反射神経強化スキルを使い、自分の能力を全開にする。

 まずいまずい! 誘きだしたつもりだったが、逆に誘きだされたか!
 まさかエミリア以上の手練れが現れるなんて、想定していなかった。
 しかも最悪なことはこれだけじゃない。

「ちっ! 仕留めそこなったか!」
「どこの誰だか知らないけど物騒じゃないですか」
「殺すつもりだったから問題ない」

 問題大有りだ!
 だが今は会話をして、その内に相手の能力を確認する。

「こちらとしては恨まれる覚えはないけど、あなたは誰なんですか?」

 俺は話ながら目の前の相手に鑑定を使った。

 ん? 何も出てこない。
 もう一度俺は鑑定のスキルを使う。
 しかし結果は同じで、目の前の相手の能力を見ることが出来なかった。

 どういうことだ? 鑑定のスキルをちゃんと使えてないのか?

「どうした? 能力が見れなくて困っているといった所か?」
「えっ?」
「ある人物からお前は⋯⋯貴様は⋯⋯いや、クズ野郎は人の能力が見れるんじゃないかと指摘があってな」
「へえ、俺はそんな凄い能力が使えると思われているのか」

 俺は鑑定が通じないことに衝撃を受けるが、動揺していることを見破られないため、ポーカーフェイスに徹する。
 何故この男はそのことを⋯⋯俺の能力に関しては限られた人物しかしらないはず。
 そしてこの男は凄く俺に恨みを抱いているようだ。尾行の狙いが二人じゃないことに安心したけどクズ野郎とまで言われるとは。
 どうして俺のことを憎んでいるのか気になるが、今はそのことより目の前とのピンチを何とかしなければ。

 突然背後から何かが飛んで来たので、俺は反射的に避ける。

「ほう⋯⋯今のタイミングをかわすとは」

 どうやら俺の後頭部目掛けて、水の矢を放ったようだ。

 そう⋯⋯追跡者は初めから二人いたのだ。

「お前が絶対に上手く行くっていうから協力してやったのに、失敗したじゃねえか」
「どうやら我々が思っているより簡単に行かなそうですね。ちなみにどうして私の存在に気づいたのか聞いてもいいかい」
「ええ。そちらの剣を持っている大柄の男性の尾行が、あまりにもわかりやすかったので」

 俺は応えながら後ろ歩きでこの場を離れる。
 さすがに前後挟まれた状態で、この二人と戦うことは得策じゃない。
 先程の矢は、おそらく水矢魔法ウォーターアロー。一本しかなかったが威力が凝縮されていて食らったら最後、俺は死んでいただろう。この人も相当の手練れだということがわかる。

「たぶんこれは囮で他にもいるだろうなと思っていました」

 俺は背後から現れた人物に鑑定を使う。
 だけど先程と同じ様に能力を見ることが出来なかった。
 くそっ! 何故鑑定が効かないんだ。
 しかしわかったこともある。
 二人とも隠すつもりはないのか、声が低く中年くらいの男性だということだ。

「ふむふむ。だから私の攻撃が来ることを読んでいたというわけか。中々やるじゃないか」
「褒めてどうするだ! どうせこいつはこの後死ぬ。強かろうと弱かろうと関係ない」
「俺が二人を倒すかもしれませんよ」
「へえ⋯⋯言うじゃねえか」
「ではそれが口先だけかどうか試させてもらいますよ」

 そして剣を持った男が、意気揚々とこちらに迫ってくるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。