上 下
112 / 147
連載

余計な一言は寿命を縮める

しおりを挟む
「あ、危なかった」

 ミーティアレインに耐えることが出来なかったのか、砕けた。
 そういえば元々エミリアの剣はボロボロになっていたな。
 もしあの時新しい武器を買っていたら⋯⋯考えたくもない。

「運が良かったわね。もしここで見たことを誰かに話したらどうなるか⋯⋯わかってるわね」

 俺は激しく首を縦に振る。

 エミリアの可愛い姿を見れたが、それは触れてはいけない秘密だったようだ。

「良い心がけね。少しでも迷った素振りを見せたら、何をするかわからなかったわ」

 こわっ!
 とても昨日のドMだったエミリアと同じ人物だとは思えないぞ。
 そうだ。エミリアは昨日のことは覚えてないのか?
 見た限りだといつもと変わらない様子だけど⋯⋯

「一つだけ聞いてもいいかな」
「何よ。猫のことは喋らないわよ」
「いや、昨日の宴会のことだけど」
「宴会のこと? 何かあったの? 残念だけどお酒を飲んだ後から記憶がないのよね」
「そ、そうなんだ」

 出たよ。サーシャと同じ覚えていないパターンだ。
 酒を飲むと記憶がなくなるなら、飲まないでくれと言いたい所だけど、今の殺気立ったエミリアにそんなことを言う勇気はない。

「それじゃ俺は行くけど最後に後一つだけ」
「何?」
「猫と会話している時に言っていた、エミリアの触りたい人って誰なんだ?」
「ニャッ!」

 ニャッ?

「リ、リック! 話すなって行った先から口にするなんて良い度胸ね」
「いや、これはエミリア本人だからいいのかなって⋯⋯」

 ひぃっ! エミリアが滅茶苦茶怒っている。
 少し気になったから聞いてみたが、やぶ蛇だったようだ。

「やっぱり人って痛い目をみないとわからないようね」
「そ、そんなことはない。人には対話という素晴らしい文化があるじゃないか」

 エミリアはジリジリと距離を詰めてきており、このままだと俺がひどい目に遇うことは確実だ。
 もうエミリアの歩みは止められない。
 エミリアは俺より足が速い。普通に逃げたら追いつかれるのは目に見えている。
 こうなったら実力行使で!

 俺は左手に魔力を集める。

「クラス4闇霧ダークミスト創聖魔法ジェネシス

 そして創聖魔法を唱えると黒い霧が一瞬で周囲に広がり、目の前が暗闇に包まれて視界が悪くなる。

「こ、これは皇帝陛下と戦っていた時に使った魔法!?」
「それじゃあ俺は用があるんで!」

 周囲は黒い霧に包まれているので、エミリアは迂闊に走ることは出来ないはずだ。
 俺は数年間この領主館で過ごしていた経験から、どこに何があるか覚えている。そしてカゼナギの剣を使って俺の周囲に軽く風を起こし、視界を確保した。

「リック待ちなさい! 絶対に許さないわよ!」
「待てと言われて待つバカはいない」
「バカ? この私のことをバカって言ったわね!」

 益々エミリアが怒ってしまった。これはもう絶対に捕まるわけにはいかない。

「確かこっちの方から気配が⋯⋯」

 やばいやばい。エミリアは一流の剣士だ。
 霧が辺りを覆っている間に、この場から退散しないと。
 俺はエミリアから逃げるため、この後気配を消して領主館の外へと逃げるのであった。

 そして領主館の入口にて。

「おお、リック殿」

 俺はエミリアの怒りが収まるまで、街に退避しようと考えていた所をウィスキー侯爵に話かけられた。
 朝早い時間だけど、ウィスキー侯爵にはドルドランドでの滞在中は、この領主館で過ごしてもらっているから、おかしな話ではない。

「そろそろ領地に戻ろうと思って探していた。今日にでも荒くれ者達を引き取るために、帝都から人が来るしな」

 さすがに千を越える犯罪者達を、いつまでもドルドランドで面倒を見るわけにはいかない。そのためこの荒くれ者達は、大人数を閉じ込めておける帝都へと輸送されることになった。

「すみません。色々お手数をおかけしてしまって」
「いやいや。最近鉱山で働く犯罪者達が少なくなったと聞いていたので、ちょうど良かった」
「そう言って頂けると助かります」

 この国の刑罰は、軽い罪なら鉱山でしばらく無償で働くのが主流となっている。そしてもちろん重い罰を犯した者は死罪だ。
 おそらくクーソやその一族は打ち首を免れないだろう。

「それで領地に戻る前に、どうしてもリック殿と話がしたくてな」
「それはどのようなご用件でしょうか」
「実はリック殿に頼みたいことが――」

 そしてウィスキー侯爵は少し興奮した様子で、口を開くのであった。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。