108 / 147
連載
トラウマ
しおりを挟む
「サーシャは相手を傷つけるのが嫌なんじゃないか?」
俺の問いかけにサーシャは目を見開く。
どうやら間違っていないようだ。
「⋯⋯はい。リック様のおっしゃる通りです。実は四年前にドルドランドでリック様に助けて頂いた後、精霊魔法を習い始めたのですが⋯⋯そ、その時にコ、コントロール出来なくて⋯⋯子供に怪我を⋯⋯」
サーシャは震えながら自分を抱きしめ、掠れた声で言葉を振り絞る。
魔法を制御出来なくて暴走させ、子供に撃ってしまったということか。
心優しいサーシャに取っては堪えられない出来事だろう。
「幸い子供に命の別状はなく、後遺症もありませんでしたが⋯⋯あ、あの時の光景は今でも覚えています」
もしかしてそのことが心の中でトラウマになっており、本来の力が出せないのかもしれない。
四年経っても改善が見られないなら、これからもずっと変わらない可能性があるな。
サーシャの優しさが仇になるとは。
だけど何故苦しい想いをしてでも、サーシャは⋯⋯
「精霊魔法使いを辞めようとは思わなかったのか?」
俺は疑問に思ったことをサーシャに問いかける。
子供を傷つけたことを忘れることが出来ないなら、魔法を使うのを辞める選択肢もあったはずだ。
だけどサーシャはその後、勇者パーティーに入るまでに至っている。
「⋯⋯負けたくないからです⋯⋯エミリアに」
納得がいく理由だった。二人は仲が悪いからな。
ライバルには負けたくないという気持ちはわからなくもないが。
「どのようなことでも器用にこなし、特に剣に関しては天才ですから。そのようなエミリアに私が勝てるものは精霊魔法しか⋯⋯」
確かにエミリアの剣術は天才だ。だけど使っている武器を見る限り間違いなく⋯⋯
「エミリアは確かに何で出来る。でもそれは⋯⋯」
「わかってます。エミリアは陰で努力していることを」
「知ってたんだ」
「はい。以前から何となくわかっていましたが、ドルドランドに来て確信に変わりました。毎日隠れて剣の稽古をしているようですね。おそらく本人に指摘しても絶対に認めないと思いますが」
「確かにプライドが高いから努力しているなんて言わないだろうな」
サーシャとしては、エミリアが努力しているからこそ、自分も努力で負けたくないと思っているのかもしれない。
でもこのまま精霊魔法を使い続けてもいいのだろうか?
俺はサーシャのために何も出来ないのか?
今のサーシャは少しだけ以前の俺と似ている。それなら⋯⋯
「実は俺⋯⋯初めて人を、盗賊の命を奪った時に震えが止まらなかったんだ」
「それは⋯⋯私はまだその経験はありませんが、人間として当たり前のことだと思います。何も考えず命を奪うような人を私は軽蔑します」
サーシャもルナさんと同じような考えを持っているな。
「その時は例え悪人でも、人を殺したことに罪悪感や自責の念が押し寄せて来て苦しかった」
「ですがリック様は乗り越えられたのですよね? よろしければその方法を教えて頂いけないでしょうか」
「俺は⋯⋯自分が行動しなかったせいで、大切な人の命を守ることが出来ないなんて嫌だって思った」
「大切な人の命を⋯⋯守れない⋯⋯」
(今思い出しました。そういえばあの時は無我夢中で気づきませんでしたが、この四年間で一度だけ躊躇いなく魔法を使ったことを。誘いの洞窟で一人取り残されるリック様を助けに向かった際、あの時の私は確かに強い魔法が使えた。だから心の問題を解決すればきっと⋯⋯)
「だからサーシャも大切な人がいるなら、その人のことを想いながら戦ってみたらどうかな。そうすればもしかしたら過去のトラウマを乗り越えられるかもしれない」
「⋯⋯わかりました。やってみます」
参考になったかわからないけど、話をする前と比べてサーシャの目の色が変わったように見える。
「ち、ちなみにお聞きしたいのですが、リック様の大切な人の中に私は入っているのでしょうか」
「もちろん入っているよ。だからサーシャが困っている時は必ず助けに行くよ。誘いの洞窟でサーシャが俺を助けてくれたように」
「わ、私もリック様が窮地に立たされている時には、必ず助けに向かいます!」
「ありがとう」
何だか改めて口にするのは少し気恥ずかしいな。
サーシャも俺と同じなのか顔が真っ赤になっていた。
「そ、それと精霊魔法についてだけど」
心の問題はすぐには解決しないけど、サーシャの魔法が上達するためにはまだやれることはある。
そのため俺はある提案をサーシャにするのであった。
俺の問いかけにサーシャは目を見開く。
どうやら間違っていないようだ。
「⋯⋯はい。リック様のおっしゃる通りです。実は四年前にドルドランドでリック様に助けて頂いた後、精霊魔法を習い始めたのですが⋯⋯そ、その時にコ、コントロール出来なくて⋯⋯子供に怪我を⋯⋯」
サーシャは震えながら自分を抱きしめ、掠れた声で言葉を振り絞る。
魔法を制御出来なくて暴走させ、子供に撃ってしまったということか。
心優しいサーシャに取っては堪えられない出来事だろう。
「幸い子供に命の別状はなく、後遺症もありませんでしたが⋯⋯あ、あの時の光景は今でも覚えています」
もしかしてそのことが心の中でトラウマになっており、本来の力が出せないのかもしれない。
四年経っても改善が見られないなら、これからもずっと変わらない可能性があるな。
サーシャの優しさが仇になるとは。
だけど何故苦しい想いをしてでも、サーシャは⋯⋯
「精霊魔法使いを辞めようとは思わなかったのか?」
俺は疑問に思ったことをサーシャに問いかける。
子供を傷つけたことを忘れることが出来ないなら、魔法を使うのを辞める選択肢もあったはずだ。
だけどサーシャはその後、勇者パーティーに入るまでに至っている。
「⋯⋯負けたくないからです⋯⋯エミリアに」
納得がいく理由だった。二人は仲が悪いからな。
ライバルには負けたくないという気持ちはわからなくもないが。
「どのようなことでも器用にこなし、特に剣に関しては天才ですから。そのようなエミリアに私が勝てるものは精霊魔法しか⋯⋯」
確かにエミリアの剣術は天才だ。だけど使っている武器を見る限り間違いなく⋯⋯
「エミリアは確かに何で出来る。でもそれは⋯⋯」
「わかってます。エミリアは陰で努力していることを」
「知ってたんだ」
「はい。以前から何となくわかっていましたが、ドルドランドに来て確信に変わりました。毎日隠れて剣の稽古をしているようですね。おそらく本人に指摘しても絶対に認めないと思いますが」
「確かにプライドが高いから努力しているなんて言わないだろうな」
サーシャとしては、エミリアが努力しているからこそ、自分も努力で負けたくないと思っているのかもしれない。
でもこのまま精霊魔法を使い続けてもいいのだろうか?
俺はサーシャのために何も出来ないのか?
今のサーシャは少しだけ以前の俺と似ている。それなら⋯⋯
「実は俺⋯⋯初めて人を、盗賊の命を奪った時に震えが止まらなかったんだ」
「それは⋯⋯私はまだその経験はありませんが、人間として当たり前のことだと思います。何も考えず命を奪うような人を私は軽蔑します」
サーシャもルナさんと同じような考えを持っているな。
「その時は例え悪人でも、人を殺したことに罪悪感や自責の念が押し寄せて来て苦しかった」
「ですがリック様は乗り越えられたのですよね? よろしければその方法を教えて頂いけないでしょうか」
「俺は⋯⋯自分が行動しなかったせいで、大切な人の命を守ることが出来ないなんて嫌だって思った」
「大切な人の命を⋯⋯守れない⋯⋯」
(今思い出しました。そういえばあの時は無我夢中で気づきませんでしたが、この四年間で一度だけ躊躇いなく魔法を使ったことを。誘いの洞窟で一人取り残されるリック様を助けに向かった際、あの時の私は確かに強い魔法が使えた。だから心の問題を解決すればきっと⋯⋯)
「だからサーシャも大切な人がいるなら、その人のことを想いながら戦ってみたらどうかな。そうすればもしかしたら過去のトラウマを乗り越えられるかもしれない」
「⋯⋯わかりました。やってみます」
参考になったかわからないけど、話をする前と比べてサーシャの目の色が変わったように見える。
「ち、ちなみにお聞きしたいのですが、リック様の大切な人の中に私は入っているのでしょうか」
「もちろん入っているよ。だからサーシャが困っている時は必ず助けに行くよ。誘いの洞窟でサーシャが俺を助けてくれたように」
「わ、私もリック様が窮地に立たされている時には、必ず助けに向かいます!」
「ありがとう」
何だか改めて口にするのは少し気恥ずかしいな。
サーシャも俺と同じなのか顔が真っ赤になっていた。
「そ、それと精霊魔法についてだけど」
心の問題はすぐには解決しないけど、サーシャの魔法が上達するためにはまだやれることはある。
そのため俺はある提案をサーシャにするのであった。
80
お気に入りに追加
4,757
あなたにおすすめの小説
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。