104 / 147
連載
ドルドランドの長い夜(14)
しおりを挟む
まず創聖魔法で造ったスープを鍋に入れる。
中火で温めて沸騰したら白菜の芯、カニの爪、カニ肩肉を投入。
白菜の芯の部分が柔らかくなったら、ネギとキノコを入れ、八割がた煮えてきたら、カニ足と白身魚を入れる。
そして少し煮て完成だ。
この時煮すぎてしまうと白身魚が崩れてしまうので、注意が必要だ。
カニは意外にも身だけ取って熱しても、形が崩れないのは幸いだったな。
俺は出来たものをウィスキー侯爵と仲間達によそい、まずは味見をしてもらう。
「これはスープか? だがあまり嗅いだことのない匂いだ」
「でもいい匂いです」
「食べれば美味しいかどうかわかるわ」
「お兄ちゃん、これはなんていう料理なの?」
「これはカニ鍋っていうんだ。美味しいかどうか食べてみて感想を聞かせて欲しいな」
そして皆、まずはカニの身から手をつけ始める。
どちらかというとこの世界は洋風の食べ物の方が多いから、この和風の鍋が口に合うか⋯⋯
俺はドキドキしながら皆の様子を窺う。
「こ、これは⋯⋯」
「ぷりぷりとした食感に磯の香りがして、すごく美味しいです!」
「甘味もあって上品な味⋯⋯スープの味も絡んで最高に旨いわ!」
そうだろうそうだろう。このスープは前世の世界でも大変世話になった鍋つゆだ。
これ一つで出汁も取らずに鍋つゆが出来るなんて、人類の革新的発明だと言っても過言ではないだろう。
「カニさんって可愛いのに美味しいね! ノノ、こんなに美味しい食べ物食べたことないよ!」
「旨い⋯⋯旨い⋯⋯旨い⋯⋯」
ノノちゃんは笑顔で、そしてあのリリでさえ一心不乱にカニ鍋を食べている。
これはかなり気に入ってもらえたと思って間違いないだろう。
「それでは皆さんも食べて下さい」
そして俺はこの場を離れ、カニ鍋を皆が上手く作れているか周囲を回り始める。
中には材料を入れる順番が違う人達もいるが、俺は鍋奉行ではないので特に指摘することはしない。
しかし兵士達の中に、料理にこだわりがある者がいたようで、カニ鍋の作り方に文句を言っている人がいた。
「だ~か~ら~さっきのみてなかったのか⋯⋯ヒック⋯⋯入れる順番が
⋯⋯ヒック⋯⋯大切なんだよぉぉぉ」
テッド、お前かよ。
テッドは既に酒で酔っぱらっているようで、イチャモンをつけるめんどくさい奴になっていた。
「はいここ! ここで⋯⋯ヒック⋯⋯カニの足を投入!」
しかもまだ鍋つゆが煮たっていないのに、いきなりカニを入れ始めた。
「さらに全ての材料を⋯⋯ヒック⋯⋯ドボン」
周りの兵士達から何をするんだと怒りの声が上がる。
そしてついにはテッドと兵士達による、軽いいざこざが起こってしまう。
これは近づくと面倒なことに巻き込まれそうだな。
俺はテッドに話しかけられないように気配を消して、この場を離脱した。
嫌だ嫌だ。酔っぱらって奇行に走り、周囲に迷惑をかけるなんて最低だ。
それなら初めから酒など飲まなければいいのにと思ってしまう。
ん? 酒? 酔っぱらい?
何故かこの二つのキーワードが、俺の頭の中から離れなかった。
「何かを忘れているような⋯⋯はっ!」
お、思い出した。俺は何故とても重要なことを、今の今まで忘れていたのだろう。
俺は直ぐに先程までカニ鍋を作っていた場所へと戻る。
するとそこには、食事をしているノノちゃんとリリの姿があった。
「あれ? お兄ちゃん慌ててどうしたの?」
「うま⋯⋯うま⋯⋯うま」
しかし既にそこには、目的の人物達は見当たらなかった。
い、いない。いったいどこに行ったのか。これだけの人数いる中で探すのは骨が折れる。
ここは探知スキルを使って探した方が早いな。
俺はすぐに探知スキルを使うと、南西二百メートルの所に座っている二人を見つけた。
これは早く向かった方が良さそうだ。何故なら二人の側にはいくつもの⋯⋯
「ちょっと人を探していてね。出来ればノノちゃんとリリはここでカニ鍋を食べてて欲しいなあ」
「うん。よくわからないけどわかったよ」
「うまー」
リリはうまとして言ってないが、俺の言うことを聞いてくれそうだ。
そして俺は、目的の人物達の元へと向かい到着したが、間に合わなかった。
何故なら二人の足元には、既にいくつもの空のジョッキが転がっていたからだ。
中火で温めて沸騰したら白菜の芯、カニの爪、カニ肩肉を投入。
白菜の芯の部分が柔らかくなったら、ネギとキノコを入れ、八割がた煮えてきたら、カニ足と白身魚を入れる。
そして少し煮て完成だ。
この時煮すぎてしまうと白身魚が崩れてしまうので、注意が必要だ。
カニは意外にも身だけ取って熱しても、形が崩れないのは幸いだったな。
俺は出来たものをウィスキー侯爵と仲間達によそい、まずは味見をしてもらう。
「これはスープか? だがあまり嗅いだことのない匂いだ」
「でもいい匂いです」
「食べれば美味しいかどうかわかるわ」
「お兄ちゃん、これはなんていう料理なの?」
「これはカニ鍋っていうんだ。美味しいかどうか食べてみて感想を聞かせて欲しいな」
そして皆、まずはカニの身から手をつけ始める。
どちらかというとこの世界は洋風の食べ物の方が多いから、この和風の鍋が口に合うか⋯⋯
俺はドキドキしながら皆の様子を窺う。
「こ、これは⋯⋯」
「ぷりぷりとした食感に磯の香りがして、すごく美味しいです!」
「甘味もあって上品な味⋯⋯スープの味も絡んで最高に旨いわ!」
そうだろうそうだろう。このスープは前世の世界でも大変世話になった鍋つゆだ。
これ一つで出汁も取らずに鍋つゆが出来るなんて、人類の革新的発明だと言っても過言ではないだろう。
「カニさんって可愛いのに美味しいね! ノノ、こんなに美味しい食べ物食べたことないよ!」
「旨い⋯⋯旨い⋯⋯旨い⋯⋯」
ノノちゃんは笑顔で、そしてあのリリでさえ一心不乱にカニ鍋を食べている。
これはかなり気に入ってもらえたと思って間違いないだろう。
「それでは皆さんも食べて下さい」
そして俺はこの場を離れ、カニ鍋を皆が上手く作れているか周囲を回り始める。
中には材料を入れる順番が違う人達もいるが、俺は鍋奉行ではないので特に指摘することはしない。
しかし兵士達の中に、料理にこだわりがある者がいたようで、カニ鍋の作り方に文句を言っている人がいた。
「だ~か~ら~さっきのみてなかったのか⋯⋯ヒック⋯⋯入れる順番が
⋯⋯ヒック⋯⋯大切なんだよぉぉぉ」
テッド、お前かよ。
テッドは既に酒で酔っぱらっているようで、イチャモンをつけるめんどくさい奴になっていた。
「はいここ! ここで⋯⋯ヒック⋯⋯カニの足を投入!」
しかもまだ鍋つゆが煮たっていないのに、いきなりカニを入れ始めた。
「さらに全ての材料を⋯⋯ヒック⋯⋯ドボン」
周りの兵士達から何をするんだと怒りの声が上がる。
そしてついにはテッドと兵士達による、軽いいざこざが起こってしまう。
これは近づくと面倒なことに巻き込まれそうだな。
俺はテッドに話しかけられないように気配を消して、この場を離脱した。
嫌だ嫌だ。酔っぱらって奇行に走り、周囲に迷惑をかけるなんて最低だ。
それなら初めから酒など飲まなければいいのにと思ってしまう。
ん? 酒? 酔っぱらい?
何故かこの二つのキーワードが、俺の頭の中から離れなかった。
「何かを忘れているような⋯⋯はっ!」
お、思い出した。俺は何故とても重要なことを、今の今まで忘れていたのだろう。
俺は直ぐに先程までカニ鍋を作っていた場所へと戻る。
するとそこには、食事をしているノノちゃんとリリの姿があった。
「あれ? お兄ちゃん慌ててどうしたの?」
「うま⋯⋯うま⋯⋯うま」
しかし既にそこには、目的の人物達は見当たらなかった。
い、いない。いったいどこに行ったのか。これだけの人数いる中で探すのは骨が折れる。
ここは探知スキルを使って探した方が早いな。
俺はすぐに探知スキルを使うと、南西二百メートルの所に座っている二人を見つけた。
これは早く向かった方が良さそうだ。何故なら二人の側にはいくつもの⋯⋯
「ちょっと人を探していてね。出来ればノノちゃんとリリはここでカニ鍋を食べてて欲しいなあ」
「うん。よくわからないけどわかったよ」
「うまー」
リリはうまとして言ってないが、俺の言うことを聞いてくれそうだ。
そして俺は、目的の人物達の元へと向かい到着したが、間に合わなかった。
何故なら二人の足元には、既にいくつもの空のジョッキが転がっていたからだ。
80
お気に入りに追加
4,741
あなたにおすすめの小説
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」
サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。